高度CKDの掻痒感へのプレガバリン使用について考えてみた【前編・判断の前提を整理する】
病院薬剤師という仕事柄、
「かゆみ」に苦しむ高度CKDの患者さんに、
何度も出会ってきました。
夜になるとかきむしって眠れない。
眠れないから、翌朝のリハビリにはどうしても身が入らない。
そんな姿を、病棟で何度も見てきました。
教科書やガイドラインに沿って、
標準的な対応は一通り試します。
保湿、透析条件の見直し、
リンやPTHのコントロール、
抗ヒスタミン薬、
場合によってはナルフラフィンなど。
それでも
「先生、やっぱりかゆくて眠れません」と
訴えが続くとき、
どうにかしてあげたい気持ちと、
これ以上何ができるのか分からない
という両方の思いが湧いてきます。
そんなことを日々考えていると、
「難治性の掻痒にプレガバリンが有効」
という情報を目にする機会が増えてきました。
「神経障害性疼痛の薬」というイメージが強いこの薬が、CKD関連の掻痒に使われている。
かゆみがとれて、少しでも眠れるようになるなら、
それはきっと患者さんにとってプラスなはず。
でも一方で、
「高度CKDで本当に大丈夫?」
「転倒したらどうしよう」
という不安も、
同時に頭の中に出てきてしまいます。
■ 答えがないテーマに向き合ってみる

これまでのnoteでは、
「専門家が情報を整理してお伝えする」
というスタンスの記事が多かったと思います。
でも今回のテーマは、
正直、私自身がまだ
スッキリした答えを持てていません。
だからこそこの記事では、
「高度CKDの掻痒感にプレガバリンを使うこと」について、いま自分がどこで迷い、
どう情報を整理しようとしているのか、
その過程を一緒に辿っていただけたらと思います。
■ CKD関連掻痒って、そもそもどんな問題?
①CKD関連掻痒が患者さんにもたらす影響
CKDや透析に関連した皮膚瘙痒症(CKD-associated pruritus, CKD-aP)は、決して珍しい症状ではありません。
国際的な観察研究であるDOPPSでは、
血液透析患者の約4〜5割に何らかの掻痒がみられたと報告されており、
日本のデータでも「中等度以上のかゆみ」が3〜4割程度に認められたとされています。
『かゆみ』は単なる不快感にとどまらず、
睡眠障害や抑うつ、不安、
さらには死亡リスクとも関連することが示されており、「QOLを大きく損なう症状の一つ」と位置づけられています。
回復期リハの現場で見ていても、
夜間の痒みが強い方ほど、
日中の集中力やリハビリへの参加意欲が
落ちてしまっている印象があります。
かゆみの原因は一つではありません。
尿毒素の蓄積
カルシウム・リン代謝異常
乾燥
慢性炎症
末梢・中枢神経の変化
オピオイド系の関与
など、複数の要因が絡み合っていると
考えられています。

そのため、かゆみへの対策も
「これだけやればOK」という単純なものではなく、
生活指導から透析条件、
薬物療法まで組み合わせて考える必要があります。
②現場で試される“標準的な選択肢”たち
現場でよく使われる『標準的な選択肢』には、
次のようなものがあります。
皮膚の乾燥対策(保湿剤の使用など)
透析量の確保や膜の種類・時間など、透析条件の工夫
リン・カルシウム・PTHを含めた CKD-MBD 管理の最適化
抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬
ナローバンドUVB照射などの光線療法
ナルフラフィン塩酸塩(レミッチ)などの掻痒治療薬
こうした標準的な治療を組み合わせていくことで、
多くの患者さんの痒みは、ある程度まではコントロールできるかもしれません。
それでも、「効果がない」といって
毎日かゆみで苦しんでいる患者さんがいる。

