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春の星々(140字小説コンテスト2026)二次選考通過作

星々はnoteの生成AI学習対価還元プログラムに参加していません。
(掲載作品のAI学習データへの提供をおこなっていません。)

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

春の文字 「布」
選考 ほしおさなえ(小説家)
 季節の星々選考委員会(祥寺真帆/のび。/へいた/四葩ナヲコ)

140字小説コンテスト「季節の星々」

二次選考を通過した22編を発表します(応募総数1098編/一次選考通過109編)。ご応募いただきありがとうございました。

受賞作(入選4編+佳作6編)は7月初旬の発表予定です。
優秀作(入選〜二次選考通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

受賞作の速報はnoteやX(旧Twitter)でお伝えします。

二次選考通過作

碧莉都
春の大三角形が夜空に輝く頃、街は白銀の布で一杯になる。それらは旗であったり、窓から垂らされていたり。街灯や街路樹にも装飾されている。一つの星がぱっと青白い光を放つと「スピカ様だ!」と子供達が叫んだ。白銀の布は風に靡き、呼応して煌めく。豊穣を願う祝祭の後には麦畑の絨毯が広がるのだ。

赤い尻
春先に畑を深く鋤くと、ときおり土人形が転がり出る。親指大の狐や馬、犬、猫のほか、布袋像が多くを占める。かつてミロク山の土で人形を焼き、豊作を祈願して畑に埋めたと聞く。いまや大半が削られた山に似て、小さな布袋さまも半身が欠けている。汚れを落とし豆巾着に入れて持つと賭け事に強くなる。

天沢蓮
布一枚で春を隠した。桜散る頃。心を決め一線を越える。私は春と一緒に逃げたかったのだ。私が来れば春は去る。この世の理。だから迎えに行く様に広げ、覆う様に前に出た。だが春はするりと布から溢れ、私は夏にはなれないよと手の先を掠めていった。茹だる季節外れは少し春と混ざって初夏になった。

亜麻布みゆ
機織り機に音符が紛れ込んだ。どうやら五線譜と間違えてしまったらしい。居心地が良さそうだったのでそのまま織り続けていたら、他の音符もやってきた。機織りのリズムに合わせて音符たちが歌ってくれる。そうしてできた歌う布は、赤ちゃんのおくるみになった。包まれると、よく寝てくれると評判だ。

五十嵐彪太
鋏を使えるようになってすぐに、紙よりも布を切るほうが気持ちがよいと気がついた。古いシーツを豆粒大になるまで切り刻んだ。裁鋏に合わせるように右手ばかりが成長し、身体に不釣合いなほど大きくなった。今も私は裁鋏を持つ。夜の帳に鋏を入れ、朝を迎える。誰より早く朝の光を浴びる、よい仕事だ。

和泉海風
白岩池のほとりには歎き悲しむ人が現れて、池の底にいろんな色の哀しみが沈んでゆく。水の外の暮らしは辛かろうな。蚕の繭のように丸まっているので、糸を繰り取っていく。撚りかけをしたのち柔らかい絹糸を目指してぬきたきをする。機にかければ美しい布になるだろう。いつか会える日に声を掛けたい。

m.moon23
その初老の男性は憔悴して転んだ僕を座らせ、上着にあいた穴に青い布を縫い付けてくれた。ほかも直せますよ、と自分のシャツのボタンを外してみせる。左胸が4枚の綺麗な布で継接ぎされていた。ここも塞いでしまえば何とかなるものですよ。悲哀も。そんなものですか。僕は3つの穴の修理をお願いした。

おおらり
鳩のエサの前でスカーフを撫でる。見習いの頃から一緒に暮らし、大成したあと、布きれとなり戻ってこない。あの頃より贅沢な暮らしのはずなのに。白く光沢のある生地を撫で「布にならずに生きて、いいよ」と囁くと鳩へと戻り、生き生きとして青い空に羽ばたいていった。もう会えないと思うが、元気で。

我楽 太
お腹に響くサイレンが鳴る。
「本日の幸福を散布します」
私たちは傘をさす。
幸福がザッと降り注ぐ。傘に弾かれた幸福が、地面へ落ちる。誰も幸福を受け取らない。
多量の幸福は溺れてしまう。押売の幸福は息苦しい。幸福は程々に、自ら見出すものなのさ。
幸福が止む。
私は傘を閉じた。

如月恵
豆こ、かちゃらず、花こ、結び花…こぎん刺しのもどこ、幾何学模様の一単位にはかわいい名がついている。1、3、5、7…麻布の奇数目を木綿糸ですくう。布を刺していると猫がじゃれつく。猫の目(まなぐ)、猫の足跡…側に猫が居た証のもどこ名で、時も距離も遠い津軽の女の人が近くなる。

城崎悠李
妻は、人間の足から尾鰭に戻る方法を忘れたタイプの人魚である。陸の大学生活が長すぎて、忘れたらしい。年に一度、彼女は実家のある北海道の海へ帰る。昆布造りを生業としている実家で収穫作業を手伝うためだ。やっぱり尾鰭の方が楽なんだけどねとボヤきながら、彼女は今年も故郷の海へと帰って行く。

