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牛丼から寿司へ ゼンショーHDの主役交代 はま寿司がすき家を抜いた日

牛丼チェーン「すき家」の会社。ゼンショーホールディングス(HD)と聞いて、多くの人がそう思い浮かべるのではないでしょうか。ところが、その常識はいま静かに書き換えられつつあります。2026年3月期、グループの中で回転寿司「はま寿司」の売上高が、創業以来の看板であるすき家を初めて上回りました。営業利益に至っては、すき家の3倍弱です。牛丼で成長してきた企業の主役が、寿司へと移り変わったのです。

なぜ、はま寿司はここまで強くなったのか。その背後には、ゼンショーHDが長年磨いてきた独自の仕組みと、国内外での大胆な出店戦略があります。一方で、業界の先頭を走る「スシロー」との差は依然として残り、成長市場である中国では追う立場にあります。牛丼の会社から寿司の会社へ、さらには「食のインフラ企業」へ。ゼンショーHDの変貌の中身を、数字とともにたどっていきます。

外食のニュースというと、値上げや新メニューといった身近な話題に目が行きがちです。しかし、一つの企業の中で主役事業が入れ替わるという出来事は、その企業の戦略や、市場の大きな流れを読み解くうえで、またとない手がかりになります。はま寿司がすき家を抜いたという事実の裏側には、日本の外食産業が国内の成熟からどう抜け出そうとしているのか、そのヒントが詰まっています。単なる回転寿司チェーンの成功譚としてではなく、日本を代表する外食企業の生存戦略として、この変化を見ていきたいと思います。

1. はま寿司がすき家を初めて上回った 数字で見る主役交代

まずは、今回の変化を象徴する数字から見ていきましょう。

ゼンショーHDが開示した2026年3月期のセグメント別売上高は、はま寿司事業が3202億円。これに対して、すき家事業は3144億円でした。その差は約58億円。金額そのものは大きくないように見えるかもしれませんが、意味するところは決して小さくありません。長らくグループの最大事業だったすき家を、はま寿司がついに追い抜いたのです。

利益の差はさらに鮮明です。はま寿司事業の営業利益は267億円。すき家事業の営業利益はこの3分の1程度にとどまり、はま寿司はすき家の3倍弱を稼ぎ出した計算になります。売上高でわずかに上回っただけでなく、稼ぐ力ではっきりと差をつけている。ここに、いまのゼンショーHDの実像があります。

数字の推移を4期分でたどると、逆転の軌跡がよく見えてきます。2023年3月期の時点では、すき家の売上高がはま寿司を明確に上回っていました。しかし、そこからのはま寿司の伸びが速い。2025年3月期あたりで両者は肩を並べ、2026年3月期でついに逆転しました。営業利益に目を向けると、はま寿司の伸び方はさらに急です。

この間、すき家は決して縮んでいたわけではありません。売上高は着実に伸びています。それでもはま寿司に抜かれたのは、はま寿司の成長スピードがそれを上回ったからにほかなりません。牛丼という成熟した市場と、回転寿司という拡大余地の大きい市場。その市場特性の違いが、そのまま両事業の成長曲線の違いとして表れているとも言えます。

特に営業利益の推移を追うと、その差の大きさに驚かされます。数年前まで、すき家とはま寿司の営業利益はほぼ肩を並べる水準でした。そこから、はま寿司の利益が右肩上がりで急伸する一方、すき家は前述の一時的な要因もあって落ち込みました。この結果、2026年3月期には、はま寿司がすき家の3倍弱を稼ぐという大きな開きが生まれたのです。売上高の差はわずかでも、利益の差は歴然としている。この点にこそ、はま寿司がグループの新たな稼ぎ頭になったという事実の重みがあります。売上規模で並ぶだけでなく、利益の面ではっきりと上回っているからこそ、主役交代という言葉がふさわしいのです。

一つ補足しておくと、すき家事業の利益には特殊な事情も影響しています。前期末に発生した異物混入事案への対応で、清掃体制の強化や老朽店舗の改装などにコストがかさみ、2026年3月期は利益面で苦戦を強いられました。第3四半期累計の段階で、すき家事業の営業利益は前年から大きく落ち込んでいます。この一時的な要因を差し引いても、はま寿司の勢いが際立っていることに変わりはありませんが、逆転劇にはこうした背景もあったことを押さえておきたいところです。

もう少し長い時間軸で振り返ってみると、この主役交代の意味がより立体的に見えてきます。すき家は1980年代の創業以来、ゼンショーHDの成長の原動力であり続けてきました。280円台の牛丼並盛りに象徴される徹底した低価格路線で、日本の外食デフレの時代を勝ち抜き、全国に店舗網を広げてきた歴史があります。しかし、牛肉価格の高騰や人手不足、そして国内市場そのものの成熟によって、牛丼というビジネスは以前ほど大きな伸びを描きにくくなりました。実際、すき家は2026年に入って牛丼並盛りの価格を450円から480円へと引き上げるなど、原材料高への対応に追われています。長く続いた低価格の牛丼モデルが、コスト高の時代に転換点を迎えているのです。

