なぜ北海道には大間のようなストロングスタイルマグロ漁師がいないのか
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はじめに
年末年始になると、大間のマグロ漁師の特番を目にする。
大間町といえば青森県の東側の角、下北半島の突端に位置し津軽海峡に面しており、マグロの町というイメージはいうまでもないだろう…
ん、待てよ? 津軽海峡の対岸といえば函館だ、北海道だ。

同じ津軽海峡に面しているんだから、当然同じようなマグロ漁師がいてもおかしくないはずなのに、テレビに出てくるストロング系マグロ漁師はみんな揃いも揃って青森側じゃないか?
もしかしてテレビ映えするクセ漁師は青森側にしかいないとかそんなんか?
実はそういうことではない。
青森のストロングスタイルマグロ漁師と、北海道の漁師には明確な棲み分けが存在する。
今回はそんな、巨大マグロ特番見てたらなんか思いついた話題から。
海は一緒でも陸(おか)の事情は違う
北海道はマグロである必要がない
3年前の2023(令和5)年のデータではあるが、北海道の食料自給率はなんと驚異の213% (※カロリーベース)を誇っている。
食料は農地のみにあらず、それは海上にまで及ぶ。
北海道の主な海産物といえばかつてはニシン、現在はイカ、ホタテ、昆布、スケソウダラといったところだろうか。

イカは夜に船を出して比較的読める。
ホタテは養殖で計画を立てられる。
昆布は海に畑がある。
スケソウダラは安定して大量に採れるし、その卵はタラコや明太子に加工できる。
つまり北海道の場合は、わざわざ一点突破でリスク高いし燃料費もアホみたいに食うしコスパも悪いマグロで勝負しなくても他にも武器があるし、ロマン以外にメリットが存在しないのである。合理的でないし、大間の真似をする必要もないのだ。
それは決して敗北ではなく、勝ち筋が既にあるということだ。食料自給率213%はダテじゃないのである。
そこにマグロがいることはわかっていた大間の漁師たち
一方の青森県、特に下北半島の漁師は、古くからマグロの一本釣りを生業としてきた。

津軽海峡は日本海側から暖流である対馬海流、太平洋側から寒流である千島海流(親潮)が来ている。このうち対馬海流の7割程度の水量が分岐して津軽海峡に流れ込むことで、西から東に強い流れが生じる。これが津軽暖流である。
以下の考察は専門外の人間が好き勝手喋ってるので、その科学的根拠や信憑性については話半分でご容赦願います―
―暖かいところから冷たいところへの流れなので熱移動のイメージは湧きやすいが、正確なメカニズムは完全には解明されていない。
津軽海峡の両側では日本海側の水位が太平洋側よりも、通年で数十センチほど高いのは水温差のイメージ通りだが、そうなると濃度が低いところから高いところに流れるので浸透圧説もあるか…駄目だわけわからなくなってきた。
さらに、津軽海峡は大間付近で急に水深400m以下まで海底が落ち込む。
そこに富栄養である親潮に向かってマグロの通り道ができるので、一本釣りの良漁場となるのだそう―
―以上考察終了
津軽海峡は日本海から太平洋に抜けられる数少ないルートのひとつとして国際海峡、すなわち公海扱いに指定されていることはご存じの方も多いだろう。
東西冷戦期はソビエト連邦から近いこともあり、しばしば緊張が高まった地域でもある。最近になってまた情勢がきな臭くなってきているが、筆者は軍事的なことや地政学的なことがあまり得意ではなく、今回の話の本質ではないのでこの辺で言及を控える。気になる方は上記リンク「津軽海峡」等参考ねがいます。
水深が急激に下がるスポットはまさに大間沖ばかり。一方で北海道側の海底はなだらかな斜面となっている。北海道側の漁師がもし仮に公海上の青森県側ギリギリまで寄ってもたどり着くことはできない。船舶や軍艦がガシガシ通ってようがなかろうが関係ないのだ。
モノではなく物語が評価される
実は北海道側の渡島半島周辺や噴火湾でも同様のマグロは獲れる。実際に水揚げもされているが、ほとんどが定置網での混獲であり、彼らの本業は先述のスケソウダラやホタテ、あるいはサケである。
仮にそれらを松前マグロとして売り出したとしても、大間側と同様の価格がつくとは限らない、というか不可能だろう。
大間マグロの初セリといえば、すしざんまいのヨタ社長が両手を広げている画を思い浮かべる人も多いだろう。

