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夜職保育士さんと僕⑩ 介護実習〜前編〜

この物語はたぶんフィクションです
ミキさんと僕もたぶん空想上の誰かです
でも、空想上でも良いから、2人のかけがえのない時間を残せたら良いなと思います



介護の専門学校にはいくつかのクリアしなければならない実習がある
その中には、通いで行く実習だけでなく宿泊で行く実習もあったりする

週明けからの実習の準備をしていると
「明後日から2週間だっけ?どこまでいくの?」
とミキさん

「浜松の少し先にある障害者の施設だよ」
と答えながら、2週間は長いなと思っていた

「一緒に行ってあげよっか?浜松でうなぎ食べたい」
とミキさんはニコニコとしている

「仕事休めないでしょ。でも、会えなくなるのは少し寂しいかな」

「少し?少しだけなの?そんなんならもう一緒に行ってあげない」

そもそも来れないのは分かっているけど、ひょっとしたらと思ってしまうところもある

「最終日は日曜日だし、昼には浜松に戻ってるから、浜松で待ち合わせする?僕もうなぎ食べたい」

「いいの?ほんとに行っちゃうよ?ってか絶対行く!」
ミキさんは見ているこっちが幸せになるほどの笑顔で答えてくれる

あの一件以来、お互いに少しだけ遠慮みたいなものが無くなった
ペットの犬的な立場から、弟みたいなもの位にはランクアップしたのかもしれない

実習へ出発する朝
「実習中は夜まで携帯取り上げられちゃうから、あんまり連絡できないけど、必ず毎日電話するね」

「実習記録とか大変だから頑張ってね。遅くなっても良いから、電話待ってるね」
そう言って抱きしめてくれた

もう少しを期待してたけど
「リップが付いちゃうから、お迎えの日にね」
と言われてしまった

8時過ぎの東京発の新幹線で浜松へ
浜松から私鉄にに乗り換えて小一時間
人里離れた無人駅からさらにタクシーで15分
そんな場所に実習施設はあった
第一印象は
……なんか、脱走とかしたら遭難しそう
だった

施設に着くと、寮の部屋割りや実習生達の班分け、実習場所の振り分けがあった
僕は比較的軽度の知的障害の方が多い施設の担当で、班は学級委員長的な女の子がいる班だった
正直、最終日の実習発表の時に楽できそうだなと思ってしまった

実習は2週間で休みは3日間のみ
早番は7時から、遅番は10時からの始業
実習内容は
作業所での作業補助
入浴介助
食事介助
入所者との散歩などの日課の付き添い
施設内の清掃
などであった

一番辛かったのが作業所での作業補助
バイクメーカーから依頼された部品の組み立てをするのだけど、いわゆる単純作業…
丸いプラスチックのパーツに、太いゴムの輪をはめるだけ
日によって作業も変わるけど、ほとんど同じような内容で、これを午前中3時間もやる
しかも、優しいピアノのBGM付き
立ったまま寝る実習生が続発していた

1日の実習の終わりに実習記録の記入を行う
僕はあまり苦にならなかったけど、苦手な実習生はかなり苦戦していた

休みの日はとにかく洗濯
実習疲れで後回しにしていた分を一気に洗う
本を読みながら洗濯をして、1日が終わってしまう
ホントはミキさんとのんびり話をしたりもしたかったけど、平日だと結局夜の時間しか話すタイミングがなかった

実習も終盤になった頃、僕は大きな失敗をしてしまう
食事介助の場面で、入所者を窒息させてしまった
最初のむせ込んでいた時点で職員に助けを求めるべきだったのに、それを言い出せなかった
さらに状態が悪化して、入所者が痙攣している状態に気づいた職員の方が慌てて対応してくれた

気が動転してしまい、その場に立っているだけで何もできなかった
それどころか命を危険に晒してしまった
今となっては『あるあるだな』くらいに思えるけど、当時の僕はかなり落ち込んだ

「実習生に食事介助をさせているのに、ちゃんと見守りできなかった私たちの責任だから、あなたは落ち込まないでほしい」
と実習担当の方は言ってくれた
でも、何の役にも立てなかった自分にひどくがっかりしてしまった

そして実習最終日を迎える
僕は先日の失敗を引きずっており、実習発表やお別れのセレモニー等の、内容をほとんど覚えていない
施設を出発する際も、振り返りもしないで駅までのバスに乗ったように思う

浜松でミキさんが待っててくれる
それだけを励みにして、浜松行きの電車に乗り込んだ



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