ジュリア草子 in London、ジュリアの秘湯旅行記、イブリダ秘湯物語
今回は、9月20日発売の「ジュリア草子 in London」、10月4日発売の「ジュリアの秘湯旅行記〜極上の温泉×ビール×ロックンロール〜」、そして、10月26日発売の「イブリダ秘湯物語〜温泉にまつわる十五の短篇〜」をまとめてご紹介させていただきます。
ジュリア草子 in London
コチラは、秘湯エッセイ「ジュリア草子」のロンドン版です。
よって、舞台は秘湯ではなく、ロンドンが中心となります。
色々とロンドンは経験してますので、その内容を楽しんでいただけれは幸いです。

Amazonでの紹介文は下記の通りです。
かつてロンドンで学びを重ねたジュリアが、再びこの街を歩きながら「をかし」を探し出す。観光ガイドでも旅行記でもない、ユーモアと妄想で綴る「ジュリア草子」シリーズのロンドン編。全36話のエッセイとして、ロンドンの日常と旅人のまなざしが交錯し、ささやかな発見と愉快な瞬間を描き出す。
36話の構成は以下の通りです。
★第一草:異邦人の玄関
●街の玄関口(アールズ・コート/パディントン/ホテル)
●チューブ(ディストリクトライン/ピカデリーライン/エリザベスライン)
●バス(停め方/二階の最前列席/ナイトバス)
★第二草:空も陸も混沌
●LCC(ライアンエアー/イージージェット/LCC空港)
●謎の酒(シャンディ/ストロングボウ/ウィスキーのペプシ割)
●パブチェーン(ウェザースプーン/ブリュードッグ/フーラーズ)
★第三草:文化も言葉も癖だらけ
●再生のプロ(テート・モダン/バタシー発電所跡/キングスクロス)
●英国コンテンツ(音楽/ウィンブルドン方式/英国車)
●英語(THの発音/Cheers/Anything else)
★第四草:雑多な日常
●娯楽(外食/フットボール観戦/中食)
●暮らし(生活/くしゃくしゃ/公園)
●生活グッズ(高速沸騰ケトル/ウィジェット/謎日本語Tシャツ)
ジュリア草子 in Londonの紙書籍↓
ジュリア草子 in Londonの電子書籍↓*Kindle Unlimitedの対象です。
ジュリアの秘湯旅行記〜極上の温泉×ビール×ロックンロール
コチラは、お気付きの通り、一作目「ジュリエッタの秘湯旅行記〜極上の温泉×ビール×ロックンロール」とほぼ同タイトルとなっています。
そして、内容もほぼ同じです。
異なるのは文量で、約半分の長さにしています。
というのは、一作目の刊行以来、その冗長さがずっと気になってまして(どうしてそうなったのかは不明です笑)、今回、このタイミングで思い切って半分にしてみました。
それでやっと普通になったというか、まぁそんな印象になりました。
よって、今回の「ジュリアの秘湯旅行記」は、一作目の「ジュリエッタの秘湯旅行記」と内容は全く同じで、トテモ読み易くなっているのではないかと思われます。

あ、でも折角の機会ですので、半分にした文章をもとにGPTさんとGeminiさんに手伝っていただき、英語版を作成しました。
この内容は日本語版の巻末に付けていますので、併せてご参照いただければ幸いです。
※英語版の巻末にも日本語版を付けています笑
で、驚いたのは両生成AIさんの英訳力です。
本当にすごいです。
具体的には、GPTさんによる英訳→Geminiさんによる校正→GPTさんによる校正という形でドラフトを作成しましたが、自身で校正した箇所は合計で約100か所程度だったのではないかと思います。
その辺りで、まだ完璧でないという言い方もできますが、ここはもう原作者にしか分からないニュアンスだと思いますので、もう既に十分なのではないでしょうか。
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イブリダ秘湯物語〜温泉にまつわる十五の短篇〜
最後は最新作です。
