血圧の薬+市販の痛み止めが引き起こす「三重の危険」とその防ぎ方
日本で年間約6億錠が消費される、ロキソニン。
実家に帰省したとき、
居間のテーブルや薬箱に、見慣れた箱がポンと置いてありませんでしたか?
「最近、膝が痛くてね」「頭痛持ちだから」——。
処方箋なしで買えて、よく効くからと、
親が長年使い慣れている市販の痛み止め。
「危ない薬」とは、とても思えないかもしれません。
だけどもし、
自分の親が何気なく飲んでいるその一錠が、
腎臓を静かに壊しているとしたら——。
これは「薬の飲みすぎに気をつけよう」という話ではありません。
持病の薬を真面目に飲んでいる高齢の親が、
気づかないうちに自らの腎臓を傷つけているという話です。
離れて暮らすあなたにこそ、今日この情報を届けたい。
ある日、巾着の中から出てきた「市販薬」
腎臓と向き合うきっかけになった、忘れられない場面があります。
ある患者さんが、突然体調を崩して入院してきました。
検査の結果は急性腎不全。
腎臓の機能が急激に低下している状態でした。
かかりつけ医で長年処方を受けており、
お薬手帳には3種類の薬が記録されていました。
血圧を下げる薬が2種類(ARBと利尿薬)、
それにコレステロールを下げる薬。
どれも丁寧に管理された、問題のない処方だった。
原因はなんだろう?
薬を一つひとつ確認していた、そのとき。
荷物の中の、小さな巾着から——市販の痛み止めが出てきた。
「あぁーこれか…」
声には出さなかった。
でも、胸の奥が重くなるのを感じた。
市販薬だから、処方箋がいらないから、
ずっと「薬」だと思っていなかったのかもしれない。
もしかしたら、痛みのたびに何気なく飲んでいたのかもしれない。
自分で痛みをなんとかしようと、対処していただけなのかもしれない。
もし、離れて暮らす家族がこの組み合わせを知っていたら——。
その後悔が、わたしが腎臓と向き合うきっかけであり、
この記事を書く理由になっています。
腎臓の薬物療法を専門とする立場から、
今日は「知っていれば防げた」情報を、できる限り具体的にお伝えします。
そもそも「NSAIDs(エヌセイズ)」とは?
「NSAIDs」と書いて「エヌセイズ」と読みます。
日本語では非ステロイド性抗炎症薬といいます。
難しい名前ですが、
要するに「痛みと炎症を抑える薬のグループ」のことです。
ドラッグストアで手軽に買える痛み止めの多くが、
このNSAIDsに分類されます。
代表的なものを挙げると——
・ロキソニンS(主成分:ロキソプロフェン)
・イブA錠・EVE(主成分:イブプロフェン)
・バファリンA(主成分:アスピリン=アセチルサリチル酸)
・ボルタレン(主成分:ジクロフェナク/市販薬もあり)
ひとつ注意が必要なのは、
「バファリン」というブランド名だけで判断しないことです。
バファリンシリーズには複数の製品があり、
主成分が全く異なるものが混在しています。
「バファリンA」の主成分はアスピリンですが、
「バファリンプレミアム」はアセトアミノフェンとイブプロフェンの配合剤です。
同じブランド名でも、中身はまったく別の薬であることがあります。
「ナロンエースT」のように、NSAIDsとアセトアミノフェンが混合された製品もあります。
必ず裏面の「成分」表示を確認してください。
ブランド名ではなく、成分名で判断する習慣が、
これを読んでくれているあなたや、あなたの親を守ってくれます。
「飲み薬じゃないから安全」は大きな誤解——貼り薬・湿布の落とし穴
「飲み薬ではないから」
「胃や腎臓を通らないから」
”安心”と思っていませんか?
たしかに、市販されている一般的な湿布や塗り薬は、
飲み薬に比べると体の中に入る量はずっと少なく、
多くの場合は安心して使える選択肢です。
ただし、
「貼る薬だから腎臓には全く関係ない」
「いくら貼っても大丈夫」
という考え方は、残念ながら誤解です。
ロキソニンテープやボルタレンゲルなどの成分も、
少量ではありますが皮膚から吸収され、血液の中に入り全身をめぐります。
痛いからといって一度にたくさん貼ったり、
何週間も続けて使ったりすると、
思っているより多くの成分が体の中を回り、
腎臓への負担が増えることがあります。
さらに、医療機関で処方される貼り薬の中には、
飲み薬に近い量の成分が血液に移行するものもあります。
代表的なものがロコアテープやジクトルテープなどで、
腎臓の働きが大きく落ちている方では
「使ってはいけない(禁忌)」、あるいは「慎重に使う」
といったルールが添付文書で決められています。
(ただし、最新情報は更新されることがあるので確認は必要です)
「塗るだけ・貼るだけだから腎臓とは無関係」という常識は、
今日から少し書き換えてください。
とくに、腎臓の病気がある親御さんや、
血圧の薬・利尿薬を飲んでいる親御さんは、
飲み薬だけでなく貼り薬・塗り薬についても、
一度は医師・薬剤師に相談してから使うほうが安心です。
腎臓はなぜ、NSAIDsでダメージを受けるの?
