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【キャラ紹介ストーリー】カードショップ・アストラルリーフには『鬼』がいる。【城之古 亞鬼&ガニメデ】

こんにちは、「まる。」です!

現在行っている「キャラクター案募集企画」にて、
syottareさんという方からからご応募いただいた
「城之古 亞鬼(たてのこし あき)」君のショートストーリーを公開します!

■過去記事

実は城之古くんは、本企画の記念すべき【応募第1号】のキャラクターなんです!
企画を立ち上げた当初は「本当に応募が来るのかな…」とドキドキしていたので、彼と出会えた時は本当に嬉しかったです。

今回のお話には、私が思う『カードゲームの面白さや熱さ』をギュッと詰め込みました!
カードゲームに詳しくない方でもスラスラ読めるよう注釈も入れていますので、ぜひ最後まで楽しんでいってくださいね!

📗用語

・アルカステラ
星をモチーフにしたカードの精霊たち。
プレイヤーは相棒となるアルカステラを集め、
彼らを駆使して戦う「ステラバトル」に挑みます。

・WCS
「ワールド・チャンピオンシップ」の略称。
世界一のステラバトラー(カードプレイヤー)を決める、最高峰の大会です。



第一章:強面ステラバトラーは自分に自信がない

フリーBGM「鬼の宴」/作(編)曲 : shimtone 作曲者プレイリスト
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 shimtone

「カードショップ・アストラルリーフには『鬼』がいる。」

そんな物騒な噂が、この界隈のプレイヤーたちの間で囁かれるようになって久しい。
薄暗い店内、デュエルスペースの片隅に座るその男を見れば、誰もがその噂を信じて疑わないだろう。

城之古 亞鬼(たてのこし あき)。  
高校である彼は、はち切れんばかりの大柄な体躯を学生服に押し込み、
ボサボサの長髪の間からは、鋭い眼光がギラついている。

その風貌は、カードゲーマーというよりは裏社会の住人か、物語に登場する強大なボスのようだった。

「……ターン、エンドだ。」

野太く低い声が響く。
対面で座る対戦相手の少年は、ビクッと肩を震わせた。 
現在進行中なのは、HorizonNotesのショップ大会の終盤戦。
盤面は、完全に亞鬼の支配下にあった。

亞鬼のプレイスタイルは、その荒々しい見た目とは裏腹に、極めて「堅実」だ。
相手の行動を徹底的に予測し、一歩ずつ着実に妨害札を置き、
リソースを削り取っていく『ロック戦術』
息苦しいほどの緻密な盤面構築に、相手はカードをプレイすることすらままならない。

「くっ……カードをドロー……。
でもリソースが……」

絶望的な表情を浮かべる対戦相手を見つめながら、亞鬼の胸の内は
(ああ、申し訳ない……嫌な思いをさせていないだろうか)
と、ひたすらに平謝り状態だった。

実はこの男、極度のコミュニケーション下手で、ただでさえ恐ろしい見た目なため、相手にどう接していいか分からず無口になっているだけなのだ。

親しい友人たちからは「あっきー」などという可愛らしい愛称で呼ばれるほど、その性格は温厚そのものである。

「……デッキが、一周した。」

亞鬼が静かに宣言する。
HorizonNotesにおいて、それは決定的な意味を持つ。  
デッキのカードを一巡させることで解き放たれる必殺技、
『アストラルコード』の起動条件が満たされたのだ。

「お願いするよ。……ガニメデ。」

亞鬼の傍らに、青白い光の粒子が集まり、一柱のアルカステラが具現化した。  
氷の結晶をあしらった青いドレスを纏う、透き通るような銀髪の少女。

木星最大の衛星の名を冠する彼女こそ、亞鬼の絶対的な相棒である。

『ふんっ、遅いわよ。待ちくたびれたわ。』

ツンと顎をそらし、不満げに腕を組むガニメデ。
だが、その瞳は好戦的な光を宿している。
かつて彼女のアストラルコードは、
その強大さゆえに連発が難しく、扱いづらいと敬遠されていた。

しかし、環境が進みデッキの回転率が高速化した現代において、
彼女はトップクラスの制圧力を誇る存在へと変貌を遂げていた。

「アストラルコード、発動。ーーーコールド・アポストル。

亞鬼の言葉に呼応し、ガニメデが優雅に腕を振るう。
瞬間、盤面に絶対零度の吹雪が吹き荒れ、相手の全てのアルカステラは文字通り『静止』した。

「あ、ありがとうございました……!」

対戦相手の少年は、逃げるようにデッキを片付けると、そそくさと席を立ってしまった。  
残された亞鬼は、大きな肩を落とし、小さくため息をつく。
中級者の「3等星級」という実力は伊達ではないが、このコミュニケーション能力の低さが、彼がこれ以上上のステージへ進むための厚い壁となっていた。