実は現在、様々な短篇系のコンテストに応募していまして、すっかりこのスタイルの楽しさに目覚めてしまいました笑
で、少なくとも当面はこの短篇創作に没頭しようかと思っています。
ということで、日々、ふと何かが降りてきた時にメモをとっている次第です。
あ、内容はすべて温泉にまつわるものばかりで、「湯」をキーワードとしています。
そんな感じで生まれた短篇の中から、内容的にコンテスト向きではないと思われるものを集めたものが、「イブリダ秘湯物語〜温泉にまつわる十五の短篇〜」となります。
※逆にコンテスト向きと判断したものは、それぞれのレギュレーションに合わせて膨らませていきます。

この短編集のAmazonでの紹介文は下記の通りです。
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本書『イブリダ秘湯物語』は、十五の温泉にまつわる短編集です。
イタリア語の “Ibrida(イブリダ)” は、「混ざり合うもの」「異なる要素が交わって新しく生まれるもの」という意味を持ちます。
本書の主人公イブリダは、湯と岩、蒸気と風、土地の記憶と旅人のまなざし――さまざまなものが交わる瞬間に現れ、
ときに湯守として、ときに旅人として、ときには政治家や科学者として姿を変えながら、「混成(ibrida)」の力を生きています。
物語の舞台は、現実と幻想のあわいにある十五の湯。
そこには、人の感情を受け止める湯、国家を揺るがす湯、神話を蘇らせる湯、そして文明を再生する湯が登場します。
湯がもつ“変容”の理(ことわり)――それは、読む人それぞれの心の温度に呼応して姿を変えていくのです。
収録作品
1.点数では測れないもの
2.湯使いたちの戦い
3.棺ではなく湯舟
4.黒と白のトラベルメイツ
5.聖湯教の経済圏
6.湯精の夏
7.メディテーションズ
8.湯士道
9.湯舟の女神
10.湯魔人宣言
11.湯獣人に生まれて
12.湯王と八湯姫
13.やさしい湯志たち
14.消えた湯獣
15.IPA細胞カプセル
湯は、かたちを持ちません。だからこそ、すべてに変わることができます。
この十五の物語は、そんな“湯の記憶”をめぐる旅の記録です。
湯気の向こうにある静けさと熱を、どうぞページの中で感じてみてください。
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イブリダ秘湯物語の紙書籍↓
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今回はこの最新作から、「湯魔人宣言」を紹介させていただきます。
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この村には、昔から二種類の人間がいる。湯人と湯魔人だ。湯人とは、湯を愛し、湯に仕え、湯に抱かれて暮らす人々のことをいう。彼らは働き、納税し、祭りの日には湯を祀る。湯を守ることは村を守ることと同じだと、代々教えられてきた。湯人の家には必ず小さな風呂があり、朝と夜にはかならず湯に入る。その湯気の白さこそが、この村の日常の証だった。
そして、もうひとつの存在が湯魔人である。湯魔人は、湯に憑かれた人たちのことを指す。最初は普通の湯人だったが、次第に仕事をやめ、家事をやめ、ついには湯に入る以外のことをしなくなってしまう。「湯魔人になったらおしまいだ。」と、村の子どもたちは大人からそう教わる。彼らは恐れられ、同時にどこかで羨ましがられている。
湯魔人たちは、昼の湯に浸かっている。働く者がいない時間に、湯気の奥でぼんやりと話をする。村の誰も、彼らを追い出そうとはしない。なぜなら、湯魔人がいる限り、この村の湯が枯れたことはないからだ。湯守たちは密かにこう言う。「湯魔人は湯の代弁者だ。湯の気持ちを吸って生きている」と。
