春の星々(140字小説コンテスト2026)結果発表
星々はnoteの生成AI学習対価還元プログラムに参加していません。
(掲載作品のAI学習データへの提供をおこなっていません。)
季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。
春の文字 「布」
選考 ほしおさなえ(小説家)・季節の星々選考委員会
「季節の星々賞」として入選4編+佳作6編(計10編)を選出しました(応募総数1098編/一次選考通過109編/二次選考通過22編)。ご応募いただきありがとうございました。
選評(評・季節の星々選考委員会)とあわせて受賞作は後日hoshiboshiサイトへも掲載します。
また、優秀作(入選〜二次選考通過以上の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
入選の方々には記念品と図書カード(1000円分)を贈呈いたします。
年4回のコンテスト後に、各回の入選作のなかから大賞を1編選出します。
年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。
受賞作
入選(4編)
亜麻布みゆ
機織り機に音符が紛れ込んだ。どうやら五線譜と間違えてしまったらしい。居心地が良さそうだったのでそのまま織り続けていたら、他の音符もやってきた。機織りのリズムに合わせて音符たちが歌ってくれる。そうしてできた歌う布は、赤ちゃんのおくるみになった。包まれると、よく寝てくれると評判だ。
長尾たぐい
祖父が漁を辞めた。船は業者に売られ、網は捨てられ、大漁旗が残った。わたしは渡されたその帆布を丁寧に洗い、裁ち、縫って大きな鞄を二つ作った。空の鞄の奥に向かって自分と一字違いの船の名を呼ぶ。もう片方から波音がした。覗き込むと船がいて姉さん、とわたしを呼ぶ。わたしは嬉しくて手を振る。
赤い尻
春先に畑を深く鋤くと、ときおり土人形が転がり出る。親指大の狐や馬、犬、猫のほか、布袋像が多くを占める。かつてミロク山の土で人形を焼き、豊作を祈願して畑に埋めたと聞く。いまや大半が削られた山に似て、小さな布袋さまも半身が欠けている。汚れを落とし豆巾着に入れて持つと賭け事に強くなる。
三尾一加
祖母は山を「大きな身体」と呼んだ。寒くなると布をかぶり、暖かくなると一枚ずつ脱いでいく。春は薄桃色の木綿、夏は深い緑のガーゼ、秋は錦糸の織物、冬は白く分厚い毛布。祖母の眠る村を見守りながら、山は同じ順番で装いを変える。吹き下ろす風が布の端をめくるとき、ほかの季節がちらりとのぞく。
佳作(6編)
ひなた葵
古書店で買った詩集に、薄い布の栞が挟まっていた。月光に透かすと、「春になったら海が見たい」と縫い取りがある。差出人の知らない約束を、私は明日ひとりで果たしに行く。その人が見たかった春の海の色を覚えて帰り、濡れた栞を詩集の最後の頁に戻す。ひとつだけ潮の跡を残して。
槇佑
交番に届けた財布には運転免許証しか残されていなかったが、春色のシャツを着た青年は深々と頭を下げた。車で北海道から九州まで、三五〇〇キロの日本縦断をしている途中だという。「本当に助かりました。お礼に一割を」私を乗せた彼の車は、西へ西へと三五〇キロを走った。桜前線がそこまで来ていた。
町屋 キヒロ
マカロニの分布図を作る事になった。指示通り、地図にマカロニの本数と形状を書き込んでいく。足元をみるとねじれた一本がすり寄ってきていた。監督に呼ばれ、地図を提出する。ポケットの中のそれが蠢き、私は手で強く押さえた。監督は地図を見たまま、ポケットを指差した。
暮宮右京
暁はすっかり拗ねていた。春の夜は短い。人々は眠りこけて、夜明けに思いを馳せたりしない。せっかくの美しい空がもったいない。だから、暁は東の空に星の子らを集めた。風の布団を掴んで森を揺らした。淡い光がきらきら振り注ぐ。やさしく起こされた獣たちは、寂しがりやの暁に「おはよう」と囁いた。
中田希助
生贄になる前日、同じく生贄の高田さんがラーメン屋に吸い込まれていった。引き止めたが、「一緒に食べましょうよ」と言われ、すぐ着丼。「私達のおかげでどうにかなるんですかね。」高田さんはテーブルの隅の布巾を見つめながら私に話す。上手く言葉が返せなくて、ばく、と焼豚にかぶりついた。
永津わか
頭の上から足の先まで、布を被ると透明になれる。単純な手品だ。布の中で私という枠線は失われる。おばけという曖昧な一員になる。おばけは誰にも見えない。誰も気にしない。吸って、吐いて、空気になって。単純な仕掛けだ。曖昧は粒子。粒子が私を作る。さらさら集まって、形を成して、私は布を出る。