「……また、怖がらせてしまったかな。」

ショップの外に出て、夕暮れの路地裏で一人ごちる亞鬼。
すると、彼のカードが光り、ガニメデが姿を現した。

『ねえ、今日の試合、どう思ったの?』

冷ややかな声で、彼女は問いかけてくる。
亞鬼は少し考えてから、ぽつりと答えた。

「相手のプレイヤー、すごく上手かったよ。中盤のあの展開、見事なフェイントだった。
ボクの引きが少しでも悪かったら、完全に押し切られていたかもしれない。
素晴らしいプレイングだった……」

本心からの称賛だった。相手へのリスペクトを忘れないのも、
亞鬼の「心優しき巨人」たる所以である。  
しかし、その言葉を聞いたガニメデは、柳眉を逆立てた。

『はぁ!? 何言ってんのよ!』

ホログラムの彼女が、亞鬼の鼻先を指さす。

『勝ったのはアンタでしょ!
相手のプレイがどうとかじゃなくて、アンタが盤面を完璧にコントロールしたから勝てたの!
なんでそうやって、すぐに自分を低く見積もるのよ!』

「ガ、ガニメデ……?」

『もっと自分に自信を持ちなさい!
アタシのマスターなんだから、堂々としてなさいよね!』

怒っているように見えて、その声には亞鬼への深い心配と、
誰よりも彼を認めているという不器用な信頼が滲み出ていた。

ツンデレで素直になれない相棒の「活」に、
亞鬼は困ったように、けれど少しだけ嬉しそうに、大きな手で自分の後頭部を掻いたのだった。


第二章:絶対障壁『アルティメット・セキュア』と、沈黙する優しさ

Swift_Strike/作(編)曲 : PeriTune®
【無料フリーBGM】アップテンポなRPG戦闘曲「Swift_Strike」20分 - YouTube

ショップ大会を順調に勝ち進んだ亞鬼の前に、一人のプレイヤーが立ちはだかった。
不正院 山羊次郎(ふせいいん やぎじろう)。

爽やかな笑顔と人当たりの良さで、ショップの常連たちから慕われている人気プレイヤーだ。
高いコミュニケーション能力で誰とでも気さくに話し、
界隈では「優良プレイヤー」として名が通っていた。

「決勝戦、よろしくお願いします!
城之古さんの『3等級』の実力、胸を借りるつもりで全力でいきますよ!」

周囲の観客から「不正院、頑張れよ!」「強敵だけどお前ならいける!」と声援が飛ぶ。

光の当たる場所にいる彼に対し、亞鬼はただ静かに
「……よろしくお願いします」と深く頭を下げた。

バトルが始まり、不正院の場に『ピカトリクス』クラスのアルカステラが召喚された瞬間、亞鬼の鋭い瞳がさらに細められた。

(…間違いない。
今のガニメデを完全に標的にした、『アルクロクロ構築』だ。)

『アルクロクロ構築』
HorizonNotesのデッキ構築ルールにおいて、
最高レアリティである『UR(アルティメットレア)』のカードは、デッキに3枚までしか入れることができない。
その貴重な3枠を、防御と妨害に極振りしたのがこの構築だった。

1枚目は、ニュートラルクラスのコスト1スペル、『アルティメット・セキュア』
いかなる効果でも無効化されない【絶対効果】を持ち、指定したアルカステラへのダメージと消失ダメージをそのターン中「0」にする、絶対的な防御札だ。

そして残り2枚は、ピカトリクスクラスのコスト2スペル、『アスタリスク・クロック』
相手の切り札であるアストラル・コードの発動を【無効】にする強烈なカウンターカードであり、これもまた【絶対効果】を得る。

ピカトリクスクラスのアルカステラを1体採用するだけで容易に組み込める拡張性の高さが売りだが、
強力なカードが入るはずのUR枠をこの3枚で固定してしまうため、攻め手に欠けるという明確な弱点がある。

しかし、どちらのカードも無効化不可能な【絶対効果】を持つため、環境で猛威を振るうガニメデのアストラル・コードは、この構築を前にすれば完全に機能停止に陥ってしまうのだ。


(普段のロック戦術では、絶対効果の前にジリ貧になって負ける。なら……!)