湯人が湯を使うのに対し、湯魔人は湯に使われている。どちらが幸せかは、誰にもわからない。ただ、湯魔人の目だけは、いつも静かに澄んでいる。この物語は、この村に住む三人の湯魔人――ティーアイ(湯魔人歴二十年)、イブリダ(同歴十年)、スピリチアーレ(同歴五年)――の物語である。
昼の湯は、いつもよりぬるかった。湯面の上に、三人の背中が並んでいる。湯気のむこうで、ティーアイが長いため息をついた。「今年もまた、詩のコンクール落ちたよ。」「出してたんですか?」とスピリチアーレが振り向く。「出した。“湯気の形をした孤独”って題で。」「……あったかそうな孤独ですね。」「湯気が立ってるうちはね。すぐ消えるけど。」湯が、ぽつりと鳴った。
イブリダは黙ってその音を聞いていた。詩を書いても、読まれることはない。湯魔人の詩は湯の中で生まれ、湯の中で消える。それでも三人は、書くことをやめなかった。「マルクスって、若いころ詩人だったらしいですよ。」スピリチアーレが泡を指で弾きながら言った。「詩が売れなかったから世界を変えたんだって。」「なるほど。」ティーアイが目を細める。「つまり私たちは、世界を変えずに湯に沈んだ詩人ってこと?」「でも、世界を変えるより、湯を変えるほうが難しいですよ。」「うまいこと言うね。それ、詩にしておこう。」三人は湯の中で、静かに笑った。
湯が揺れ、湯気がひときわ白くなった。湯の上では、いつも同じような話が繰り返される。詩は売れない。金にもならない。けれど、湯の音だけは、三人の詩を聞いてくれていた。「ねえ、イブリダ。」ティーアイが言った。「次のコンクール、出すの。」「まだ書けていません。」「また“湯の中で考え中”か。」「ええ。湯が煮えたら書きます。」ティーアイが微笑む。
スピリチアーレが手で湯をすくった。「詩って、湯みたいなものですよね。熱すぎたら読まれないし、冷めたら忘れられる。」「じゃあ今のは?」「……ちょっとぬるいです。」湯の中に笑い声が広がった。その音は、村のどこにも届かない。けれど湯だけは、それを全部覚えていた。
昼を少し過ぎたころ、イブリダは家の者に頼まれて郵便局へ行くことになった。湯魔人にとって、それは遠征に近い出来事だった。湯のぬくもりを離れ、服を着るところから、すでに億劫だった。湯気のない部屋で靴下を履くと、足の肌が乾き、空気が刺さるようだった。その感触だけで、心の奥がきしむ。
外の風は思っていたより冷たく、音が多かった。車の音、風の音、人の声。どれも角ばっていて、湯の中では聞こえなかった硬い音たち。世界は、こんなにもとがっていたのか。郵便局は役場の向かいにある。村の掲示板の前を通りかかると、新しいポスターが貼られていた。【全国詩文エッセイコンクール募集 テーマ:あなたの生き方】
イブリダは足を止めた。紙の白さがまぶしく、風に揺れるたびに湯気のように光った――あなたの生き方。その言葉が、胸の奥で小さな泡を弾かせた。自分の生き方なんて、とうに湯の底に沈めてきたはずなのに。けれど、湯のない空気の中で、久しぶりに何かを書きたくなった。
用事を済ませて湯へ戻ると、ティーアイとスピリチアーレがもう浸かっていた。いつもの昼湯。湯気の向こうから、やわらかな声がした。「ねえ、外はどうだった?」「乾いていました。」「だろうね。外はいつだって乾いている。」スピリチアーレが首をかしげる。「何かあったんですか?」「うん、ポスターがあってね。」「またコンクール?」「“あなたの生き方”って書いてあった。」「難しいテーマですね。」
「でも、湯魔人として生きるって、悪くないと思わない?」ティーアイが少し笑った。「まさか、出すつもり?」「……書いてみようと思っています。」「やめておいた方がいいよ。どうせ最後まで書けない。」スピリチアーレが冗談めかして言う。「でもタイトルは、もう決まっているんでしょ?」「……“湯魔人宣言”。」湯の音が、ふっと高く鳴った。まるでその言葉を祝福するように。