その一方で、回転寿司はまだ成長の途上にあります。国内市場だけを見ても、家族での外食需要の受け皿として底堅い人気があり、海外に目を向ければ和食ブームという追い風の中で市場そのものが拡大しています。同じ低価格を武器とする外食チェーンであっても、牛丼と回転寿司では、この先に広がる市場の大きさがまるで違います。ゼンショーHDの主役がすき家からはま寿司へと移ったのは、単に片方が伸び悩み、もう片方が伸びたという話ではなく、成長の余地が大きい市場へとグループの資源が自然に流れ込んでいった結果でもあるのです。数字の逆転の裏には、こうした市場構造の変化が横たわっています。

2. 国内店舗数で首位へ スシローを抜いた「110円皿」戦略

はま寿司の躍進は、業績数字だけにとどまりません。店舗網でも大きな節目を迎えました。

2026年6月時点で、はま寿司の国内店舗数は677店。回転寿司業界で長く先頭を走ってきたスシローの667店をわずかに上回り、国内店舗数で首位に躍り出ました。回転寿司といえばスシロー、というイメージを持つ人は多いはずです。その常識にも、静かな変化が起きています。

はま寿司が店舗網を広げてきたやり方には、明確な特徴があります。都心の一等地ではなく、ロードサイド、つまり幹線道路沿いを中心に出店を重ねてきたことです。広い駐車場を備え、家族連れが車で気軽に立ち寄れる立地。ここを丁寧に押さえていったことが、店舗数の拡大を支えました。

そして、はま寿司を語るうえで欠かせないのが商品戦略です。1皿110円の存在感が、他社との違いを生んでいます。スシローが立地に応じて最も安い皿でも120円から150円へと価格を引き上げ、くら寿司も115円からとする中で、はま寿司は110円という最安クラスの価格を維持しています。物価が上がり、外食チェーンの値上げが相次ぐ時代にあって、この価格の安さは家族層や価格に敏感な消費者にとって大きな魅力です。

いちよし経済研究所の鮫島誠一郎首席研究員は、はま寿司の躍進について「110円皿を多く残す商品戦略が奏功した」と評価しています。安さを前面に出しつつ、来店客数を積み上げていく。低価格を武器に数で稼ぐモデルが、しっかりと機能しているということです。

さらに、はま寿司は寿司そのものだけで勝負しているわけではありません。カリカリポテトやラーメン、たこ焼きといったサイドメニューが充実しており、これがファミリー層をはじめとする幅広い客層の支持を集めています。子どもから大人まで、寿司以外の楽しみもある。回転寿司の枠を少し超えた「食事の場」としての魅力が、リピーターを生んでいます。

興味深いのは、消費者の関心という点でも、はま寿司が存在感を高めていることです。ある調査会社の分析では、回転寿司チェーンの中で、はま寿司は店名を検索する人の数が最も多く、世間の関心が高いブランドとして評価されています。低価格という分かりやすい強みが、消費者の目を引きつけているのです。安いという評判が話題を呼び、話題が来店につながり、来店が店舗網の拡大を後押しする。この好循環が、はま寿司の急成長を支えてきたと見ることができます。

ただし、店舗数で首位に立ったからといって、すべての面で勝っているわけではありません。1店舗あたりの売上高やブランドの認知度という点では、スシローが依然として一歩先を行くとの評価が業界にはあります。スシローは1店舗あたりの年間売上高が業界でもトップクラスとされ、少ない店舗でも大きく稼ぐ効率の高さが持ち味です。店の数と、1店ごとの稼ぐ力、そしてブランドの浸透度。この3つは必ずしも一致しません。数の上での首位が、収益やブランドでの首位に直結するわけではないという点は、後の章であらためて見ていきます。はま寿司が本当の意味で業界の頂点に立つには、店舗数だけでなく、1店ごとの収益力でもスシローに並ぶ必要があるのです。

3. 強さの源泉 MMD(マス・マーチャンダイジング・システム)

はま寿司の低価格を支えているのは、単なる企業努力や我慢ではありません。その根っこには、ゼンショーHDが長年築き上げてきた独自の仕組みがあります。それがMMD、マス・マーチャンダイジング・システムです。

MMDとは、原材料の調達から製造・加工、物流、そして店舗での販売までを、グループ内で一貫して手がける垂直統合型の仕組みのことです。外食チェーンの多くも、ある程度は調達から販売までを一体で運営しています。しかしゼンショーHDの場合、その規模が桁違いに大きい。世界に50を超えるブランドを、計約1万5000店舗で展開しているのです。この巨大なスケールが、調達コストを押し下げる強力な武器になります。

