【判例読み解き】朝日訴訟(憲法25条の生存権は国に個別に主張できる?/プログラム規定と行政の裁量)
憲法第25条とプログラム規定について争われた朝日訴訟についてわかりやすく解説します。
基本情報
最高裁昭和42年5月24日大法廷判決
(昭和39年(行ツ)第14号:生活保護法による保護に関する不服の申立に対する裁決取消請求)
(民集第21巻5号1043頁)
事実の概要
上告人Xは、十数年前からF療養所に単身の肺結核患者として入所し、厚生大臣の設定した生活扶助基準で定められた最高金額たる月600円の日用品費の生活扶助と現物による全部給付の給食付き医療扶助とを受けていました。しかし、Xが実兄Gから扶養費として毎月1500円の送金を受けるようになったため、津山市社会福祉事務所長は、月額600円の生活扶助を打ち切り、右送金額から日用品費を控除した残額900円を医療費の一部としてXに負担させる旨の保護変更決定を行いました。同決定が岡山県知事に対する不服の申立および厚生大臣に対する不服の申立においても是認されるに至ったので、Xは厚生大臣を被告として、右600円の基準金額が生活保護法の規定する健康で文化的な最低限度の生活水準を維持するにたりない違法なものであると主張して、同大臣の不服申立却下裁決の取消を求める旨の本件訴を提起しました。
判旨
生活保護処分に関する裁決の取消訴訟は、被保護者の死亡により、当然終了する。
最高裁の判決文全文はこちらから検索できます。(事件番号に「昭和39年(行ツ)第14号」を入力してください。)
解説
本件については、「本件生活扶助の適否に関する最高裁の意見」が判決文に付随しているため、それを元に最高裁の「生存権」の解釈を解説します。
憲法二五条一項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定している一方で、最高裁としての憲法第25条(生存権)の解釈としては「国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない」というものでした。
また、健康で文化的な最低限度の生活」は、「抽象的な相対的概念」であり、その時代の社会情勢などによって簡単に変化するものです。例えば、戦後直後にはエアコンは高級品でしたが、現在(2026年)では、夏のエアコンは必需品になりつつありますよね。最高裁はこれらの状況を考慮し、(エアコンの例えは私が考えたものです)「健康で文化的な最低限度の生活」が具体的にどのような生活であるのかという判断基準は「厚生大臣の合目的的な裁量に委されて」いると判示しました。また、その厚生大臣の判断は、その後、不当であったと政治的な責任が問われることがあったとしても、「直ちに違法の問題を生ずることはない」との見解も示しています。その一方で、憲法や生活保護法の目的などを無視した判断基準を運用した(例えば、連日35度以上を記録する地域にてエアコンの使用を禁止するなど。この例も私が考えたものです。)時には「違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない。」 と示しました。つまり、ある程度の基準は行政の決定に委ねているけれども、憲法の趣旨は守るようにしてくださいということです。
では、今回の厚生大臣の決定が「現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合」であるか否かの判別はどのように行ったのでしょうか。こちらの疑問についても最高裁の見解をもとに読み解いていきます。
最高裁はまず、上告人Xの状況について、「日用品費の額の多少が病気治療の効果と無関係でなく、その額の不足は、病人に対し看過し難い影響を及ぼすことのあるのは、否定し得ないところである。」と日用品費の額についての配慮を示しました。しかし、患者の最低限度の需要を満たす手段としての法の役割や、生活扶助と医療扶助が制度として別れていること、さらには生業扶助というものも存在することなどから、医療制度の欠陥を補うことや退院後の自身の生活のために「同基準の違法を攻撃することは、許されないものといわなければならない。」との見解を見せました。また、日用品という抽象的な定義についても、「日用品」は個々の生活の仕方や症状の重さなどによって異なるため、「その全体を統一的に把握すべきである」と判示しています。最終的に最高裁は「原判決の確定した事実関係の下においては、本件生活扶助基準が入院入所患者の最低限度の日用品費を支弁するにたりるとした厚生大臣の認定判断は、与えられた裁量権の限界をこえまたは裁量権を濫用した違法があるものとはとうてい断定することができない。」 とし、厚生大臣の決定を事実上肯定する姿勢を示したものでした。
※「」内は判決文から引用。
参考文献
最高裁判決文(昭和39年(行ツ)第14号)
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