暮宮右京
暁はすっかり拗ねていた。春の夜は短い。人々は眠りこけて、夜明けに思いを馳せたりしない。せっかくの美しい空がもったいない。だから、暁は東の空に星の子らを集めた。風の布団を掴んで森を揺らした。淡い光がきらきら振り注ぐ。やさしく起こされた獣たちは、寂しがりやの暁に「おはよう」と囁いた。

透々実生
鳴き叫ぶ鶏を前に愕然とした。元・鶏胸肉300円。それを包んでた風呂敷。その布で包むと時が戻ると、あの店主が言ってた。完全に忘れてた。暴れ回る鶏を、風呂敷で被せ黙らせる。みるみる体が縮み、声がか細くなり――卵が1つ転がった。1個300円。温もりの残るそれを手に、暫く動けなかった。


海は、一枚の大きな布のように続いて、私はその端を探している。あなたも探している。端と端をお互い抓んで、歩いて、そして半分に折り畳む。半分になった海は、一枚の大きな布のように続いて、私はその端を探しに行く。いつか、端がなくなるまで。それは途方もなくて、世界が小さければいいと思った。

塚田陸帆
財布を盗んだ。中には、三万円と少しと、諸々のカード類と、それから白い小さな網状の、動物の皮が入っていた。見覚えがある。河川敷で私が見つけて、祖父が持って帰って、祖母が切り分けて、近所に配った蛇の抜け殻。これがそれかはわからない。でも何となく、抜き取るのはクーポンだけにしておいた。

長尾たぐい
祖父が漁を辞めた。船は業者に売られ、網は捨てられ、大漁旗が残った。わたしは渡されたその帆布を丁寧に洗い、裁ち、縫って大きな鞄を二つ作った。空の鞄の奥に向かって自分と一字違いの船の名を呼ぶ。もう片方から波音がした。覗き込むと船がいて姉さん、とわたしを呼ぶ。わたしは嬉しくて手を振る。

中田希助
生贄になる前日、同じく生贄の高田さんがラーメン屋に吸い込まれていった。引き止めたが、「一緒に食べましょうよ」と言われ、すぐ着丼。「私達のおかげでどうにかなるんですかね。」高田さんはテーブルの隅の布巾を見つめながら私に話す。上手く言葉が返せなくて、ばく、と焼豚にかぶりついた。

永津わか
頭の上から足の先まで、布を被ると透明になれる。単純な手品だ。布の中で私という枠線は失われる。おばけという曖昧な一員になる。おばけは誰にも見えない。誰も気にしない。吸って、吐いて、空気になって。単純な仕掛けだ。曖昧は粒子。粒子が私を作る。さらさら集まって、形を成して、私は布を出る。

野田莉帆
日本における天使の分布状況を調べてみたら、都会に集中していた。銀座の天使は「特別なことをする必要はない」といって、ぼくに弓矢と羽根を託した。銀座の天使だった人はどこかへ行ってしまって、ぼくに天使が務まるかは不安だった。でも道行く人を眺めていると、見守るだけでいいのだと思えてくる。

ひなた葵
古書店で買った詩集に、薄い布の栞が挟まっていた。月光に透かすと、「春になったら海が見たい」と縫い取りがある。差出人の知らない約束を、私は明日ひとりで果たしに行く。その人が見たかった春の海の色を覚えて帰り、濡れた栞を詩集の最後の頁に戻す。ひとつだけ潮の跡を残して。

槇佑
交番に届けた財布には運転免許証しか残されていなかったが、春色のシャツを着た青年は深々と頭を下げた。車で北海道から九州まで、三五〇〇キロの日本縦断をしている途中だという。「本当に助かりました。お礼に一割を」私を乗せた彼の車は、西へ西へと三五〇キロを走った。桜前線がそこまで来ていた。

町屋 キヒロ
マカロニの分布図を作る事になった。指示通り、地図にマカロニの本数と形状を書き込んでいく。足元をみるとねじれた一本がすり寄ってきていた。監督に呼ばれ、地図を提出する。ポケットの中のそれが蠢き、私は手で強く押さえた。監督は地図を見たまま、ポケットを指差した。

三尾一加
祖母は山を「大きな身体」と呼んだ。寒くなると布をかぶり、暖かくなると一枚ずつ脱いでいく。春は薄桃色の木綿、夏は深い緑のガーゼ、秋は錦糸の織物、冬は白く分厚い毛布。祖母の眠る村を見守りながら、山は同じ順番で装いを変える。吹き下ろす風が布の端をめくるとき、ほかの季節がちらりとのぞく。

紫冬湖
人類は皆疲れていた。何かあたたかいものにくるまれて眠りたかった。ある人が一枚のハンカチを差し出した。すると、その隣人は使い古した毛布を、そのまた隣人は母の形見のドレスを差し出した。色も形も様々なそれらを縫い合わせ続けて百年、大きな布が地球を覆った。人類は、安らかに眠りについた。

結井暁子
お土産にもらったスノードームは、ひっくり返すと雪ではなく星が降った。薄青い液体の中、白い街の上空を飛ぶ飛行機。思い出した。飛行機を見ると二回手を叩き、指を重ねたことを。ひたすらにかけたおまじない。
柔らかな布でドームを拭うともう一度街に星を降らせる。それから手を叩く。指を重ねる。

参考作品 一次選考通過作 二次選考通過作

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