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夜職保育士さんと僕⑨ 治せない傷〜後編〜

この物語はたぶんフィクションです
ミキさんと僕もたぶん空想上の誰かです
でも、空想上でも良いから、2人のかけがえのない時間を残せたら良いなと思います

《注意》
今回の話は暴力を含む、性的な表現が含まれています。
強い不快感を感じたり、トラウマを思い出してしまう可能性があります
そのような方は、お読みになる事を控えていただきますようにお願いします


あの夜から一週間
ミキさんは昼間の仕事は休まず出勤していた

僕はと言うと、顔の腫れも治って外出出来る程度には回復していた

「眼鏡買いに行かなきゃだね、ごめんね。私のせいで酷い事になっちゃったよね」
土曜日の夕飯を食べながらミキさんが言った

あの夜、ミキさんからの1発目で僕の顔と一緒に眼鏡が壊れた
歪むとか言うレベルじゃなく、安物とはいえプラスチックのフレームがほとんど折れていた。
裸眼視力0.03の僕には、眼鏡無しの生活はなかなかに困難だった

慣れた家の中であればある程度生活できていたけど、外に出るとかなり危なっかしい
街にある案内板の類はほぼ認識できない
電車に乗っても、路線図が見えないから、車内放送を聞き逃すと、どこにいるのかが分からなくなる
だから、一人で出かけることはしなかった

「明日、眼鏡買いに行くの一緒に行ってくれる?」
僕の方から誘った
「一緒に行っていいの?」
「だって、一人じゃ出かけられないんだもん。どんな眼鏡がいいか選んでもらいたいし」
「うん、ありがと、じゃあ明日一緒にいこ」

日曜日
二人で一緒に眼鏡を買いに出かけた
家を出る時から、ミキさんは僕の手をずっと握っていてくれた
そう言えば、この日まで、ミキさんと手を繋いで歩いた事がなかった気がする

眼鏡屋で眼鏡を選び、受け取りは三時間後との事
「どこか、他に行きたいところとかある?」
とミキさんが言う
僕は少し迷ったけど
「ホテルいこ」
言った瞬間にミキさんの手に力が入ったのが分かる
「なんで?……」
言葉が続かないミキさんに対して
「今日だから」
と僕は答える
正直自分でも意味がわからない理由だと思う
でも、ミキさんは僕の手を引いて歩き出した

西武線の駅を越えて歩く
コマ劇横を通って少し、レンガっぽい外観のホテルに入った

部屋に入ってすぐに気がついた
ミキさんは泣いていた
だからじゃない、最初からそうしようと思っていた

僕は思いっきりミキさんを正面から抱きしめた
「僕はさ、僕だって男だよ。でも、僕は僕にしかなれない。他の男の人とは同じにはできないよ」
上手く想いが伝わるか分からなかったけど、この時の自分なりに全力の意思表示だった

「……」
ミキさんは無言だった
でも、両肩の力が抜けたと思った瞬間、僕を抱きしめてくれた

「ごめんね、君は君なんだもんね。分かってるよ。あんなやつとは違う。でも、あんな男みたいなの初めてで、凄く辛くて、凄く怖かった。妊娠しないからラッキーなんて言われて、自分でもどうして良いか分からなくなったんだと思う……」

「家に着いてシャワー浴びて、いろんな事が頭の中でぐちゃぐちゃになっちゃって……」

「自分でも何であんな事したのか分からないよ…
ごめんね、もうなんて言っていいかも分からない…
ごめんね」

ミキさんは途中途切れながらも話してくれた

「こういう時、なんて言えば分からない。でも、僕は僕だし、僕はミキさんのことが好きだよ」
「笑ってるミキさんが好きだし、怒ってるミキさんだって、ちょっと怖いけど好きだよ。少し酔ってるミキさんも好き。たくさん食べるミキさんも好き。夜職の事話してくれないけど、それでもミキさんが好き。全部好きなんだ。ミキさんのことが好き、ずっと好きだった」
思いついたことを、ただそのまま言葉にした

「私は君が好き、そういう君が好き」
ミキさんも、そっと答えてくれた

そのまま二人で少しだけ抱き合っていた
時間にしたら大して長い時間じゃなかったと思う

「お腹すいちゃった」
僕がきっかけを作った
でも、この時、安心したからなのかものすごくお腹が空いたのを覚えてる

ミキさんに手を引かれてホテルを出る
滞在30分、料金8000円
中々割高な『ご休憩』になった

少し歩いてとんかつ屋さんに入った
二人でヒレカツ定食を注文した
僕は二杯ご飯をおかわりして、ミキさんも一杯おかわりした

お昼ご飯を食べ終わって、少し早かったけど眼鏡を取りに行った
フレームの最終調整をしてもらって受け取る
やっぱり眼鏡をかけるとよく見える

眼鏡屋を出ると、もう世界はクリアに見えていた
でもミキさんは手を繋いだままでいてくれた

今日は家で映画を観ようってなって帰りにビデオ屋に寄った
僕が決めて良いよって言ってくれたから、バックトゥザ・フューチャーを借りて、ビールとお菓子、いつものチャーシュー盛り合わせを買って帰る

二人でシャワーを浴びて、リビングで諸々セッティングする
二人並んでビデオを観始める

30分もしないうちにミキさんが寝息を立てていた
色々疲れさせちゃったよね……
ベッドまで行くのも面倒かなって思って、そのまま二人並んで横になる

今日は僕からミキさんの手を握る
寝ているミキさんが少しだけ握り返してくる
(あぁ、そうか、こんな気分なんだ)
いつもより幸せな気持ちに包まれながら眠りについた


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