亞鬼のプレイングが加速した。
一歩ずつ着実に盤面を固める堅実なスタイルから一転、デッキを高速で巡回させ、怒涛の連続攻撃を仕掛ける。
狙うのは、不正院の手札や防御札といった「リソース」の枯渇だ。

ガニメデもマスターの意図を汲み取り、氷の刃を次々と展開して相手の盤面を削り取っていく。

「なっ……! っ、城之古さん、さすがですね……!」

予想外の猛攻に、不正院の爽やかな笑顔が一瞬だけ引きつった。
攻め手に欠けるアルクロクロ構築では、この物量作戦を捌ききれない。
徐々に追いつめられ、ついに不正院の手札が尽きかけた、その時だった。

(……え?)

亞鬼の目が、不正院の不自然な手元の動きを捉えた。
デッキに手を伸ばした瞬間、あからさまにトップのカードをすり替えたのだ。

仕込んでいたカードを引き込む、明らかな不正行為――『積み込み』だった。

不正院が観客に向けてカードを掲げると、ギャラリーから「おおっ!」と歓声が上がる。
彼はその熱狂を背に受けながら、高らかに宣言した。

「カウンタースペルカード!『アルティメット・セキュア』!!」

叩きつけられたカードから、眩い星の光が溢れ出す。
いかなる滅亡も跳ねのける絶対障壁が、不正院のアルカステラを包み込んだ。
ガニメデの渾身の攻撃も、その光の前では無に帰す。ダメージは『0』。

あと一歩のところで決定打を躱された亞鬼は、攻勢に出るためにリソースを使い果たしており、無防備な状態を晒すことになった。

続くターン、立て直した不正院の反撃を前に、ガニメデのライフはついに尽きた。

「熱いバトルでした! ありがとうございます!」

勝者となった不正院が、爽やかな笑顔で右手を差し出してくる。観客からは惜しみない拍手が送られていた。
亞鬼は差し出された手をじっと見つめ……やがてゆっくりと握り返し、小さく頷いた。

フリーBGM「夕焼け」/作(編)曲 : MATSU 作曲者プレイリスト
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 MATSU

大会が終わり、すっかり日の落ちた帰り道。
街灯の下で、ガニメデが姿を現した。

『……ねえ。今日の試合、どう思ったの?』

静かな、静かすぎる声だった。
亞鬼は少し俯き、ゆっくりと口を開く。

「不正院さんの構築、見事だったよ。
ボクの戦術を完全に読み切っていた。
……ボクの実力が、至らなかったんだ」
『……イカサマに気付いてたでしょ? なんで言わなかったのよ!』

ガニメデの悲痛な声に、亞鬼は自嘲気味に笑った。

「彼みたいな人気者相手に、ボクみたいな強面の人間が不正を訴えても……誰も信じないよ。
ただの言いがかりだと思われるのがオチだ。
…ボクが我慢すれば、それで丸く収まるんだよ」

自分が波風を立てれば、人が嫌な思いをする。
自分が悪者になれば、誰も傷つかない。
そう信じて疑わない、歪で臆病な優しさ。

しかし、ガニメデの冷ややかな、けれど核心を突く響きを帯びた声が、
その空虚な自己犠牲を切り裂いた。

『……本当に、それでいいの?』

ハッとして顔を上げた亞鬼の視線の先で、ガニメデはただ真っ直ぐに、亞鬼の瞳の奥を射抜くように見つめ返していた。


第三章:ストレージの片隅と、キミだけが見つけた可能性

チリン、とくぐもったドアベルの音が鳴る。
亞鬼が足を運んだのは、先ほどの活気ある大型店舗「アストラルリーフ」とは打って変わって、路地裏にひっそりと佇む老舗のカードショップだった。

色あせたポスター、ところ狭しと並べられたストレージボックス。そして、紙とインクの独特な匂い。
ここは亞鬼が幼い頃から通い詰めている、
いわば彼にとっての「実家」のような場所だ。

「……おや、あっきーじゃないか。珍しく難しい顔をしてるね」

カウンターの奥から顔を出したのは、白髪交じりのベテラン店員だった。
長年この店を切り盛りし、亞鬼の成長をずっと見守ってきた恩人でもある。

「店長……。少し、探し物を」

亞鬼はショーケースの前に立ち、そこに並ぶ高額な環境カードや、強力なメタカードたちを食い入るように見つめていた。
しかし、その背中はどこか迷子のように心細げだ。
彼の様子を見て察したのか、店長はふうっと息を吐き、カウンターに肘をついた。

