#16 編集後記
「ひと呼吸 weaver」の取材をした編集メンバーが、後日感想などを綴った「編集後記」です。ぜひ、記事本編とあわせてお読みください。
「余白を写す」
大前勝利/『ひと呼吸weaver』撮影担当
「ひと呼吸」をはじめて手にしたのは、学生時代、一人の読者としてでした。登場する方たちは先駆的に障害学生支援の分野を切り拓いてきたひとたちで、学生サポーターとして支援のお手伝いはしていたものの、全く違う分野で学生をしていたわたしからするとどこか遠い存在として映っていました。
それがいつのまにかお仕事でご一緒させていただくようになり、気がつくと今度はカメラを手に「ひと呼吸」を製作する側になっていました。ご縁って不思議なものです。(わたしが障害学生支援の分野で働くことになったご縁については、またなにかの機会に。)
これまでも様々な方を撮影させていただく機会はありましたが、再始動する「ひと呼吸」の撮影には肩に力が入りました。瓜生さんとは研修等でご一緒したことがありましたが、番園さんとははじめましてでした。
そんなおふたりの対談は、番園さんが手土産にもってきてくださったあんみつを前に、おだやかにはじまりました。
おふたりの空気感をうまく写真で伝えられていたら嬉しいです。
おふたりの言葉を追いかけながら、窓から差し込む光やおふたりの表情をファインダー越しに見ていました。ときどき話に聞き入ってしまい撮影を忘れかけることもありましたが、読んでいる皆さんが実際にその場で話を聞いているような感覚になれたら、という想いで静かにシャッターを切っていました。
「ひと呼吸 weaver」として再び歩みはじめたこの連載に、これから様々な方が登場することと思います。
読者だった頃、「ひと呼吸」の記事にはふっと息をつける余白のようなものを感じていました。今度はその余白を、写真という形で届けられればと思っています。
かつてのわたしのように、どこか遠い世界の話だと感じている方にも、障害学生支援に関わるひとの等身大の姿が、対談の空気とともに伝われば幸いです。
大前勝利・おおまえかつとし
京都大学ディスアビリティ・インクルージョンセンター ATスペシャリスト
大学在学中に学生サポーターとしてPCテイクに携わったことをきっかけに、支援技術(AT)の世界に魅了される。2021年10月よりHEAPプロジェクトスタッフとして携わり、2025年4月よりディスアビリティ・インクルージョンセンター ATスペシャリストを兼務。現在に至る。
高校生の頃から写真を始め、風景を中心に撮影していたが、フォトグラファーの浅野友朗氏に師事したことを契機に人物撮影へと領域を広げる。被写体との対話を大切にしながら、企業・ブライダル撮影を中心に手がけてきた。
ATスペシャリストとしても、フォトグラファーとしても、根底にあるのは「ひとに向き合うこと」。その難しさのなかにこそ発見があると日々感じている。
「曖昧な場所に踏みとどまる」
木谷恵/『ひと呼吸weaver』執筆担当
7年前、この「ひと呼吸」がはじまったとき、わたしは幸いにもその立ち上げの場に居合わせました。村田さんを中心にホワイトボードを囲みながら、この「ひと呼吸」という誌名について語り合った時間は、記憶の補正は多分にあるとは思いますが、いまふり返ればややのんびりとした穏やかな時間でした。それは、番園さんの言う「すがすがしいほど無力なアドボケーター」ということばに近い、わたしのなかではひとつの原風景のようなものとして残っています。
当時は障害者差別解消法が施行されて間もなく、「障害学生支援」ということばの連なりもまだ聞き慣れないものでした。そんな支援の現場は、とにかくやっていこうという手探り、手づくりの精神に溢れていたように思います。
わたし個人の話になりますが、2020年から2025年までの5年間は、実務としての障害学生支援から離れていました。意識していたわけではありませんが、この5年の間に、結果としてこの分野を俯瞰する視座を与えられたように思います。
時間を経て感じたことを少し書きます。
合理的配慮の概念はずいぶんと広がったようです。支援のプロセスも、技術的かつシステマティックに整備されつつあるように感じます。ただ、同時に、変わっていないこともあるように感じています。それは、権利を権利として主張することの難しさです。
学びたくても障害があるゆえに学べない現状に対して、本人が環境の調整を求めることは正当な権利であるはずです。法律ができて、システムが整って、声をあげやすくなったということはあるかもしれません。けれども、多くのひとが障害学生への合理的配慮や環境調整を、無意識も含めてコストとして感じ取ってしまう現状は依然存在しているように思います。
むしろ、システムが整ったことで、かえってその感覚が増しているようにすら思います。システムは自動的に処理できることには寛容ですが、そこから少しでもはみ出ることがあると、途端にそれをエラーとして排除しようとします。
今回の「ひと呼吸 weaver」では、以前のようなインタビュー形式ではなく対談形式を選びました。対談を終えてわかったことは、一人のひとにインタビューをするときとは違って、終わってみないと記事の内容がどうなるかまったくわからないということでした。
対談では、ときに話があちらこちらに飛んで、予定とは違う方向に話題が変わっていくことがありました。しかしながら、あらかじめ予期できないその感じこそが、効率化された現場が失いつつあるものだと感じました。
おふたりが、自分たちを「地図をひろげるひと」や「靴屋」といって何かに例えようとされたり、あるいは自分が何者であるか、何を専門としているのかを考えながら、ときにことばに詰まりながら話す姿は、そうした問いに明確な答えを出すことよりも、揺れ動きながら、曖昧な立ち位置に踏みとどまり続けることの大事さを物語っているように感じます。
今回の対談を振り返って対談者のおふたりが、日々を見つめ直す時間だったと書いてくれたのは嬉しいことでした。わたし自身もお話を聞きながら、常に揺れ動きながらここまでやってきた自分のこれまでを見つめ直す時間になっていました。
こうした対談をこれからもしばらく続けていきたいと思います。この小さなインタビュー誌が、せわしない日常のなかで立ち止まり、静かにひと呼吸をつくためのささやかな場になることを願って。
木谷恵・きたにめぐみ
京都大学ディスアビリティ・インクルージョンセンター プロジェクトマネージャー
『ひと呼吸』創刊時より編集メンバーとして参加。2020年まで京都大学DRCで障害学生支援に携わり、その後、フリーランスのライターとして障害に関する取材・執筆を行う。2023年より京都府南丹市にて書店「九」をオープンし、読書会やお話会を開催している。2025年10月より現職。