これこそまさにブランディングである。
重要なのは揚がったマグロそのものではなく、誰がどう獲ったかというストーリーである。混獲で獲れたマグロ専でない漁師が獲ったマグロではなく、マグロだけでずっと勝負してきた職人気質の漁師が命懸けで一本釣りで獲ってきたという文脈にお金を払っている。まさに付加価値である。
北海道の水産業が基幹産業のひとつとして再現性で勝負しているのに対し、大間のマグロには物語が伴っている。その物語の書き手は、毎年正月に豊洲に現れるヨタ社長であるという話だ。
すなわち、モノの価値を決めるのは人間であり、ブランディングは早い者勝ちなのである。
類似事例
豊後水道の両岸
実は似たような事例が津軽海峡から遠く離れた豊後水道、九州は大分県と四国は愛媛県の間にも存在する。
大分県側は先日大規模な火災に見舞われた佐賀関。愛媛県側は伊方原発がある佐田岬半島、三崎港である。PUMAの鏡写しの形をした愛媛県のしっぽの部分にあたる。
豊後水道は北は瀬戸内海、南は太平洋に接し、波が高く海底の形状も複雑である。大分県側の佐賀関で水揚げされるサバ・アジは関サバ・関アジとして、全国的に知られている。
同じ海域で獲れる同じ魚にもかかわらず、愛媛県側で水揚げされるアジは関アジと名乗ることはできない。
豊後水道の対岸にある愛媛県佐田岬で採れ、三崎漁港に直送されるあじは、岬(はな)あじと呼ばれ、三崎漁業協同組合が商標登録している。関あじと岬あじは、魚自体は同じものだが、面買いや活けじめといった取り扱いの厳格な管理と相まって品質が高く評価され、全国的にブランドが浸透している関あじに比べ、岬あじは安価で取引される。
関サバ・関アジは、佐賀関漁港に登録されている漁師による水揚げかつ、鮮度を保つために上記の面(つら)買い、活けじめを行うことが厳格に定められている。
昔、魚価が低かった時代に高級路線に転換し、突き抜けたのが現在の関アジで、その後「サバもなかなかいけるぞ」ってなってブランド化に転換したのが関サバである。
これもまた、モノではなく物語で評価される一例である。
愛媛県側の勝ち筋は
これでは愛媛県側の岬(はな)アジが買い叩かれてるだけじゃないかと思うところだが、実は愛媛県は津軽海峡における北海道と同様に別の勝ち筋が存在する。
昔、東海ローカルの番組『ノブナガ』の企画「地名しりとり」内でペナルティのワッキーが何度も愛媛県の松山市に飛ばされて、そのたびにじゃこ天おばちゃんのもとを訪れているシーンがある。
また佐田岬半島の付け根、宇和島市の名物は鯛めしだ。
他にもスマというマグロやカツオの仲間である高級魚を「媛スマ」として養殖魚をブランド化している。
愛媛県側にもやはり、面(つら)買い、活けじめという手間のかかる方法でブランド化するメリットが存在しない。愛媛県はもともと海産物に強いのだから。
最後に
テレビはしばしば、極端な生き方を美談として切り取る。ブランディングは光の部分だけが際立ってしまう。
大間のマグロ漁師や大分の関サバ・関アジは、その最たる例だ。
筆者はそれが悪いこととは決して思わない。
繰り返しになるが海峡を挟んだ両岸には、テレビ映えや早い者勝ちのブランディング化だけではなく、明確な棲み分けと戦略の違いが横たわっているのだ。
ただ、築地や豊洲のような都市部から見えている景色は、すしざんまいのヨタ社長のような目立つ人物によって見せられている光の物語だけなのかもしれない。
追記
この度、大分市佐賀関地域にて罹災された方々におかれましてはお見舞い申し上げるとともに、一日でも早い復旧復興となりますよう、心から願っております。
こちらにリンクを貼っておきます。義援金が微力でも復興の後押しになれば幸いです。
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