「大会で、手痛い負け方でもしたかい?」
「……はい。完璧な防御構築の前に、あと一歩が届きませんでした」

亞鬼が『アルティメット・セキュア』による絶対障壁の完封劇をぽつりぽつりと語ると、店長は「なるほどなあ」と顎を撫でた。

「それで、ショーケースの『強いカード』に答えを求めているわけか」 「……はい。ガニメデを活かすためには、ボクのデッキにももっと強力なカードが必要なんじゃないかって」

落ち込む亞鬼の横顔を見つめ、店長は優しく、
しかし確かな力強さを持って首を横に振った。

「あっきー。君が初めてこの店に来た日のことを、覚えているかい?」 「え……?」

唐突な昔話に、亞鬼は目を瞬かせる。
傍らのデッキケースの中で、ガニメデもピクッと反応を示した。

「あの日の君も、今日みたいに難しい顔をして店内をうろうろしていたっけ。
でも、君が最終的に選んだのは、ショーケースの中で光り輝く高価なカードじゃなかった。
…店の隅っこで埃を被っていた、誰にも見向きもされないストレージボックスの中だったね」

店長の視線が、亞鬼のカバンの中――そこに宿るガニメデへと向けられる。

「当時のガニメデは、扱いが難しくて、誰も見向きもしないカードだった。でも、君だけは違った。
君だけが彼女の『可能性』を見出し、その手を伸ばしたんだ。
…結果、彼女は今、君の最高の相棒として環境の最前線で戦っているじゃないか。」

亞鬼の瞳が、わずかに見開かれた。

「強いカードを使えば勝てる、それは一つの真理だ。
だが、君の本当の強さはそこじゃない。
誰も見てくれないカードの中に、誰にも負けない可能性を見出す才能…
それが、城之古亞鬼というプレイヤーの持ち味だろ?」

店長の言葉が、亞鬼の胸の奥にじんわりと染み込んでいく。
自分は間違えていた。
環境の強さに押しつぶされそうになり、安易に「強いカード」に頼ろうとしていた。
それでは、ガニメデの隣に立つ資格はない。

「……ありがとうございます、店長」

ショーケースから視線を外し、亞鬼は店の片隅にある、
山積みのストレージボックスへと歩み寄った。
そこには、ショーケースのような華やかさはない。
しかし、今の亞鬼の瞳には、かつてガニメデを見つけ出した時と同じ、静かで熱い光が宿っていた。


第四章:日陰者の親友と、ひとすじの希望

冬のオルゴール/作(編)曲 :なぐもりずの音楽室
【フリーBGM】いい感じなオルゴール曲『冬のオルゴール』

自室に戻った亞鬼は、机の上に広げた大量のストレージカードと睨み合っていた。
行きつけのショップで買い込んできた、何百枚というノーマルカードの山。
環境の第一線で使われることのない、いわゆる「ストレージの住人」たちだ。

その傍らで、実体化したガニメデもまた、腕を組んでカードの山を見つめていた。

『……本当に、このガラクタ……コホン、コモンカードの山の中に、
あの「アルティメット・セキュア」を突破する鍵があるの?』

「ああ。店長の言う通りだ。
環境のカードに答えがないなら、誰も見向きもしないカードの中に探すしかない。」

一枚一枚、丁寧にテキストを確認していく亞鬼。
その横顔を見つめながら、ガニメデはふと、視線を伏せた。

『……アンタって、本当に物好きよね。昔から』

その言葉に、亞鬼の手が止まる。
二人の脳裏に蘇るのは、まだ亞鬼が幼かった頃の、ある日の記憶だった。

かつてプロのステラバトラーとして名を馳せた父、勇一郎。
その父に連れられてショップを訪れた誕生日の日、
幼い亞鬼は「好きなカードを一枚買ってやる」と言われた。

周囲の大人たちは、プロの息子である亞鬼がどんな強力なURカードを選ぶのかと、期待の眼差しを向けていた。
偉大な父の血を継ぐプレイングにふさわしい、華やかで強い相棒を選ぶはずだと。

しかし、亞鬼が足を止めたのは、ショーケースではなく、薄暗いストレージボックスの前だった。

そこに、彼女はいた。
アストラル・コードの燃費が悪く、非常に扱いづらい性能。
おまけに気位が高く、マスターにすら攻撃的な態度をとるツンデレな性格。
誰も扱いきれず、誰からも選ばれることなく、
ストレージの底で埃を被っていたアルカステラ『ガニメデ』

