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小説: ペトリコールの共鳴 ㉗

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第二十七話 ある孤独への見守り ①


 ネット上には桜だよりや桜前線が話題になる。
映像で観る桜は、どこか誇らしげに花をつけ、雅や可憐というのは自信があってこそかと思う。

 でも、タツジュンは沼に生えた藻のような、憂鬱や光のない表情でソファに丸くなる日々だ。

「悩んでも過去は変えられないよ。
僕でよければ話を聞くよ」

 少し前のタツジュンは事件で気が張っていたのだろう。1ヶ月前とは様子が変わり落ち込みが激しい。

 僕はタツジュンの深い悲しみに心を痛めていた。
(何とかして助けたい)
タツジュンが孤独な心で苦しんでいることを知って、なんとかして寄り添いたいと思った。

 タツジュンはソファに丸まって身動きもしない。
深い絶望に打ちのめされ、うつろな目で虚空を見つめている。

 マンションから白い木が見えた。つい2〜3日前は枝だけの木だったのが気のせいかと思うほど、一斉に白く変化した。
「タツジュン、見て。白い木がきれい」

「なあ」

 タツジュンはソファから顔だけ僕に向け、
「俺、なんであんな女に住所を教えたんだろう。
怪しい女の言う通りにしたんだろう」

 タツジュンの悩みは随分前に遡り、終わったことを悔いている。

「遥香が亡くなって、タツジュンに拠り所がなかったから……じゃない?」
「そうだとしても、よりによって変なヤツが」
「心が弱っているから変な人が寄ってくるの」

 タツジュンの心が健康だったら愛羅を寄せつけないし、愛羅が寄ってきても危険を察知したかもしれない。

いや、それはどうなのかな。
本当にそうなのかな。

 心が健康な人も詐欺に騙されるなど、個人情報の保護と適切な取り扱いは、実社会でとても重要な課題となっていて、簡単に個人情報を渡すと、思わぬ事態に巻き込まれるリスクは高まる。
 たとえば『国際ロマンス詐欺』の被害者は急増しているらしい。

 SNSを通じて知り合った異性の行動が、誰かを危険に陥れるきっかけとなっている。

 でもこの問題は法律を厳しくするだけでは不十分で、僕は解決に至らない気がする。ハムスターだから人間の事情をよく知らないだけなのだろう。

 僕から人間を見ると、人間の欲と簡単に個人情報を渡すなどの倫理観の欠如は密接に関わって、ニュースで報道されているように、法制度の整備と同時に、子どもの頃から教育や啓発活動などを通じ、個人情報を尊重しながら発展させていく必要があるんだけど。

それだけなのかな。う〜ん。

 タツジュンの行動にはモラルの問題がある。もちろんタツジュンに言わないよ。

 まず、SNSに依存して人間関係を構築していくのは正しいことなのかな。

 顔の見えない相手との気楽なやり取りは、顔の見える相手より表情や声の抑揚がない分、親密になりやすいと思う。

 独立して隔離されたDMでは気を許し、タツジュンではなく『辰巳淳弥』を知らない相手だから余計に心を許してしまうのかもしれない。

 第三者に見えないやり取りは、指摘もなく罠に嵌っていく。

 僕はタツジュンからの呼びかけに、ジッと顔を見るだけで言葉が出てこなかった。