この仕組みのユニークさを、身近な例で象徴するのが「同じポテト」の話です。はま寿司のカリカリポテトを食べた人が、ファミリーレストラン「ココス」の人気の同名商品と似ていると感じることがあります。SNSでも時折つぶやかれる話題です。実は、いつも同じというわけではないものの、両者は同じポテトを使っています。異なるブランドの商品でありながら、同じ食材を共有しているのです。

なぜこんなことが可能なのか。それはゼンショーHDが、同じ原材料を複数の業態で使い回せる体制を持っているからです。象徴的なのが牛の調達です。牛1頭を仕入れると、それを部位ごとに分け、すき家やココス、「なか卯」、ハンバーガーの「ゼッテリア」など、それぞれの業態に最も適したかたちで振り分けていきます。ある部位はすき家の牛丼へ、別の部位は別の業態のメニューへ。1頭を余すことなく使い切ることで、無駄を減らし、調達単価を下げることができます。

同じ原材料を一括で大量に仕入れれば、当然、単価は下がります。そして、その安く仕入れた食材を、多彩なブランドで柔軟に活用する。ポテトのように、人気商品を業態の垣根を越えて相互利用することもできます。この「大量調達」と「多業態での活用」を両立させているのが、ゼンショーHDのMMDの真骨頂です。

はま寿司の110円皿は、この巨大なサプライチェーンがあってこそ成り立っています。原材料費や人件費が上がり続ける中で、他社が価格の維持に苦しみながら値上げに踏み切る一方、はま寿司が最安クラスの価格を保てているのは、グループ全体の調達力とコスト構造の強さがあるからです。単品の企業努力ではなく、企業の仕組みそのものが低価格を可能にしている。ここがゼンショーHDの他社と決定的に違う点だと言えます。

このMMDという発想は、外食チェーンというよりも、むしろ総合小売業やメーカーに近いものです。一般的な外食企業は、店舗での調理と接客に磨きをかけることで競争します。もちろんゼンショーHDもそれを大事にしていますが、それ以上に、食材をどれだけ安く、安定的に、大量に仕入れられるかという「調達力」を経営の中核に据えている点が特徴です。世界中から食材を集め、自前の加工センターと物流網を通じて、各ブランドの店舗へと届ける。この一連の流れをグループ内で完結させることで、外部に支払うコストを最小限に抑え、品質のばらつきも防いでいます。

複数のブランドを同時に抱えていることも、この仕組みの効果を何倍にも高めます。もし単一のブランドだけであれば、仕入れられる食材の量には限りがあり、調達単価を下げるにも限度があります。しかし、すき家、はま寿司、なか卯、ココス、ゼッテリアといった多彩な業態を束ねていれば、それぞれで必要とする食材を合算した膨大な量をまとめて仕入れることができます。仕入れの量が増えれば増えるほど、1単位あたりの価格は下がる。この規模の経済を、多業態展開によって最大化しているのが、ゼンショーHDのMMDなのです。牛丼を安く提供する仕組みと、寿司を安く提供する仕組みは、実は根っこの部分で完全につながっています。はま寿司の強さは、はま寿司単体の努力だけでなく、グループ全体の総合力から生まれているのです。

4. すしが連結売上高の5割に迫る グループの重心が動いた

はま寿司の成長と、海外の寿司事業の拡大。この二つが合わさって、ゼンショーHDというグループの姿は大きく変わりました。それを最も雄弁に物語るのが、連結売上高に占めるすし関連事業の比率です。

ゼンショーHDの2026年3月期の連結売上高は、約1兆2640億円にのぼります。前の期から2桁の伸びを記録し、過去最高を更新しました。この巨大な売上高の中で、すし関連の事業が占める割合が年々高まり、いまや全体の5割に迫る水準まで来ています。

グループを構成する事業を売上高の積み上げで見ていくと、その変化がよく分かります。土台となるすき家。その上にはま寿司が積み重なり、さらに2025年3月期からセグメントとして切り出された欧米の持ち帰り寿司事業が乗ります。そして、なか卯やゼッテリア、レストラン事業などが続きます。この構成の中で、はま寿司と海外持ち帰り寿司を合わせた「すし」の塊が、年を追うごとに厚みを増しているのです。

かつてゼンショーHDの成長を牽引したのは、まぎれもなく牛丼のすき家でした。しかし、いまやグループの重心は明確に寿司へと移っています。売上高全体は伸び続けていますが、その伸びを支える主役が入れ替わったということです。牛丼の会社という看板は、もはや実態を正確には表していません。

