預言者は知っていた - 7 #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門
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ニネベ 〜 回復
ニネベは前日から夜がずっと続いていた。
王をはじめ、兵士や都の住民、家畜に至るまで、すべての者が断食して主に祈っていた。
その夜、主はヨナに仰せられた。
「わたしはニネベの滅びを思い直そう。わたしはニネベに災いを起こさない。ニネベがわたしの目に悪と見えることを再び起こさない限り、ニネベには平和が続くであろう」
翌朝──滅びの日の朝、2日ぶりに太陽が昇った。
ヨナは朝早くガルシアを起こして、前夜の主の預言を伝え、すぐに行って王に伝えるよう頼んだ。
そして、「これからイスラエルへ戻る。ありがとう。元気でな」と別れを告げた。
ガルシアは「こちらこそ、本当にありがとう。ニネベが助かったのはヨナのおかげだ。感謝しても感謝し足りない。道中、気をつけて」とヨナの手を握って別れを惜しんだ。
ヴァンは「ヨナのアニキ、もしおいらがイスラエルに行くことがあったら、必ずアニキを訪ねるよ」と手を振った。
ヨナはガルシアとヴァンの住む家をあとにした。
*
ヨナは都が見渡せる東の丘に登り、腰を下ろした。
ニネベには太陽の光が燦燦と注がれていた。昨日までの暗闇が嘘のようなまばゆさだった。人々は王の布告──ガルシアが王に伝えた、主がニネベを赦されたとの預言を聞き、主に感謝し互いに喜び合っているのだろう。都の人々の喜びが伝わってきた。
ヨナは、ニネベが滅びなくてよかったと思った。だが一方で、胸の中が言葉に表せないほどもやもやしていた。
「なぜこんなことになったのだろう。
これでは俺はイスラエルの裏切り者じゃないか。
俺がニネベで滅びを宣告しなければ、ニネベは滅び、アッシリアは弱体化して、イスラエルはずっと平和でいられたのに」
そんなヨナの愚痴を聞いて主が声をかけられた。
「ヨナ。おまえはわたしに忠実だった。裏切り者ではない。わたしはおまえを祝福しよう」
「主よ。俺は知っていました。
あなたがあわれみ深い神であり、怒るよりも祝福することを優先される方であることを。
ニネベの人々が心からあやまちを認め、隣国を苦しめるようなことはしないと誓うなら、あなたはニネベへの災いを思い直されるであろうことを。
だから、俺は言ったじゃないですか。『ニネベは滅びればいい。アッシリアは滅んでしまえばいい』と。
ニネベに来てしまったら、ニネベのいい人たちと出会ってしまったら、滅びればいい、なんて、俺には言えないです。
主よ。あなたはずるい! 俺をニネベに連れてきて、ニネベの滅亡を思いとどまらせる手伝いをさせるなんて!
ヤロブアム二世──イスラエル王にどう言い訳するんです?
『ニネベは滅ぼそうと思ったけど、主の言葉を伝えたら、もうしませんとみんなが祈ったので、思い直した』と主が言われます。だからニネベは滅びませんでした。
……なんて言えるわけないじゃないですか。
ああ、イスラエルに帰りたくない。
でも母さんやマリヤが心配だ。俺のせいでひどい仕打ちを受けないといいが……。
ああもう、ニネベはやっぱり滅びればよかったんだ。ニネベに来なきゃよかった。
ああ、暑い。この日差しは何ですか。俺を焼き殺すつもりですか。いや、いっそ焼き殺してください。俺の人生なんか、何もいいことなかった」
「ヨナ、そんなに怒るな」
主は怒るヨナをなだめようと、1本の唐胡麻の種を蒔かれた。唐胡麻はあっという間に大きくなり、その大きな葉でヨナに日陰を作った。
いつの間に……不思議がるヨナだったが、体温が下がってくると、ヒートアップしていた気持ちは少し落ち着いてきた。
ヨナはそのままぼんやりと都を見下ろしながら時を過ごし、唐胡麻の下でいつの間にか眠ってしまった。
翌朝、主は1匹の虫を唐胡麻の葉に乗せられた。虫が葉をむしゃむしゃと食べてしまったので、唐胡麻は枯れてしまった。
朝の強い日差しが再びヨナに照りつけた。ヨナは目を覚まし、また怒りだした。
「なんだ、この葉っぱは! 一晩で枯れるとはどういうことだ!
ああ、もう何もいいことなんかない。葉っぱまで俺を馬鹿にしやがる!」
怒るヨナに主が声をかけられた。
「ヨナ。なぜ枯れた唐胡麻に怒るのだ」
「主よ。怒るのは当然です。昨日、日陰になってくれたのにすぐに枯れやがって」
主はそれを聞いてやさしく言った。
「おまえは、種を蒔き、水をやって、唐胡麻を育てたのか。
何もしていないおまえがなぜ唐胡麻に怒るのだ?
わたしが造り、育てた人間がここにいる。
わたしの声を聞いたことがない12万人以上の人間と多くの家畜がここにいる。
わたしはこのニネベを何もせずに滅ぼしてしまうことはできなかった。
だから、おまえを遣わし、わたしの言葉を届けたのだ。
おまえには酷な使命だったが、よくやってくれた。礼を言う。感謝する。ありがとう」
ヨナは主が頭を下げられたのを感じ、すうっと怒りが静まった。
イスラエルの神、主は全人類、すべての被造物を創造した神様だ。主は俺たちイスラエルを愛していると言ってくださるが、主は他の国の人々のことも気にかけておられるのだ。それに気づかなかった自分はなんて愚かなんだ。預言者失格だ。
そんなことを考えていると、主が砕けた口調で話しかけられた。
「ヨナ。今、自分のことを預言者失格とかって思ってたろ。さっきの言葉だけで、わたしの思いをわかってくれたんだから、りっぱな預言者だ。悲観しなくてもいいぞ。
それにさっきも言ったけど、ほんとに今回の働きは見事だった。おかげでニネベを滅ぼさずに済んだ。おまえはニネベの救い主だ」
「主は、俺のこと、赦してくれるんですね。ありがとうございます。
できれば、これからもよろしくお願いします」
「何言ってるんだ。ヨナとわたしの仲じゃないか。こちらこそよろしく、だ」
怒ると恐ろしいが、こちらが非を認めて謝るなら、何事もなかったかのように親しく接してくれる主がヨナは大好きだった。
主と和解して、もやもやとした気持ちに整理ができたヨナは帰路に着いた。
(つづく)
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