預言者は知っていた - 8 (終) #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門
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帰還
ヨナは帰路についた。
チグリス川を離れ、西へ向かった。アッシリアを抜け、アラムを縦断するように南下して北からイスラエルに戻る道を選んだ。
来るときは何が何だかわからないまま、“ゼガ”に乗って──正確には、飲み込まれて──海に潜って空を飛んで川をのぼって3日でやって来たが、ニネベとイスラエルの距離は、歩けば30日以上かかる距離だった。
だが、そんな長い道のりも主といっしょであればあっという間だった。
ヨナは歩きながら主と話した。
今回のできごとを振り返ったり、まだ聞いたことのない昔の預言者の話を聞いたり、遠い東の国の話やずっと未来の話を聞いたり、ヨナは主と歩いていると退屈しなかった。
帰りの旅も終わりに近づき、ヨナはイスラエルに入った。峠道を下ると、遠くから手を振っている人影が見えた。
人影は走り寄り、ヨナに「おかえりなさい」と言った。ヨナを出迎えたのはサマリヤで別れ、母とマリヤ、イスラエルのことを託した、ユダから来た少年だった。
「ヨナ様、おかえりなさい。お勤めご苦労さまでした」走ってきたせいで息が上がっていたが、少年は元気にヨナに向かって挨拶した。
「ど、どうして、ここにいるんだ、少年。連絡もしなかったのになぜ俺が帰ってくるとわかったんだ?」ヨナは何が何だかわからなかった。だが、次の瞬間、ピンと来た。
「そうか、主に聞いたんだな。主の御声が聞こえるようになったんだ。すばらしい! よかったな。そして、出迎えありがとう」
ヨナは、この瞬間、そばで聞いている主の姿を想像した。人間であれば、視線を逸らして口笛を吹きながら「わしは何も言っとらんよ~」と知らん顔をしているはずだ。ほんとにサプライズ好きな神様だ。
二人は故郷ガテ・ヘフェルに向かって歩きながら話をつづけた。
「昨日、主からヨナ様が帰ってくるので迎えに行くように言われました。
はるばるニネベまでお疲れさまでした」と少年はヨナをねぎらう。
「いつから俺がニネベに行くことを知ってたんだ?」と訊くヨナに、少年は「最初からです」と答えた。
「私は知っていました。
ヨナ様がガテ・ヘフェルで主から預言をもらったとき、私にも主が語ってくださいました。主が語ってくださったのは、あのときが初めてです。
主は、ヨナ様が王に預言を伝えたあとニネベに向かう、と教えてくださいました。
なので、サマリヤで反対方向に行くとヨナ様が言われたときは心底驚きました。そっちじゃないでしょ、こっちですよ、って、私が引き留めたのにもかかわらず、ヨナ様は怒るようにして西へ向かったんですから。ほんとにどうなることかと思いました」
「そうだったのか。あのときは悪かったな。俺はニネベに行きたくなかったんだ。なのに、主がうるさく『ニネベへ行け』って言うもんだから、主の御声が聞こえないくらい遠くに行こうって思って船に乗ったんだ。そしたらよ……。
おっと、俺の話は長くなるからあとにしよう。
その前に……少年、おまえはどのあたりまで主から聞いてるんだ?」
「ヨナ様がニネベで主の預言を伝えて、主がニネベを滅ぼすことを思い直されたことは聞いています」
「そうか。そのことはイスラエル王にはまだバレてないだろうな。預言が外れたと知れたらどんな仕打ちを受けるか。主の信用もなくなるだろうな。さて、どうしたものか……」と考えに沈もうとするヨナに、少年はニコニコと答えた。
「そのことでしたら大丈夫です。私が主から聞いたことを王に伝えておきました。
『預言者ヨナはニネベに行き、滅亡よりも平和的な方法でアッシリアを正しい道に導かれた。滅亡による混乱でアッシリアが弱体化すると、これまで共闘していたアラムがイスラエルを攻撃してくるかもしれないが、アッシリアが今のままの勢力を保ったままで侵略をやめるほうがイスラエルにメリットがある』と私が伝えると、王はたいそう喜んで褒美を持たせてくれました。
すっごく緊張しましたが、うまく行ってよかったです」
「そうか。さすが次世代のエース預言者だ。おまえがいてくれて本当によかったよ」
ヨナは少年に大冒険の話をした。少年もヨナが不在の間のことを話した。お互い、おもしろおかしい話がたくさんあって楽しく話しているうちにガテ・ヘフェルに着いた。
「ヨナ、お帰り!」マリヤはヨナに駆け寄った。
「マリヤ、ただいま」ヨナはマリヤを抱きしめた。「すまない。待たせた」
「おかえり、ヨナ。元気そうでよかった」母もヨナを笑って出迎えた。
エピローグ
少年はヨナからニネベ行きの話を聞き、自分も大魚に飲み込まれたい、空を飛んでみたい、海底のエジプト兵の残骸を見たい、ニネベに行ってみたい、と主にお願いしたが、「また今度ね」とはぐらかされた。しばらくして少年はユダに帰り、預言者アモスとして活発な活動を始める。
ガルシアは諸国を歩いて回り、その地の歴史や文化、宗教などの調査研究を行った。多くの伝説や神話も聞いたが、ヨナのようにその奇蹟を実際に体験した者はいなかった。チグリス川で大魚から吐き出されたヨナが話した体験ほど刺激的な話は誰からも聞けなかった。
アッシリアは、アダド・ニラーリ三世の在位中、他国侵略を行わなかった。王が内政の立て直しに力を入れ、国民は平和に暮らした。しばらくして息子シャルマネセル四世に王位が移り、数代のちには、イスラエルの神、主にお願いして滅亡をまぬがれたことはすっかり忘れられ、もとの拡大政策に戻り、アラム、イスラエルへの侵攻を進めていく。
イスラエルは、ヤロブアム二世の治世下で最大の領土と繁栄を得た。だが、王は偶像礼拝──イスラエルの神ではなく仔牛の像を礼拝すること──をやめなかった。アモスたちユダの預言者がやめるよう進言したが、王は聞く耳を持たず、次第に国を衰退させていった。
ヨナはマリヤと結ばれ、母ヤウラと三人で楽しく暮らした。しばらくして家族が増え、待ち望んでいた孫の顔を見ることができたヤウラは大喜びだった。そして、ときに主をも交えて行われるヨナ家名物、面白トークは、家族の人数が増えるにつれてゆるゆるとその規模を増していった。
主はいつまでもヨナとともにおられた。
主はヨナが愛する者とともにおられ、ヨナを愛する者とともにおられた。
きょうも預言者は祈る。
「主よ、お語りください。しもべは聞きます」
【 完 】
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