神のお宝を盗め~ポトシ銀山④完結編
落盤事故、一酸化炭素中毒、栄養失調と過労死…。
毎日誰かが死に、誰かが地下世界から還ってこなかった。
奴隷鉱夫の命と引き換えに掘り出された銀は、植民地支配者の欲を満たし、ヨーロッパに運び込まれスペイン王室を歓喜させ、世界経済と為替レートを一変させ、そしてのちの資本主義誕生の呼び水になった。
そして現在まで続く、資本主義による搾取と経済格差、問答無用の資源争奪戦争、人種・民族・宗教に根差した差別と虐殺。
その歴史の発火点に今も鎮座するTioは、インカ帝国の時代まで、敬うべき地底の神であった。しかし、植民地時代に入ると、ヨーロッパ人宣教師たちによって、異教徒をたぶらかす邪悪な悪魔へと堕とされた。
文化人類学的にはそういう説明になると思うが、Tioの異形の姿は、奴隷を酷使するヨーロッパ人そのものをデフォルメしたという説もある。
「人智を超えた存在に捧げる神聖な供物」であったコカの葉が、「人類を破滅へ導く違法薬物」へと堕とされたことは象徴的だなと思う。
Tioとコカは相似形だなと思う。
その時々の人間の都合で、神と悪魔の間をTioは揺れ動く。
もし、それが人間に益をもたらす「神」なら、こう言うだろう。
「お前たちのために、大事にしまっておいた銀を、満を持して与えたのに、人間というものは、何と愚かなのであろうか。それに気づき目を覚まさせるためには、さらに厳しい試練を与えねばなるまい。」
もし、それが人間に害をもたらす「悪魔」なら、こう言うだろう。
「お前たちのために、アンデス山中に貯めていたヘソクリを、満を持して、エサとしてばら撒いてやった。こうも俺のシナリオ通りにうまくいくと、気持ちがいいもんだな。しっかし、人間とはどこまでも浅はかで、醜い生き物だな。」
こそこそと銀を掘り出す人間たちをあえて見逃し、岩盤の割れ目から悪魔がにやにやと覗いていたとしたら。
歴史がすべて、悪魔のシナリオ通りだとしたら。
あれ、神でも悪魔でも、結論は同じじゃないか…。
無数の人々の命と引き換えに地底から掘り出された、原子番号47を与えられた物質Agは、アクセサリーやスプーンやオリンピアンの首にかかるメダルに形を変え、今日も世界中を回遊している。
【この一冊!】
『敗者の想像力』(N・ワシュテル、岩波書店)