今回の記事は「標準治療を尽くしたあと」のグレーゾーンについて、一人の病棟薬剤師として考えてみた記録でもあります。
■ なぜプレガバリンが話題に上がるのか
調べてみると、
プレガバリンやガバペンチンといった
ガバペンチノイドが、難治性皮膚瘙痒症や腎不全関連掻痒に有効だった
とする症例報告は、いくつか出ています。
例えば、難治性皮膚掻痒感の患者に
プレガバリンを低用量から開始し、
数日〜数週で痒みスコアが改善したという報告などです。
日本皮膚科学会の「皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020」でも、
ガバペンチンについては治療抵抗性の皮膚瘙痒症に対して
C1(使用を考慮してもよい)の推奨が示されています。
プレガバリンに関しては、
症例報告レベルの有効性は示唆されているものの、RCTなど高いエビデンスは乏しく、
「選択肢の一つとして検討されうるが、推奨度は高くない」という立ち位置です。
プレガバリン本来の適応は神経障害性疼痛で、
CKD関連掻痒の一部にも末梢・中枢神経の感作が関与している可能性が指摘されているため、その共通点から「効くかもしれない」という発想が生まれてきたようです(薬理の詳細は後編で)。

共通する“神経の問題”がある?
文献やガイドラインを眺めると、
「理屈としては分かる」
「症例レベルでは効いていそう」
というところまではわかりました。
でも、私の中には、
どうしても拭いきれない
「モヤモヤ」が生まれてきました。
■ 私が感じている「3つのモヤモヤ」

病棟で立ち止まるたびに、
頭の中で回り続ける3つの問い。
①かゆみに“効く量”を本当に入れていいのか
CKD関連掻痒に対してプレガバリンを使った報告を読んでいると、
「低用量から開始して、徐々に増量しつつ効果を見ていった」といった記載をよく目にします。
実際、神経障害性疼痛でも、
添付文書上の常用量に近づけていく中で、
「効いた」と感じ始めたことが少なくないことを、
病棟でも経験してきました。
一方で、高度CKDの患者さんに対して、
掻痒に“効くかもしれない量”まで
プレガバリンを増量していくことに、
私はどうしても慎重になってしまいます。
腎排泄型の薬剤であり、
腎機能低下に応じた用量調整が
必要であることは、
添付文書をはじめ、
様々な資料に書かれていますし、
腎機能を考慮した推奨用量以内でも、
眠気・めまい・ふらつきなどの有害事象が
少なくないというデータもあります。
さらにややこしいのは、
掻痒に対するプレガバリンの「有効量」が、
神経障害性疼痛と同じとは限らない、
という点です。
「どこまで増やせば“試した”と言えるのか」
「いまの量は“安全側に寄せすぎていて、そもそも効きようがない量”ではないのか」
という疑念も、心の中でくすぶり続けます。
そして同時に、
プレガバリンによる眠気・ふらつきが原因で転倒し、大腿骨を骨折してしまった患者さんの報告や、
鎮静が強く出てリハビリどころではなくなってしまったケースも、頭をよぎります。
「痒みをとるための一手が、結果としてADLや生命予後を悪化させてしまったらどうしよう」
という不安が、どうしても消えません。
掻痒の改善が期待できる“ある程度の用量”
高度CKD・高齢・フレイルな患者さんで許容できる“安全な量”
この二つの重なり合うゾーンが、
どれくらいあるのかが私にはよく分からず、
その狭いゾーンを手探りで探しているような感覚です。
そして、この私のモヤモヤに、
文献やガイドラインは完全には答えてくれません。
②ナルフラフィン・採用品・包括医療の壁
CKD関連掻痒の治療を考えるとき、
「まずは標準治療を」というのは、
ほとんどの医療者が共有している
前提だと思います。
ただ、実際に患者さんを前にしたとき、
「どこまでやれば『標準治療を尽くした』と言えるのか」は、想像以上にグレーだと感じています。
例えば、κオピオイド受容体作動薬のナルフラフィン(レミッチ)は、透析患者の瘙痒症に対する有効性が報告されていて、日本でもCKD関連瘙痒の標準的選択肢の一つとされています。
でも、実際には
自施設で採用されていない
回復期リハ病棟では包括の関係で使いづらい
保存期CKD(非透析)では適応外であり、保険・費用面のハードルが高い
といった「制度・採用・お金」の壁に
ぶつかることがあります。
「教科書的には、まずナルフラフィンを含む標準治療をできるだけやるべき」と
頭では分かっていても、
現場の条件を重ねあわせると、
採用品の範囲でどこまで頑張るか
包括医療の枠組みの中で、どこまで“持ち出し”を許容するか
保存期CKD患者に、適応外のナルフラフィンをどこまで検討しうるのか
という問題があり、
「ナルフラフィンは現実的に使えない。それでも『標準治療は尽くした』と言っていいのか?」という、自分でも答えに迷う問いが生まれます。
そして、ここでふと頭に浮かぶのが、
「ナルフラフィンにアクセスできないなら、代わりにプレガバリンを試すことは許されるのか?」
という問いです。
標準治療を十分に使い切っていない状況で、
適応外使用となる薬に踏み出すことは、
どこまで許容されるのか。
「採用品だから」
「包括の範囲だから」
という理由で、選択肢が
プレガバリン側に偏ってしまっていないか。
このあたりは、いまも自分の中で
うまく言語化しきれていない部分の一つです。
③チームで誰がGOサインを出すのか
もう一つの大きなモヤモヤは、
「誰がどのように“GOサイン”を出すのか」
という、チーム医療ならではの問題です。
高度CKDの患者さんに、
掻痒目的でプレガバリン(あるいは適応外のナルフラフィン)を使うかどうかは、
どうしてもグレーゾーンの判断になります。
このとき、
主治医は、かゆみと睡眠を何とかしてあげたい気持ち
看護師は、夜間の痒み・掻破・不眠のつらさを肌で感じている立場
リハスタッフは、日中の眠気・ふらつき・転倒リスクを強く意識する立場
薬剤師は、腎機能・薬物動態・エビデンスと、これらのバランスを考える立場
というふうに、
それぞれ見ている景色が少しずつ違います。
カンファレンスで議論するとき、
「こんなに痒みで困っているのに、何か打つ手はないのか」
「でも、この腎機能・年齢・ADLを考えると、転倒したときのダメージは大きすぎる」
用量や中止ラインを提案する立場として、
「最終的な決定権は主治医にある」と頭では理解しています。
という二つの声が、
同じくらいの重さで出てきます。
その中で、「では、低用量でプレガバリンを試してみましょう」と言った瞬間、その判断の重さが、ふっとこちら側にのしかかってくる感覚があります。
それでも、「自分が出した情報やコメントが、そのままGOサインのトリガーになっていないか?」という感覚が、どうしても付きまといます。