彼女は、箱の底から周囲を睨みつけていた。
どうせ誰も自分を選ばない。
そんな諦めと、不器用な反抗心を瞳に宿して。

その孤独な瞳が、幼い亞鬼のそれと重なった。

「……お父さん。ボク、この子がいい」

亞鬼が小さな手で選び取ったのは、誰からも見向きもされなかったガニメデだった。
強面で体が大きく、同年代の子供たちから怖がられて友達ができなかった亞鬼。
そして、素直になれず、誰とも絆を結べなかったガニメデ。
孤独だった一人と一柱は、ストレージの片隅で運命的な出会いを果たしたのだ。

『……ねえ、亞鬼。』

ガニメデの静かな声が、回想から亞鬼を引き戻した。

『どうしてあの時、アタシを選んだの?
アンタのお父さんは元プロプレイヤーで、周りにはアタシなんかより強くて、扱いやすくて、愛想のいいアルカステラがいくらでもいたのに。
…なんで、あんなに冷たくしたアタシなんかを』

初めて出会った頃、ガニメデは亞鬼に対しても攻撃的だった。
それでも亞鬼は、決して彼女を手放さず、優しく受け入れ続けたのだ。
亞鬼はカードの山から顔を上げ、ガニメデの透き通るような瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

「ガニメデは、ボクと同じだったからだよ。
『同じ……?』
「うん。本当は皆と仲良くなりたいのに、素直になれない。
ボクは『見た目』や『プロの息子』っていう表面的なもので敬遠されて、
キミも『扱いづらい性能』っていう表面的なもので敬遠されていた。」

亞鬼は大きな手で、ガニメデの頭をぽんぽんと優しく撫でた。
ホログラム越しに、微かな温もりが伝わる気がした。

「子供の頃から、ずっとWCS(ワールドチャンピオンシップ)で優勝するのが夢だった。
…ボクたちみたいな不器用な人間でも、日陰者でも、肩を並べてあの頂に立てるんだって、証明したいんだ。」

その言葉に、ガニメデは大きく目を見開いた。やがて、彼女の目尻にうっすらと涙が浮かび、それを誤魔化すようにプイッとそっぽを向く。

『……っ、バカ! アタシはアンタと違って、元から優秀なんだからね!
アンタがWCSに行きたいなら、アタシが連れてってあげるわよ!』

顔を真っ赤にして強がるガニメデの姿に、亞鬼は思わずふっと笑みをこぼした。

ーーーその時だった。

亞鬼の手が、ストレージの束の中から「ある一枚」のカードを引き当てて、ピタリと止まった。

「……これだ」
『え? 何か見つかったの?』

覗き込むガニメデの前に、亞鬼はそのコモンカードを置いた。
ホノリウスクラスのコスト2、カウンタースペル。
カードに記された名は――『逆転移』。
使い道が限定的すぎるため、環境ではまったく採用されず、誰にも見向きもされない「ハズレ枠」のコモンカードだ。

訝しげにカードのテキストを読んだガニメデだったが、
数秒後、その意味を理解してハッと息を呑んだ。

『……! アルティメット・セキュアのテキスト…まさか、そういうこと!?』
「ああ。このカードなら、あの絶対障壁をすり抜けられるかもしれない。」

誰も見向きもしなかったたった一枚のコモンカード。
それが、完璧なメタ構築を打ち破る唯一の「希望」として、
二人の手の中で確かな輝きを放っていた。


第五章:希望の『逆転移』と、許されざる4枚目

フリーBGM「逆転」/作(編)曲 : 山口 壮 作曲者プレイリスト
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 山口 壮

数週間後。再び開催されたショップ大会の決勝戦で、亞鬼は奇しくも前回と同じ対戦相手と向かい合っていた。

「やあ城之古さん、また決勝で会いましたね! 今日もお互い、良いバトルをしましょう!」

人当たりの良い笑顔を振りまく不正院。
周囲のギャラリーからは、前回同様に彼を応援する声が飛んでいる。
しかし、亞鬼の眼差しは静かで、揺るぎなかった。
傍らに立つガニメデも、静かに闘志の炎を燃やしている。

試合は、前回とまったく同じ展開を辿っていた。
亞鬼の猛攻によって、不正院のリソースは削り取られていく。
そして迎えた終盤、亞鬼が勝負を決めるべく強力な一撃を放った瞬間――
不正院は、待ってましたとばかりに口角を上げた。

