イグアスの滝は、今日も全開 ①
「かわいそうなナイアガラ…」
巨大な滝つぼから湧き上がってくるマイナスイオンを胸いっぱいに吸い込み、それをため息で吐き出しながら、彼女はそうつぶやいた。
と小説風に書き出してみたが、1997年の師走の僕は、南米大陸のブラジルとアルゼンチンの国境にある「イグアスの滝」の前で、全身びしょびしょで突っ立っていた。
北米大陸のナイアガラの滝、アフリカ大陸のヴィクトリアの滝と並び、世界三大瀑布に数えられるイグアスの滝は、知名度こそいまいちながら、面積、滝の数、流水量いずれも、ぶっちぎりで世界最大を誇るという。
日本人が「滝」という単語からイメージする、「崖の上から一本の水の筋が流れ落ち、その下で修行僧が水に打たれている」のようなものとは、全く別の光景が広がっていた。
アマゾンに降り注いだ大量の雨水は、次々と合流を繰り返す。そのうちの一本、イグアス川は、この場所で毎秒!65,000トンずつ、一気に大断層を流れ落ち、大西洋へ向かうのだ。
大小300近い滝が連なり、最大落差約80メートル、滝幅は約4キロ。見渡す限り水の壁。これは「滝」なのか? 「海がうっかり割れちゃったらこうなるかも」という、想像の守備範囲を超えるビジュアルだ。興味がある方は、ぜひ動画で検索していただきたい。
その中でも、エース級の迫力を持つ滝は「悪魔の喉笛」という分かりやすく安っぽい名前がつけられているが、文句なしにエースの貫録を漂わせていた。そして、そこには、「喉笛のぎりぎりまで近づいて、観光客をワーキャー楽しませちゃおうぜ!」という、ラテンの悪乗り全開のボート屋が営業していて、当時20代の怖いもの知らずの僕は、当然のようにチケットを買いボートに乗り込んだ。
申し訳程度にレインコートを買うことを勧められるが、遠目に他のボートを見ても、そんなもので防げるような水量ではないことは一目瞭然で、とりあえずカメラとパスポートだけは死守すべくパッキングし、船着き場を出発した。
三度の飯より悪乗りが好きそうな風貌の船長は、雄たけびをあげながら、滝つぼのキワのキワまでボートを横付けする。
当然ながら、水しぶきなんて生易しいものではなく、高圧洗浄機100本でいじめられている状態である。なんせアマゾンを流れてくる大河だから、丸太やら何ものかの死骸やら落ちてきて不思議ではなく、そしたら大事故確実なのだが、だれもそのような危機管理意識はもっていない。
そんなイグアスの滝とセットで語られるエピソードが、冒頭の「かわいそうなナイアガラ…(My poor Niagara...)」というセリフである。
アメリカ合衆国のルーズベルト大統領夫人がここを訪れた際、実際につぶやいたらしい。
現地のガイドからも聞かされた有名な実話なのだが、いまいちそのセリフの真意というか、いつどんなシチュエーションで、どんな文脈で、誰に向かって、どんな表情でつぶやいたセリフなのか、皆目分からない。気になるので、勝手に妄想してみよう…。
イグアスの滝は、今日も全開 ②…に続く
