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小説: ペトリコールの共鳴 ㉛

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第三十一話 ある孤独への見守り ⑤


「僕ね、自分以外と深い絆や繋がりって『夢』のように感じていたんだ。タツジュンや遥香に大事にされていたけど、遥香は死んじゃって、タツジュンは愛羅にのめり込んで。
 本当いうとね、愛羅のアジト近くまで迎えに来てくれないと思ってた」

キンクマは俺と目を合わせない。

「僕がアジトからタツジュンにメールした日。
まさか、その日にタツジュンがアジトに来て僕を連れて帰ってくれたなんて。
自分以外との深い繋がりは夢じゃなかったんだ。
本当に僕はタツジュンに大切にされてたんだと実感したんだよ」

 急速な技術発展や価値観の変化の中で、人々が互いに孤独を感じ、本当の意味での絆を築けなくなってしまっている昨今。

 SNSなどのオンラインでの「つながり」は増えているものの、それがリアルな人間関係の代替にならないと不信感や絶望を抱いた俺は、
キンクマの言葉で気持ちが解けてゆく。

 SNSと現実の乖離が、一人ひとりの孤独感をさらに増大させている。
 人と人とが心から支え合い、分かち合える関係性が失われつつあるのは憂慮すべき事態かもしれない。

そばで聞く、生の声はあたたかい。

 俺には社会を変える力がない。
「でも状況を打開するには?」と問われたら
個人の意識を変えるだけではなく、人と人との繋がりや人と動物の関わりを重視する社会的なシステム改革やマクロな視点だと地域コミュニティの再生など、取り組みが必要になってくると答える。

 自分だけが不幸と嘆き、心の殻に引きこもった俺。

 しかし、そんな俺を信じてくれるキンクマ。
姿形はハムスターだが、俺に寄り添おうと献身的なキンクマに接していると
「いつまでも家に篭っていてはいけない。
キンクマを不幸の巻き添えにできない」

 出窓から桜を見ているキンクマの背中が淋しそう。ドライフルーツに手をつけないキンクマ。
きっと愚痴を言わないだけで、キンクマだって孤独なんだ。

涙が零れた。

『本当に僕はタツジュンに大切にされてたんだと実感したんだよ』
キンクマの言葉が心の中を澱みなく流れて溢れる。

 遥香の死からの孤独と愛羅に裏切られた絶望に押し潰されそうだった俺の心が、キンクマの真摯さによって少しずつ癒されていく。

 孤独の淵にあった俺が、小さな存在に支えられ、再び前を向いて歩めるよう、立ちあがろうとしている。

「俺さ、就職活動するよ。
お前に心配ばかりかけていたけど、いつか美味いものを食わせてやるために頑張るからな」

 俺は40歳のオッサン、これからだ!