「甘いですよ、城之古さん! カウンタースペルカード発動!
『アルティメット・セキュア』!!」

ギャラリーがワッと沸き立つ。
不正院の場にいるアルカステラを対象に、いかなる効果でも無効化されない【絶対効果】の光が降り注ぐ。
これがあらゆる攻撃を「0」にする絶対障壁。
前回、亞鬼が膝を屈した絶望の光だ。

「これであなたの攻撃は通らない! そして次のターン、僕の勝ちだ!」

勝利を確信し、高らかに笑う不正院。
しかし、亞鬼は焦るどころか、静かに目を伏せ…
そして、手札から一枚のカードを盤面に叩きつけた。

「……カウンタースペルカード、発動。」
「ははっ、無駄ですよ! アルティメット・セキュアは【絶対効果】!
『無効化』の効果は一切受け付けない!

「…無効になんて、しないさ」

亞鬼の低い声が響く。

「ボクが発動するのは、コモンスペルカード――『逆転移』だ。」
「……ぎゃく、てんい?」

聞いたこともないノーマルカードの名前に、不正院が怪訝な顔をする。
亞鬼は真っ直ぐに彼を見据え、そのテキストを読み上げた。

『発動されたスペルカードが対象を選択して発動する効果の場合、その対象はあなたが選択する事が出来る』
…アルティメット・セキュアは、お互いの場に存在するアルカステラを『選択』するカードだ」

その言葉の意味を理解した瞬間、不正院の顔からスッと血の気が引いた。

「な、なんだと……!?」
「『逆転移』は、効果を無効にするカードじゃない。
ただ、その『対象』を移し替えるだけのカードだ。
だから、絶対効果のルールには抵触しない!」

亞鬼が指差す先で、不正院のアルカステラを包み込もうとしていた絶対障壁の光が、ふわりと軌道を変える。
そして――あろうことか、亞鬼の場にいるガニメデを優しく包み込んだのだ。

『ふふっ、ごちそうさま。温かい光ね。』

ガニメデが不敵に微笑む。
相手の絶対障壁を奪い取ったことで、不正院のアルカステラは完全に無防備な状態へと引きずり出された。

「ば、馬鹿な……! 僕の完璧な構築が、こんな誰も使わないようなストレージのゴミカードに……ッ!?」
「ゴミなんかじゃない。
ボクとガニメデが、一緒に見つけ出した『希望のカード』だ!!!

亞鬼の声に呼応し、ガニメデの周囲に絶対零度の吹雪が巻き起こる。
デッキはすでに一巡している。
これが正真正銘、トドメの一撃。

「アストラル・コード、発動!!」
『凍りつきなさい!』

ガニメデの放つ必殺の吹雪が、無防備な不正院の盤面へと襲い掛かる。
これが決まれば、亞鬼の勝利だ。
その圧倒的な威力を前に、不正院の顔が恐怖と屈辱で歪んだ。

(ふざけるな……! この僕が、こんな図体だけの陰キャに負けるだと!?
人気者の僕が、こんなところで……ッ!)

プライドを粉々に砕かれた不正院の手が、震えながら自分の手札へと伸びる。
そして、なりふり構わず、最後の一枚を盤面に叩きつけた。

「カ、カウンターだ!! 『アスタリスク・クロック』!!
アストラル・コードを無効にする!!」

「……え?」

発動されたカードを見て、亞鬼は息を呑み、完全に動きを止めた。

アスタリスク・クロック。
アストラル・コードを完全に封殺する、ピカトリクスクラスのUR(アルティメットレア)カード。
確かに、それが通ればガニメデの攻撃は無効化される。
しかし、亞鬼の頭の中では、ある「異常な事実」が警鐘を鳴らしていた。

(おかしい……。HorizonNotesのルールでは、デッキに入れられるURカードは『3枚』までのはずだ)

亞鬼の視線が、不正院のドロップゾーン(墓地)へと向けられる。
そこには、序盤の攻防ですでに不正院が使用した『アスタリスク・クロック』が2枚。
そして先ほど奪い取った『アルティメット・セキュア』が1枚。
合計、3枚のURカードがすでにプレイされている。

(……それなのに、今叩きつけられた『アスタリスク・クロック』は、
4枚目のURカード……!?)

