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『白虎の路』 甲州街道とうりゃんせ 8

その8 「秋彦の策略」



秋彦の策略

1.奈津子を送って

 まるで定席のように、奈津子が助手席、秋彦と利紗世がセカンドシートに着席すると、運転席の直人が聞いた。

「んで、何処まで送ってけば良かったんだっけ?」

「奈津子は河口湖、あたしは大月、けっこう遠いよぉ!」

「えーっ、マジっ、そんなだったんだぁ(笑)」

「うふふ、怖じ気づいたか(笑)」

「仕方ねぇ、参りやすか・・」

「んじゃ、先に河口湖行って、帰りに利紗世、大月ってことで、宜しくぅ!」

「ほんじゃま、そゆことで、シュっパぁーツ!」

 発車して間もなく、直人を除く全員が、一日の疲れが出たせいで睡りだした。 隣では、奈津子がすぅすぅと寝息をたてている。 直人は、その無邪気で屈託の無い子供のような寝顔に愛おしさを覚えた。

 富ヶ谷から首都高に入って、中央道を八王子から大月を抜けて河口湖のインターを下りた。

「うぉーい、起きろぉー、河口湖のインター下りたぞぉ!」

 奈津子の指示通り河口湖駅まで来ると

「あ、ここで良いよ、ありがとう!」

 そう言ってアストロを降りた奈津子は、小走りに商店街の方へと姿を消した。

「はいっ、んじゃ次、大月ね」

 ”あぁーあ、行っちゃった” そう心の中で呟きながら、大月へとアストロを発車させた。

 大月のインターを下りて、利紗世を送り届けた後

「あっ・・・」

 奈津子とアドレス交換してないことに気付いて、思わず声を漏らした。

「ん、どした?」

「奈津子に携帯聞くの忘れちゃったぁ」

「あらら、そりゃ残念(笑)」

 いつもの直人なら、有り得ないことだった。

「なに、直人、お前やっぱ、なっちゃんのこと気に入ってたんだ」

「う、うん」

「あ、オッケー、んじゃオレ、利紗世に聞いといてやるよ」

「え、マジっ、ありがてぇー、秋彦最高、恩に着るぜっ!」

「良いってことよぉー!(笑)」

 秋彦は、不敵な笑みを浮かべていた。

2.秋彦からの電話

 明くる日の夜、秋彦からの着信。

「もしもし、あ、直人・・・」

「なんだよぉ、なんかあったの?」

「い、いや」

「あ、奈津子の番号、聞いてくれた?」

「うと、そのことなんだけどよぅ・・・」

「あんだよぉ、じれってぇなぁ、もぅ!」

「じゃ、メモれよ」

「おぅ、いいぜ」

「えと、090 XXXX OOOO」

「サンキュっ! んじゃ、さっそくかけるわ」

「いや、だからその・・・」

「めんどくせぇなぁ、言いたいことあんなら、早く言えよ!」

「オレ、先にかけてデート誘っても良いかな(笑)」

「なんだそれっ!」

「良いよなっ?」

「んと、おめ、なに考えてんのさ、奈津子って利紗世のマブだろがっ、利紗世はどうすんだよっ!」

「んな、堅いこと言うなよ、なっ!」

「んじゃ、先かけてみれば、オレ後からかけるし」

「じゃ、終わったら連絡入れるわ」

 随分、長い時間、話し中が続いている。 この時、直人は、奈津子が秋彦なんかの誘いに乗るはずないと思っていた。 だが違った。

「もしもぉーし、なぁおーとくぅーん!」

「なに嬉しそうな声出してんだよぉ」

「んだから、今度の日曜、デート誘ったってば」

「なんで」

「なんでって、なんでもだよ」

「どういうこと?」

「どうもこうも、デートはデートさ、おめ、もうかけるのやめる?」

「なんで?」

「なんでって、無駄でしょっ!」

「んなことないさ」

「じゃ、かければ」

「かけるさ」

「あっ、だけど、この話、俺が直人に言ったことぜってぇ内緒だかんな!」

「言えるか、そんなこと!」

 そんなやり取りを幾度か繰り返した後、直人も奈津子に電話した。

3.奈津子への電話

「もしもし、奈津子?」

「はぁーい、あっ、直人でしょっ!」

「うっ、なんで分かったの?」