翌朝、村の湯気はいつもより静かだった。湯の音が遠くに聞こえる。昨日、「書く」と言ってしまったせいかもしれない。その一言が、夜の間ずっと頭の中で湯のように渦を巻いていた。イブリダは目を開けた。外はまだ白んでいない。寝返りをうつたび、布団が湯の残り香を放った。
こんな朝に何かを始めたことは、一度もない。湯魔人にとって朝とは、二度寝のための時間だ。けれど今日は違った。湯に行く前に、机に向かうべきような気がした。枕元には、昨日まではただの置き物だったノートがある。表紙の角が少しめくれている。「書く」と言ったのは、ほんの思いつきだった。けれど、言葉は湯よりも強い。いったん口にしてしまえば、もうぬるま湯には戻れない。
布団から出て、冷たい床に足を下ろした。その感触が、湯の外の現実を思い出させる。息が白い。湯のない空気は、こんなにも軽くて脆い。イブリダはノートを開き、ペンを取った。指先が冷えて震える。湯のぬくもりが恋しかった。それでも、書かなければならない気がした。
「わたしは湯魔人である。」書いた瞬間、湯気のない部屋に、湯の音がよみがえった気がした。小さな字が、湯の泡のようにページの上で光っている。その泡を壊さぬよう、イブリダは息を殺して次の言葉を探した。書き始めると、止まらなかった。湯の音が頭の中で鳴り続け、湯気の動き、泡のはじけるリズム、すべてが言葉になっていくようだった。
家の者が最初に驚いた。いつも昼まで布団の中にいる人が、朝から机に向かっている。戸口で小声がした。「どうしたの。熱でもあるの?」イブリダは答えず、湯気のように手を動かし続けた。その噂はすぐに村じゅうに広まった。湯のように流れる話は速い。「イブリダが何か書いているらしい」「原稿用紙が湯の代わりになったんだと」「湯魔人をやめる気じゃないか?」
その日の昼の湯は、少し寂しかった。ティーアイとスピリチアーレが並んで肩まで浸かっている。「今日は来ないね、イブリダ。」「寝坊じゃないんですか?」「いや、違うらしい。家でずっと書いているって。本気で“宣言”を書く気みたいだ。」スピリチアーレが湯をすくいながら、心配そうに言う。「まさか、湯魔人を卒業するつもりじゃないですよね。」湯の表面で泡が一つ弾けた。二人はその音をイブリダのため息のように感じた。
「卒業か……。」ティーアイがつぶやく。「そんな制度、湯魔人にはなかったはず。」「でも、もし本当に湯から出るとしたら?」「寂しいことだね。」湯の中に沈むように、二人の声が消えていった。その頃、イブリダの部屋では、原稿用紙がもう十枚を超えていた。ペン先は止まらず、その中では、湯が煮えたぎっていた。
原稿を書き終えた瞬間、部屋の空気が止まった。湯気のない世界で、湯の音だけが耳の奥に響いていた。机の上には、ペンと十数枚の原稿用紙。最後の一行を見つめながら、イブリダはしばらく動けなかった。手が、まだ湯の温度を覚えていた。胸の奥で、湯が静かに波打っていた。書き上げても、何も終わった気がしなかった。むしろ、湯の底に沈んでいた何かを掘り起こしてしまったような疲れがあった。
窓の外で風が鳴った。それが、湯気の代わりの拍手のように思えた。封筒に原稿を入れ、宛名を書く。字がふるえていた。湯のない空気は、思っていたよりも重い。ポストの口に紙が吸い込まれた瞬間、湯魔人イブリダの、初めての行動が終わった。
家に戻っても、身体は軽くならなかった。むしろ少し重くなった気がした。机の上には、書き損じの紙が山のように積まれている。どれも湯の泡のように、乾いてしずんでいた。昼になっても、湯へ行かなかった。身体が湯を欲しているのは分かっていたが、いま湯に入れば、すべてが溶けてしまいそうだった。湯の温度が、言葉を溶かしてしまう気がした。
村ではすぐに噂が立った。「湯に行ってないらしい。」「まさか、本当に卒業か?」「湯魔人をやめるなんて、聞いたことがないぞ。」ティーアイとスピリチアーレは、相変わらず湯にいた。二人の間の湯気が、少しだけ重く感じられた。「ねえ、やっぱり来ないね。」「今日で十日目です。」「十日も湯に入らないなんて、前代未聞だよ。」「湯魔人、ついに湯を離れたのでしょうか。」