絶対にありえない。
デッキ構築の根本的なルールを破る、完全なる反則行為(ルール違反)。
負けを認めたくない不正院が、咄嗟にポケットや袖口から持ち込んだカードを不正にプレイしたのだ。

しかし、ギャラリーたちはドロップゾーンの枚数まで正確に把握しておらず、不正院の「奇跡の防御」に無邪気な歓声を上げている。

盤面は、アストラル・コードを無効化され、静まり返っていた。
歓声の中心で、不正院は冷や汗をかきながらも、引きつった笑顔で亞鬼を見据えている。
その目は「お前みたいな奴の言うことなんて、誰も信じないぞ」と、暗に脅しをかけていた。


第六章:『本当にそれでいいの?』への答え

夢 /作(編)曲 : 甘茶の音楽工房
フリー無料のBGM素材・音楽素材「甘茶の音楽工房」

「あっぶねー! さすが不正院! ギリギリで防いだな!」
「すげえ引き! やっぱり持ってる男は違うぜ!」

ギャラリーの無邪気な歓声が、アストラルリーフの店内に響き渡る。
彼らは誰も気づいていない。
不正院のドロップゾーンにあるURカードの枚数など、誰も数えてはいないのだ。
盤面には、アストラル・コードを無効化され、静まり返ったガニメデの姿があった。

対面の席で、不正院は冷や汗をかきながらも、ニヤリと口角を上げた。
その目は明らかに亞鬼を挑発している。

(どうせ言えないだろ? お前みたいな強面の陰キャが騒いだところで、誰も信じない。
ただの負け惜しみにしか聞こえないさ)

彼の目線は、雄弁にそう語っていた。
亞鬼の手が、膝の上で微かに震える。

(……そうだ。ボクが黙っていれば、それで済むんだ。)

ーーーこれまでずっと、そうやって生きてきた。
生まれ持った巨躯と恐ろしい顔つき。
少しでも声を荒らげれば、周囲は怯え、人が離れていく。
だから亞鬼は、常に一歩引いて、自分が我慢する道を選んできた。

自分が泥を被れば、相手は気持ちよく勝てる。
ギャラリーも盛り上がる。波風は立たない。
それが、人から敬遠され続けてきた自分なりの、世界との上手い関わり方なのだと信じ込んできた。


――けれど。

傍らに立つガニメデの姿を見つめた瞬間、亞鬼の胸の奥がギュッと締め付けられた。
彼女は、何も言わなかった。
ただ、真っ直ぐに亞鬼を見つめ返していた。
その瞳が、あの夜の言葉を静かにリフレインさせる。

『……本当に、それでいいの?』

ハッとした。
人が自分から逃げていたのではない。
傷つくのが怖くて、波風を立てるのが怖くて、自分が人との間に壁を作り、遠ざけていただけだったのだ。

「優しさ」という耳障りのいい言葉で自分を誤魔化し、理不尽な現実から逃げていただけだった。

(……ボクがここで黙ることは、優しさなんかじゃない)

ストレージの底から見つけ出し、共にWCSを目指すと誓った相棒。
彼女は今、自分のために必死に戦ってくれている。
誰も見向きもしなかった『逆転移』のカードも、今日この瞬間のために輝きを見せてくれた。
ここで不正を見過ごすことは、自分自身の尊厳だけでなく、彼女たちの努力と想いを踏みにじる行為に他ならない。

亞鬼は深く息を吸い込み、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳にはもう、迷いや恐れはなかった。

「……ジャッジ。」

低く、しかし店内によく通る、力強い声だった。
ざわついていたギャラリーが、水を打ったように静まり返る。不正院の顔から、余裕の笑みが消え去った。

「な、なんだよ城之古さん……。
負けたからって、ジャッジを呼んでイチャモンつける気――」
「対戦相手の、明確なルール違反(反則)を指摘します。」

亞鬼の淀みない言葉に、店内の空気が一変した。
駆けつけてきたショップのジャッジ(審判役の店員)に対し、亞鬼は盤面を指差して静かに告げた。

「HorizonNotesのルール上、デッキに入れられるURカードは3枚までです。
しかし、不正院さんのドロップゾーンにはすでに『アルティメット・セキュア』が1枚、『アスタリスク・クロック』が2枚落ちている。
……にも関わらず、今発動された『アスタリスク・クロック』は、4枚目のURカードです」

「なっ……!?」

ジャッジが即座に不正院のドロップゾーンを確認する。
ギャラリーたちもざわめきながら盤面を覗き込み、そして、言葉を失った。

そこには確かに、ルールの上限を超える4枚目のURカードが存在していたのだ。

「ち、違う! これは……その、デッキの構築ミスで……!」
「先週の大会では、URは3枚ぴったりでした。
それに、そのカード、スリーブの傷の付き方が他のカードと全く違いますよ。
……ポケットから、すり替えましたね?」