仕組みを理解すると、「なぜ危ないのか」が実感できます。
専門用語は使わないので、読んでみてください。
腎臓は、血液を「ろ過」して尿を作る臓器です。
このろ過を行うために、
腎臓には常に一定量の血液が流れ込んでいる必要があります。
私たちの体には、腎臓への血流量を自動で調整する仕組みがあります。
プロスタグランジンという物質がその「蛇口」の役割を担い、
腎臓に十分な血液が届くよう調節しています。
一方で、プロスタグランジンは痛みにも関係している物質なのです。
NSAIDsは、
このプロスタグランジンの産生を抑えることで痛みを取ります。
つまり、痛みを消すと同時に、腎臓の「蛇口」も閉めてしまうのです。
健康な人が適切な量を適切な状況で使う分には、
体がうまくカバーしてくれます。
問題が起きるのは、次のような「掛け算」が起きたときです。
脱水との「危険な掛け算」
・嘔吐・下痢が続いている時(胃腸炎・食中毒)
・大量に汗をかいた後(スポーツ・サウナ・夏の屋外作業)
・二日酔いで水分が十分摂れていない時
・食事がほとんど摂れていない時
こうした状態では、もともと腎臓への血流が低下しています。
そこにNSAIDsが加わると、蛇口がさらに絞られ、
腎臓が一時的に「水不足」の状態に陥ります。
これが急性腎障害(AKI)と呼ばれる状態の一因になります。
一度の強いダメージが、
腎機能を元に戻らないくらいに低下させることがあります。
「あのとき飲んだせいかもしれない」と後悔しても、
もう元に戻せなくなるかもしれません。
血圧の薬を飲んでいるなら、確認すべきこと
2017年時点の推計で、
日本には高血圧の患者さんが約4,300万人いるとされています。
日本人のおよそ3人に1人以上が該当する計算です。
「うちの親は違う」と思っていても、一度確認してみてください。
高血圧の治療では、次のような薬が使われることがあります。
ARB・ACE阻害薬(血圧を下げる薬の代表格)
利尿薬(体の余分な水分を排出する薬)
これらの薬を飲んでいる人がNSAIDsを追加すると、
腎臓への負担が「足し算」ではなく「掛け算」で増加する
ことが知られています。
この組み合わせは医療の世界では
「トリプルワーミー(三重の害)」と呼ばれていて、
急性腎障害のリスクが高くなる要注意な組み合わせです。
覚えていただく必要はありませんが、
「この組み合わせには名前がつくほどの危険性がある」
ということは知っておいてください。
冒頭のエピソードで、患者さんのの荷物から出てきたのは、
まさにこの状況でした。
ARBと利尿薬という組み合わせに、市販の痛み止めが加わっていました。
「少しくらいなら大丈夫」という判断が、最も危険な判断なんです。
「うちの親は関係ない」と思っていませんか
NSAIDsによる腎障害が恐ろしいのは、
腎臓が痛みを感じない臓器だからです。
胃が荒れれば不快感が出ます。
肝臓が傷んでも、倦怠感や黄疸が出ることがある。
しかし腎臓は、機能が半分以下になっても、
多くの場合は何の自覚症状もありません。
気づいたときには、すでに慢性腎臓病(CKD)が進行していた
——そういうケースは、決して珍しくありません。
元気そうに見える・持病なし・健康診断で引っかかったことがない。
それでも安心できないのが、腎臓という臓器です。
「うちの親は大丈夫」という思い込みが、最も危ないのはそのためです。
今日から行動を変えてみましょう—あなた(子世代)が取るべきステップ
親御さんの状況を2つのパターンに分けて、
あなたが取るべき具体的な行動をお伝えします。
【パターンA】血圧・心臓・むくみ(利尿薬)の薬を飲んでいる親御さん
最もリスクの高い層です。
STEP 1:帰省時に「薬箱チェック」をする
まず、薬箱・引き出し・テーブルの上をさりげなく確認してみてください。下記に当てはまるものが入っていたら要注意です。

ブランド名だけで判断するのは危険です。
必ず裏面の「成分」欄を確認してください。
「イブプロフェン」「ロキソプロフェン」「アスピリン」
「ジクロフェナク」という文字があればNSAIDsです。
STEP 2:親に「声かけ」をする
見つけたとしても、頭ごなしに「飲んじゃダメ!」は逆効果です。
親世代は「長年使い慣れた薬を突然否定された」と感じ、
聞く耳を持たなくなることがあります。
こんな言い方が伝わりやすい:
「お母さん、この痛み止めって血圧の薬と一緒に飲んでも大丈夫か、
薬剤師さんに聞いてみたほうがいいって聞いたんだよね。
一回確認してもらってもいい?」
ポイントは3つ。
「あなたが悪い」ではなく「一緒に確認しよう」というトーンにすること。「薬剤師さんが言っていた」という第三者の言葉を借りること。
