気づいたら、看護師さんより管理栄養士さんと話してた
「HONOさん、ちょっといいですか」
病棟の廊下で、
管理栄養士さんに呼び止められる。
今日はもう3回目。
カルテを開きながら話を聞く。
話し終わって、ふと気づいた。
——今日、看護師さんとちゃんと話したの、何回あったっけ?
気づいたら、そうなっていた
意識して管理栄養士さんに近づいたわけではない。数年前までは、間違いなく看護師さんと話す時間のほうが長かったと思う。
「この時間に飲ませていいですか」
「これ何の薬ですか」
——投与のタイミング、相互作用、安全に関する確認。薬剤師の仕事の中心は、そこにあった。
それがいつから、こうなっていたんだろう。
去年の秋だったか、ある日のカンファレンスのあとに管理栄養士さんと長話になって、廊下で30分立ったまま話していたことがあった。
看護師さんが横を通り過ぎながら「あ、また栄養カンファ続き?」と笑われて、ようやく気づいた。
——あ、私、こっちの人と話してる時間のほうが長くなってる。
長く病院薬剤師をやってきて、誰といちばん話すかが私の中でどんどん変わってきた。
廊下で交わされる質問の、質が少し変わった
最近、看護師さんからの質問と、管理栄養士さんからの質問は、性質が違うんじゃないかと思うようになってきた。
看護師さんは、
薬の「前」の話をよく聞いてくれる。
飲ませるタイミング
注射の速度、配合変化、
副作用が出たときの対応。
投与にまつわる、いちばん大事な確認。
管理栄養士さんは、薬の「先」の話をしてくる。
「この薬、食欲落としますか」
「食形態、上げて大丈夫ですか」
「体重が増えないんですけど、薬の影響ってありえますか」
私が出した薬が、
その人の食卓にどう着地しているか
——その景色を、管理栄養士さんは見ているんだと思う。
最初に「食欲、落としますか」と聞かれたとき、
私はすぐに答えられなかった。
一度ナースステーションに戻って、薬歴を確認して、添付文書も確認して、それから「たぶんこれが影響しています」と返した。
20年薬剤師をやっていても、
持ち帰って調べないと答えられないことは、
たくさんある。
そして、「自分が出した薬の、その先の景色」
を私はこれまでどれだけ見てきただろう、
と立ち止まるようになった。
制度の中に、薬剤師はいない
ここでひとつ、書いておきたいことがある。
回復期リハビリテーション病棟入院料の施設基準を見ると、医師、看護職員、PT・OT・ST、社会福祉士、管理栄養士の配置が決められている。
2024年の改定で、入院料1では管理栄養士の配置が義務、社会福祉士は専任から専従へ。栄養評価にGLIM基準を用いることも、入院料1で要件化された。回復期リハ病棟という場所が「栄養」を本気で抱える方向に、制度がちゃんと動いている(参考:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅲ(回復期)】)。
でもそこに、薬剤師という職種は入っていない。
これは、普通に、悲しい。
配置が要件に入っていないというのは、
誤解を恐れずに言えば「カンファに来なくてもいいよ」と言われているのと同じだと思う。
もちろん、そんなことを言ってくる人はいないし、現場の人たちは私をカンファに呼んでくれる。でも、制度の文言に名前がないというのは、そういうことだと思う。
悲しい気持ちと同じくらい、
うらやましいという感情もある。
制度に守られるいうことは、
人員配置も考えてもらえる。
組織にも『必要な職種』としてカウントされているということだから。
でも、そのうえで私はこう思う。
入っていないからこそ、
やる価値があるんじゃないか。
配置が義務付けられていないということは、
『薬剤師が回復期リハ病棟で何をする職種なのか、まだ完全には決まっていない』ということなんじゃないか。
決まっていないところに、毎日通って、廊下で立ち話をして、管理栄養士さんと「この薬の影響かもしれません」と話している自分がいる。
これは、誰かに決められた仕事じゃない。
決まっていない場所で、自分で立っている仕事だ。
制度が薬剤師を呼んでいないとしても、
現場の管理栄養士さんは、私を呼んでくれる。
今はそれで十分なのかもしれない。
悲しさもうらやましさも全部ひっくるめて、
それでもやる価値ありと私は思っている。
4歳の娘のプリキュアごっこは流せても
話はそれるが、娘はプリキュアにはまっている。
家では、変身ポーズを真剣にやって見せてくる。
私は「すごいねー」と流しながら、
洗濯物を畳んでいる。
本気で付き合えていない。
それで娘がちょっと怒る。
「ママ、見て!」
「ママ、ハンニンダーやって!」
ところが、病棟の廊下で
「食べてくれないんです」と言われると、
頭の中の引き出しがぜんぶ開いていく。
あの薬の影響かもしれない。
先週の処方変更が効いてるかも。
亜鉛、調べてないな。
便秘どうだろう。
検査値、もう一回見たい。
家でプリキュアを流している私が、
廊下では本気で頭が動く。
なんだろうこの差は、と自分で笑ってしまう。
たぶん、
本気で困っている人に本気で聞かれたら、
こちらも本気で応えるしかない、
というだけのことだ。
管理栄養士さんは、いつも本気で困っている。
だから私も、本気で考える。
(娘よ、ごめん。プリキュアもがんばる。)
だから、このマガジンを始めます
新しいマガジンを立ち上げます。
名前は「管理栄養士さんと話したくなる、薬の話」。
情報提供目的のマガジンじゃありません。
私が、管理栄養士さんと話したくて始めるマガジンです。
「これって薬の影響ですかね?」
「この患者さん、食形態上げて大丈夫ですか?」
——廊下で交わされている、何気ないけれど大事な会話。
NST専門でもなければ栄養の専門家でもないただの病棟薬剤師が、管理栄養士さんと話していて気づいたこと・教わったこと・一緒に悩んだことを、ぽつぽつ綴っていきます。
管理栄養士さんへ。
栄養について考えてみたい薬剤師です。
私見がふんだんに入った内容になるかもしれませんが、よかったら、廊下の立ち話に混ざるような気持ちで読んでください。
薬剤師さんへ。
病棟で隣を歩いている管理栄養士さんは、たぶんあなたの薬の「その先」を、誰よりよく見ています。話してみると、見える景色が変わります。
その他の医療職のみなさんへ。
このマガジンは、管理栄養士さんと薬剤師の「あいだ」の話ばかりが並びます。でも、たぶん他の職種の方が読んでも、自分の現場とリンクするヒントになるんじゃないかなと思います。
\あわせて読みたい/
PT・OT・STさんに向けて書いた記事ですが、管理栄養士さんから「私たちも同じことを感じている」と言われました。新マガジンのあとで読んでもらえると、つながりが見えるかもしれません。
そして、管理栄養士さんと「どう食べるか」を本気で話したくなった原点の記事。食物繊維とカリウムの板挟みを、一緒に考えた話です。
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