亞鬼の鋭い指摘に、不正院は顔面を蒼白にして後ずさった。
もはや言い逃れはできなかった。
人気者というメッキが剥がれ落ち、ギャラリーからの視線が、憧れから軽蔑へと変わっていく。

「……確認しました。URカードの規定枚数超過、および外部からのカード持ち込みによる不正行為。
よって、不正院プレイヤーは失格。
勝者、城之古亞鬼プレイヤー!」

ジャッジの宣言が響き渡る。
それは、ただのショップ大会の一勝ではない。
亞鬼が己の殻を破り、本当の意味で「自分の足で立った」瞬間の勝利だった。

『……ふんっ。遅いわよ、バカ』

傍らで、ガニメデがそっぽを向く。
しかし、その口元は嬉しそうに綻んでいた。
亞鬼はそんな相棒を見て、かつてないほど晴れやかな、優しく力強い笑顔を浮かべたのだった。


終章:カードショップ・アストラルリーフには、鬼がいる。

フリーBGM「君の手のひら」/作(編)曲 : G-MIYA 作曲者プレイリスト
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 G-MIYA

『ねえ、今日の試合、どう思ったの?』
ガニメデがいつものように亞鬼に尋ねる。

「...不正院さんには悪いことをしちゃったな。」

亞鬼は頬をポリポリと掻きながら困った様子で言う
その後、「ただ。」と一言いい続ける。

「初めて、ボクはショップ大会で『勝つ』ことが出来た
これもガニメデのお陰だ。 ありがとう。」

その真っ直ぐな言葉と、憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔。
ガニメデは一瞬だけ虚を突かれたように目を丸くし……やがて耳まで真っ赤にして、プイッとそっぽを向いた。

『……っ、バカ! アタシは何もしてないわよ!
アンタが自分で、勇気を出して声を上げた結果でしょ!』
「でも、キミが『本当にそれでいいの?』って背中を押してくれなかったら、ボクはまた逃げていたと思う。
…だから、これは二人で掴んだ勝利だ」

亞鬼の言葉に、ガニメデは腕を組み、ふわりと宙に浮き上がった。

『……ふん。イカサマした奴にまで同情するなんて、相変わらず甘っちょろいマスターね。
…でも。』

ガニメデはチラリと亞鬼を見下ろし、その口元に小さな、けれど確かな笑みを浮かべた。

『理不尽から逃げずに立ち向かったことは、褒めてあげる。
少しは、アタシにふさわしいマスターらしくなったじゃない』
「ははっ、厳しいな」

夕暮れの空の下、二人の穏やかな笑い声が路地裏に溶けていく。

ストレージの底で埃を被っていた、素直になれない氷の星。
強面ゆえに人に恐れられ、自分から壁を作っていた心優しき巨人。
かつて孤独だった二人は、互いの弱さを補い合い
今日、自分自身の殻を破るという本当の意味での「勝利」を手にしたのだ。

「……さあ、帰ろうか。
次の大会に向けて、デッキの調整もしなくちゃいけないしね。
もっとガニメデが戦いやすいように、あのノーマルカードの束をもう一度見直してみるよ」
『当然よ。こんな小さなショップ大会で満足してちゃダメなんだからね。
アタシたちの夢は、WCS(ワールドチャンピオンシップ)優勝なんだから!』
「ああ。ボクたちなら、きっと行けるさ」

大きな背中と、それに寄り添う小さな青い光が、並んで夕日の中を歩いていく。

――カードショップ・アストラルリーフには、鬼がいる。

しかし、今の彼をただ恐れる者はもういない。
不器用で優しすぎる巨人と、彼だけが見つけ出した、世界で一番輝く相棒。

これは、誰にも見向きもされなかった日陰者たちが、共に世界一の頂へと駆け上がる、その始まりの物語である。


あとがき

いかがでしたでしょうか?
このお話を執筆していて、私自身も久しぶりにカードゲームで遊びたくなりました。😏

『HorizonNotes』では、今回のように皆様からいただいたアイデアをもとに、魅力的なキャラクターを形にしていきたいと考えています!

「自分の考えたキャラが物語になるかも?」と少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ以下の記事からご応募ください!

皆様からの自由で熱いアイデアを、心よりお待ちしております!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

■他のキャラクターのお話が気になる方はこちらをチェック!



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