「やめて」ではなく「確認してみて」と行動のハードルを下げること。
STEP 3:次の受診・薬局に同行する(または電話で代理相談する)
親が一人で医師・薬剤師に伝えるのが難しい場合は、
あなたが同行するか、代わりに電話で相談することもできます。
窓口で伝える言葉(そのまま使えます):
「父(母)が血圧の薬と利尿薬を飲んでいるのですが、
痛み止めが必要なときはどうすればいいか教えてください。
実家に市販のロキソニンがあったので、飲み合わせが心配で」
これだけで十分です。
あとは薬剤師・医師が対応してくれます。
処方箋を出している病院なら、
「頓服として使える安全な痛み止めを処方してほしい」
と依頼することも有効です。
【パターンB】持病はないが、疲れ・風邪などで市販の痛み止めを使う親御さん(または自分自身が)
このパターンが最も人数が多く、
かつ「自分は安全だ」という誤解を持ちやすい層です。
完全に危険がないわけではありません。
特に以下の状況でのNSAIDs使用は、できる限り避けてください。
・嘔吐・下痢が続いている時(胃腸炎・食中毒)
・大量に汗をかいた後(スポーツ・サウナ・夏の屋外作業)
・二日酔いで水分が摂れていない時
・食事がほとんど摂れていない時
これらはすべて、脱水のリスクとなる状況です。
こうした状況に当てはまる場合の行動指針は、2ステップです。
ステップ1:まずコップ1〜2杯の水を飲む。
脱水を少しでも解消することが最初の一手です。
ステップ2:それでも痛みがある場合は、アセトアミノフェン製剤を第一選択として検討する。
「タイレノールA」などが、
アセトアミノフェン製剤の市販薬として購入できます。
腎臓の血流を直接低下させる作用がNSAIDsより少ないため、
上の表のような脱水のリスクがある状況での使用に向いています。
ただし、ここで大切な補足があります。
⚠️ アセトアミノフェンは「NSAIDsよりマシ」であって「完全に安全」ではありません。
すでに腎機能が低下している方——健康診断でeGFRやクレアチニンの値に異常を指摘されたことがある方——が高用量・長期間にわたって使用する場合は、アセトアミノフェンにもリスクがあります。
「NSAIDsより腎臓に優しい」という情報だけを鵜呑みにして、
自己判断を続けることには、限界があります。
最後に:腎臓は、声を出せない。だから、あなたが気づいてあげてください。
ここまで読んでくださった方は、もう以前と同じ感覚で
「親の薬箱のロキソニン」を見過ごすことはないと思います。
今日お伝えしたことをまとめておきましょう。
1.ロキソニン・イブプロフェンなどのNSAIDsは、
腎臓への血流を低下させるメカニズムを持つ
2.貼り薬・湿布も皮膚から吸収され、場合によっては同様のリスクがある
3.血圧薬・利尿薬との組み合わせ(トリプルワーミー)は特に危険
4、腎臓は痛みで警告を出せない。気づいたときには遅い、がある
あの巾着から出てきた痛み止めを見た瞬間の、
あの感じを、わたしはまだ覚えています。
防げたかもしれない。
そう思うたびに、この情報をもっと早く届けたかったと感じます。
でも今日、あなたに届きました。
それだけで、書いた意味があります。
これはNSAIDsだけの話ではありません。
腎臓と薬の関係は、造影剤・抗菌薬・一部の漢方薬など、あらゆる薬に広がっています。
「薬を安全に使う」ということは、思っている以上に奥が深く、
そして思っている以上に日常の工夫が必要です。
今日話せたのは、本当に入り口の部分だけです。
でも、痛み止めをアセトアミノフェンに変えれば、
それで腎臓は守れるのでしょうか?
残念ながら、答えはノーです。
なぜなら、多くの人が
健康診断の「クレアチニン」の数値が正常だから大丈夫、
という致命的な勘違いをしているからです。
高齢で筋肉量が落ちている方の場合、血液検査の数値が「正常」に見えても、実際の腎機能は低下していることが少なくありません。
数値の裏に隠された本当のリスクを、
私たち現場の薬剤師は「どこ」を見て判断しているのか——。
もし「腎臓と薬のこと、もっと知りたい」と思っていただけたなら、
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CKD患者・高齢の家族を支える方に向けて、
「現場の薬剤師が実際に使っている判断基準」を、
これからも具体的にお伝えしていきます。
腎臓は静かな臓器です。
だから、家族であるあなたが代わりに声を出す必要があります。
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