村長の語り「古き理を守るものの言明」(291/1000)
わしらの村はな、
この国でもっとも古い血を守っておる。
山が海から生まれたころからの流れを、
そのまま体に宿しておるのじゃ。
外の者は言う、
「風通しが悪い」「決まりが古い」とな。
しかしそれは、
外の者が 時代という風 に流されすぎておるだけの話よ。
この村では、
血筋が物を言う。
昔からそう決まっておる。
“外の血” は、すぐ村の空気にあてられ、
余計な考えを言わぬようになる。
それが安全じゃ。
古代からの理にかなっておる。
音を立てぬこと、
争いを外に知らせぬこと。
それが村の平穏を守ってきた。
ほら、町の者たちはみな忙しなく、
何でも誰かに告げ口しよる。
あれでは生き物の本当の声が消えてしまうわ。
わしらは違う。
静かに守る。
黙って従う。
それが太古の祖霊の教えじゃ。
霧深い谷で生きるには、
外の明るさを遠ざけるほうがよいのじゃよ。
外の世界は、
新しい薬だの、光だの、風だのと騒いでおるが、
そんなものに身をさらせば、
祖霊が書き残した古の掟が
消えてしまうではないか。
わしらは祖霊に背かぬ。
変わらぬことに価値がある。
たとえ外の風が
何十年後にここを荒らそうともな。
いまの若い者は、
たまに外を見たがる。
だが、あれは迷いよ。
外の光に目がくらんでいるだけじゃ。
時が経てば戻ってくる。
この村の、
この重たい霧と、
息苦しいほどの静けさこそが、
“本当の安らぎ” であるとな。
わしは、
この村が変わる必要など少しも感じておらん。
変わるたびに弱くなるのだ。
古代の血は変化を好まぬ。
古代の理は、揺らぎを嫌う。
それでよいのだ。
それがわしらの誇りなのだから。
…まあ、
外の風に押し流される日が
いつか来るのかもしれんがな。
そのときはそのときよ。
わしはただ、
この古墳の傍らで
祖霊の書を抱いて眠るだけよ。
