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巫女語り「祖霊の書をひらくとき」 詩 (293/1000)

よくお聞きなさい。
この村に伝わる 祖霊の書 は、
ただの古文書ではありません。

それは、
生命が地に根を下ろしたその日から、
一度も途切れず書き継がれてきた
地球史そのものの写本 でございます。

この書には、
春の章もあれば、
荒れ狂う火の章もあり、
深海の闇を歩む獣たちの章もあります。
そしてそのすべてが
わたしたちの血の底で、
まだ ページをめくり続けている のです。

なぜ、古代がよみがえるのか。
なぜ、時に
太古の獣の叫びのような細胞が
身体の奥で目を覚ますのか。

それは、
祖霊がわたしたちに
滅びを避ける術” と
変わらず残る術
の両方を授けたからでございます。

古い頁がよみがえるのは、
ただの故障ではありません。
それは 生命のルネッサンス に似ています。
かつての姿に戻ることで、
袋小路を抜け出そうとするのです。

しかしその回帰は、
ときに現代の体と馴染まず、
身体を乱します。
それが人の世では
“がん” と呼ばれる姿を取るのです。

がんとは、
祖霊の書の最古の一節が
ふいに開いてしまった状態。

古代の獣が
もう一度、外へ出たいと
ページを押し広げてしまった状態。

それは、
わたしたちの身にとっては
望まぬ出来事ではあります。
しかし、
生命の長い旅にとっては
避けがたく、
そしてどこか必要でもあるのです。

なぜなら、
古い頁が残り、
書が完全には閉じられぬからこそ、
わたしたちは
絶えず形を変えながら
地球の歴史を生き延びてきたのです。

死があるからこそ、
書き継ぎができます。
がんがあるからこそ、
書の奥深くに潜む
“変わらず残る部分” が
見えてまいります。

祖霊はこう記しています。

「命とは連続であり、
 連続の末にある断絶もまた、
 連続を守るための断章である」

わたしたちが恐れるその影は、
実は書を絶やさぬための
副反応(コラテラル) にすぎません。

生命が自己を守るために選んだ
ひとつのアルゴリズムなのです。

だからこそ、
わたしたちは
死を嘆くべきではなく、
がんを呪うべきでもありません。
それらは、
書が途絶えぬよう
静かに働く
暗い筆致 にすぎませぬ。

――この書は、
あなたの身体を宿にしながら、
今日もまた
次の頁へ向かおうとしております。

どうか恐れずに、
その音に耳を澄ましなさい。
それが、
生命とともにある者の
唯一の務めでございます。

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