「そんなの、声聞けば分かるよぉ」

「えっ、マジっ?」

「うっそ、ぴょぉーん! 利紗世が番号教えたって言ってたもん(笑)」

「なにそれ、つぅか、おめ、電話長くね。 ずっと話し中だしよぉ!」

 秋彦との通話であったことは、当然、知っていたが、それには、わざと触れなかった。

「あ、秋彦くんだよ。 だって、全然切ってくれないんだもん」

 奈津子が本当のことを言ったので、少し安心した。

「あっそ」

「ほぉーんと、秋彦くんって、しつこいんだよねぇ」

「ふぅーん」

「利紗世がいるんだから、利紗世んとこかけて話せば良いのにね」

「だよねぇ」

 それから、奈津子の父母の話、弟の話、奈津子が、おばあちゃん子であることなど、とりとめのない話が二時間余りも続いたろうか

「なあ、こうやって電話で話してんのも良いけど、奈津子の顔も見たいし、今度、デートしようぜ!」

「あ、うん、良いよ」

 ”やった” 直人は心の中で、そう小さく叫んで飛び跳ねた。

「あ、じゃあ、今度の日曜日にしよう!」

 次の日曜日は、奈津子が秋彦に誘われていることを知っていて、わざと言ってみた。

「あ、ごめん、今度の日曜日はダメなんだぁ」

「なんで、なんか用事?」

「あ、そういうんじゃないんだけど・・、ちょっとね」

 直人は、内心ムッとしていたが、それ以上追求することはしなかった。

「じゃ、土曜日は、どう?」

 別に、自信がなかった訳じゃないが、秋彦の手が早いのは充分過ぎるくらい知っていたから、直人は、秋彦より先に逢っておきたかった。

「あ、ごめん、土曜日は、エレクトーンなんだぁ」

「えっ、奈津子、エレクトーンとか習ってンのぉ?」

「うん、今度、講師のグレード取ろうと思って」

「へぇー、教えんの?」

「受かればね(笑)」

「発表会とかあんの?」

「あるよ」

「じゃ、花束とか舞台に持ってこうか?」

「やたっ!」

「奈津子、どんな花が好き?」

「うっとねぇ、霞草」

「えっ、か・す・み・そ・う? 霞草って、薔薇の花束とかと一緒に入ってる、あの白くて、ちっちゃい花がいっぱい付いてるやつ?」

「そう、それそれ」

「霞草を他の何かとアレンジするんじゃなくて、霞草だけが良いの?」

「うん、霞草だけの花束が良い」

「ふぅーん、そっかぁ、わかった、発表会ん時は、霞草だけで花束な、まかせろ!」

「うん、ありがと」

「んじゃ、いつにする? デート」

「んと、来週の土曜日は,直人、空いてる?」

「オッケー、来週の土曜日な、空けとくわ」

「待合せ、渋谷で良い?」

「あぁ、良いよ。 帰りは、ちゃんと送ってく」

「直人、車でしょ。 なっちゃん、こないだの宮下公園横で待ってる」

「おう、時間、11時とかで良いかな?」

「うん」

「ほんじゃ、おやすみぃ。 楽しみ、してるなぁ!」

「うん、おやすみ、直人」

4.秋彦惨敗

  その後の秋彦の計画では、渋谷に奈津子を呼び出して、道玄坂辺りのラブホにしけ込む算段をしていたらしい。 だがその算段も計画通りには運ばず、あえなく撃沈したようだ。
秋彦は、当日、奈津子と渋谷で待ち合わせ、食事の出来るカフェには行ったものの、口説くどころか、利紗世とのことについて散々説教じみたことを言われ続けたそうだ。
そんな訳で、カフェを出てからは、ラブホどころか、まだ日も暮れぬうちに、さよならを言われたらしい。

 秋彦曰く、利紗世のことさえなかったらと、嘆いていたが、奈津子の言うには、秋彦はタイプではないらしく、全くそれ以前の問題だったようである。
奈津子自身、単純で信じやすく、言葉に弱いタイプであり、その手の誘惑には弱い方なので、通例なら百戦錬磨の秋彦に落とせないはずはない。 やはり、秋彦は好みではなかった、というのが真相だったのだろう。

その9 「1stデート」に続く


#創作大賞2026 #恋愛小説部門

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