棺桶は三段重にしてね(2-ひとりぶんの冨美家しのだそば)
子どもたちが独り立ちして、認知症が進んだ母も施設に入って。
私は人生で初めて、ひとり暮らしになりました
自由で、気楽。
でも、ちょっとさみしい。
まず困ったのが、ごはんでした。
ひとりぶんって、どう作るん?
長いこと家族のために台所に立ってきたので、自分ひとりのための食事が、よくわからなかったんです。
そしたら、百貨店の食品売場で運命の出会いをしました。
冨美家のしのだそばです。

パッケージを見た瞬間、目が釘付け。
おあげの色がほんのり淡くて、ふわっとしている。
九条ネギ(のはず)もたっぷり。
こういうのってだいたい、申し訳程度しか入ってへんやないですか。
でもこれは違う。
「本気のおそばや!」
と思いました。
買って帰って、その日の夜に食べてみたら。

これや!わたしが出会いたかったのは、このおそばや!
出汁がやさしい。でもちゃんとかつおの旨みがある。小袋の七味もいい香りで、気づいたら夢中で食べていました
少し前までは中身がゆでそばだったんです。最近は生そばにリニューアルして、自分でゆがかないといけなくなりました。
ひと手間、増えました。
でもおいしさも増えた。
冨美家さん、ナイスリニューアルです!

たくさん種類があるので、悩みながら選ぶのも楽しいんです。
冷蔵庫にひとつあると、今日は何もしたくないなという日も、
「あっ、しのだそばあるやん」
そう思えるのが心強いんです!
家族と暮らしていた頃は、こういうものはなかなか買えませんでした。みんなの分を用意することを考えると、わりに合わないから。
私のそばを、私のために買える日がきたんです。
たったそれだけのことが、なんだかうれしい。
そうなると、盛りつけるうつわも、ちゃんと選びたくなります。
わたしは、昔からうつわが大好きです。

土物。染付。アンティーク。
でも阪神大震災でほとんど割れてしまいました。少しずつ集めなおしたけれど、家族がうっかり割ったりすることもあるので、いつの間にか棚の奥へ。
今なら、お気に入りのうつわに、おいしいものを盛り付けられる。
いいうつわって、不思議です。
眺めているだけで、
「ここには何を盛ろうかな」
考えはじめます。うつわを決める時から、楽しい食事がはじまるのでお得な気分です。
そして、ひとりぶんの料理って、案外おいしいんです。
ほうれん草のごま和えも、一束だと味がしっかりなじむし、チャーハンもまんべんなく火が届いてパラパラになる。
好きなおかずだけを少しずつならべた一皿なんて、ちょっとしたごちそうです。

でも、最初は落ち着きませんでした。
自分のためだけに、こんなに手をかけてええんやろか?
そんな気持ちがあったんです
子育て中は、自分のことなんていつも後回し。余ったものをつまんで終わり。立ったまま台所で食べる。そんな日もたくさんありました。
私は自分を喜ばせることに、慣れていなかったんですね。
でも、今なら思います。
ひとりだからこそ、ちゃんと楽しんでいい。
食べたいもの食べて。好きなうつわに盛って。おなかがすいた時間にいただく。誰にも合わせなくていい。
それはわがままじゃなくて、自分を大切にすることです。
ひとりになってから、私は私を喜ばせることに一生懸命なのです。
だから棺桶に入れたいもの、一個目はこれ。冨美家のしのだそば。ゆがく鍋と、うつわも一緒にお願いします。
お空の向こうでも、おいしく食べたいので。
私が棺桶に入れたいと思うものを、ひとずつ書いています。どこで出会ったのか、なぜそれが好きなのか。病気をしてから、よくばりになってしまった私の話です。よかったらぜひ、最初から読んでみてください。
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