「誰がどこまで責任を負うのか」
「どのレベルのリスクを、チームの前提として共有するのか」
―この問いは、学生時代にも習わなかったし、
ガイドラインにも書いてありません。
だからこそ、毎回症例ごとに
「これでよかったのか」を振り返り続けている、
というのが正直なところです。
■ 後編に向けて:一度「事実」に立ち返ってみる
ここまで書いてきたことは、
どちらかといえば、
私自身の「迷い」の部分が中心でした。
一方で、プレガバリンという薬剤については、
薬理・薬物動態・腎機能別用量・有害事象、
そして掻痒に対するエビデンスなど、
「事実として押さえておくべきポイント」もたくさんあります。
後編では、
一度プレガバリンの教科書的な姿を整理し直したうえで、
回復期リハ病棟で実際に経験した症例
似たようなケースを想定した「仮想症例」
を通して、「どのような条件がそろったときにだけ、どのような前提でプレガバリンを検討しうるのか」を、今の自分なりに言葉にしてみたいと思います。
▶ 続きは【後編】症例から考える「慎重な一歩」へ
■ 参考文献
Pisoni RL, et al. Pruritus in haemodialysis patients:
International results from the Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study (DOPPS).
Nephrol Dial Transplant. 2006;21(12):3495-505.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16968725/佐藤貴浩, 横関博雄, 室田浩之 ほか.
日本皮膚科学会ガイドライン 皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020.
日本皮膚科学会雑誌. 2020;130(7):1589-1606.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dermatol/130/7/130_1589/_article/-char/jaSolak Y, et al. Pregabalin versus placebo in treatment of uraemic pruritus
in haemodialysis patients. Nephrology (Carlton). 2012;17(8):710-7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22819436/リリカカプセル25mg/75mg/150mg, リリカOD錠 添付文書.
ヴィアトリス製薬/PMDA.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdSearch/02/1190017M2024?user=1リリカカプセル 適正使用のお願い
「高齢者における“めまい、傾眠、意識消失”について」. ファイザー(当時)/PMDA.
https://www.pmda.go.jp/files/000144302.pdf
※本記事は2026年5月時点の情報をもとに作成しています。
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