ティーアイが力説する。「いや、湯は離れるものじゃない。きっと、少し遠くから見ているだけ。湯も、たまには人を眺めたいんだよ。」湯の表面が、小さく鳴った。まるで、その言葉に同意するように。そのころ、イブリダの部屋では、乾いた湯気の匂いがまだ残っていた。窓の外を見つめながら、思う。自分が“湯を離れた”のか、それとも“湯に書かされた”のか。もう、わからなかった。
封を切ったのは、四十代くらいの審査員だった。全国から届いた百を超える原稿の中で、その一枚だけ、手触りが少し柔らかかった。紙の隅に、うっすらと湯気の跡のようなシミがあった。男は原稿を手に取り、静かに読みはじめた。
湯魔人宣言 ― 湯の民の綱領 ―
わたしは湯魔人である。湯の歴史は、熱と冷のあいだの記憶である。熱すぎる者は焦がれ、冷たすぎる者は凍える。そのあいだで、ぬるい者だけが笑ってきた。
わたしたちは湯の民である。湯に生まれ、湯に沈み、湯に誠実であることを誇りとする。働かず、戦わず、ただ湯に浮かびながら、世界の音を聴き、今日の湯が昨日よりやわらかいかを話し合う。それがわたしたちの労働であり、祈りである。
湯は誰のものでもない。湯気はすべての者の上に平等に降りそそぐ。湯の温度を奪おうとする者、湯を測ろうとする者、彼らはいずれ湯に呑まれる。
湯は競わない。遅れる者は湯の底でゆっくり追いつく。湯の世界には勝者も敗者もない。あるのはただ、「ちょうどよさ」という幸福だけである。湯が静まれば、わたしたちも静まる。湯が荒れれば、わたしたちも荒れる。湯が冷めれば、新しい湯を探す。
わたしたちは宣言する。湯の温度を取り戻せ。湯の権利をすべての者へ。すべての熱き者と冷めたる者をして、ぬるき湯の中でひとつにならしめよ。湯のぬるさよ、永遠なれ。
わたしたちは失うものを持たない。得るものは、ただの湯である。湯は沈黙の中で語り、わたしたちはその沈黙を聴く。湯が冷めるとき、わたしたちはまた湯を沸かす。その繰り返しこそ、生きることのすべてである。
湯はいつか大地に還り、雲となり、雨となって戻ってくる。だから、湯魔人は滅びない。湯の音が止むとき、世界も止まる。それでも湯は、地の底で息をしている。
わたしたちはその音を聴きながら眠る。明日もまた、湯の夢を見よう。
読み終えたとき、部屋の中は静まり返っていた。時計の音だけが、湯のしずくのように聞こえた。審査員は小さく息を吐いた。「……悪くない。意味は分からないけれど、悪くない。」そして、原稿をそっと「選外候補」と書かれた箱の中に置いた。
紙が底に触れる音が、湯の底で泡が弾ける音のように聞こえた。男はしばらく、その音を聴いていた。そして次の原稿を手に取った。湯魔人宣言は、一枚の紙になって、静かに湯へと還っていった。
湯は、ゆっくりと沈黙を取り戻していた。けれど、その沈黙の中には言葉が残っていた。湯魔人が残した宣言――それは、湯の声を人の言葉にしただけのことだったのかもしれない。
湯は争わない。熱すぎる者も、冷たすぎる者も、そのあいだで、ただ笑えばいい。湯は誰のものでもない。湯気はすべての者の上に降りそそぎ、奪う者も、測る者も、いずれ湯に還る。
湯が静まれば、人も静まる。湯が荒れれば、人も荒れる。湯が冷めれば、誰かがまた火をくべる――それが、生きるということ。そうして湯は、今日も息をしている。地の底で、静かに音を立てながら。そしてその音を聴く者がいるかぎり、湯魔人は、まだどこかで生きている。
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以上、いつも応援してくださり誠にありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