この変化は、単なる事業構成の入れ替えにとどまりません。回転寿司と持ち帰り寿司という、世界的に成長余地の大きい市場に軸足を移したことを意味します。牛丼は日本を中心とした事業ですが、寿司は世界中で受け入れられる和食の代表格です。グループの重心が寿司に移ったことは、ゼンショーHDが国内の成熟市場から、世界の成長市場へと戦いの舞台を広げていく布石でもあるのです。

投資家の視点で見ても、この重心の移動は重要な意味を持ちます。企業の成長性を評価するとき、市場が問うのは「その会社がどれだけ伸びしろのある事業に軸足を置いているか」です。国内の牛丼市場が成熟し、価格競争と原価高の板挟みになっている中で、成長する寿司市場、とりわけ海外の寿司市場に大きく舵を切ったことは、ゼンショーHDの将来の稼ぐ力に対する期待を高める材料になります。実際、ゼンショーHDの2026年3月期の純利益は過去最高を更新し、翌期以降も海外の和食ブームを追い風にさらなる増益が見込まれています。牛丼一本足ではなく、寿司という新しい柱を得たことで、グループの成長ストーリーはより厚みを増しました。

もっとも、重心が移ったからといって、すき家の役割が終わったわけではありません。すき家はいまもグループに安定した売上をもたらす基盤であり、なにより、その調達網や物流網はグループ全体で共有される財産です。すき家で培った低価格を実現する仕組みが、はま寿司の110円皿を支えている。つまり、牛丼事業は主役の座を譲ったあとも、グループの土台としてしっかりと機能し続けているのです。主役が交代しても、脇を固める存在の重要性は変わりません。

5. 欧米の持ち帰り寿司 M&Aで築いた成長エンジン

日本国内のはま寿司と並んで、ゼンショーHDのすし事業を支えるもう一つの柱があります。欧米を中心とした海外のテイクアウト寿司事業です。こちらの成長ぶりも目を見張るものがあります。

この事業の起点は、2018年にさかのぼります。米国のアドバンスド・フレッシュ・コンセプツ(AFC)の買収です。AFCは、スーパーマーケットの中に寿司コーナーを設けて持ち帰り寿司を販売する事業を手がけていました。ゼンショーHDはこの買収を皮切りに、M&A(合併・買収)を次々と重ねていきます。北米にとどまらず、欧州、豪州など世界各地へと出店を拡大してきました。

この持ち帰り寿司事業は、収益性の高さでも際立っています。フランチャイズチェーン(FC)方式で展開し、ショッピングセンター内への出店が中心です。自社で店舗を構える直営方式に比べて、出店にかかるコストが軽くて済みます。その結果、営業利益率は12%と高い水準を実現しています。回転寿司の店舗運営に比べて、身軽に、かつ効率的に稼げるビジネスモデルなのです。

追い風も吹いています。世界的な和食ブームです。健康志向の高まりもあって、寿司は世界各地で受け入れられる食となりました。この流れに乗り、ゼンショーHDの海外持ち帰り寿司の店舗網は急拡大しています。2026年3月時点で、18カ国・8970店舗。この数は、ゼンショーHDが日本国内で展開する全業態の店舗数(4863店)の2倍弱に相当します。日本の外での存在感が、いかに大きくなっているかが分かります。

M&Aの手綱を緩める気配もありません。2026年3月には、欧州のすし製造会社を買収しました。既存の事業を着実に育てながら、有望な企業を機動的に取り込んでいく。この二段構えの成長戦略について、大和証券の津田和徳チーフアナリストは「M&Aと自前育成を両立できている稀有な企業」と評価しています。買収した事業をグループの中でしっかりと育て上げ、同時に自力での出店も進める。この両輪がうまく回っていることが、海外事業の急成長を可能にしているのです。

グローバル中食と呼ばれるこの海外事業セグメントは、2026年3月期の売上高が約2219億円、営業利益は約274億円に達しています。国内のはま寿司事業に匹敵する規模の利益を、海外の持ち帰り寿司が稼ぎ出している。ゼンショーHDのすし事業が、国内と海外の二つのエンジンで動いていることが、ここからも見て取れます。

ここで注目したいのは、この海外持ち帰り寿司事業の「稼ぎ方」の巧みさです。日本国内のはま寿司は、広い駐車場を備えたロードサイド型の大型店舗を自社で構える直営方式が中心です。これは家族連れを取り込むのに適した反面、1店舗ごとの出店に大きな初期投資が必要になります。これに対して海外の持ち帰り寿司は、スーパーマーケットやショッピングセンターの一角に寿司コーナーを設けるかたちで、しかもフランチャイズ方式を活用しています。すでに集客力のある商業施設の中に間借りするため、自前で大きな店舗を建てる必要がなく、身軽に数を増やせます。営業利益率12%という高い収益性は、この出店コストの軽さから生まれています。

同じ寿司事業でありながら、国内は直営の大型店で家族需要を取り込み、海外はFCの小型コーナーで効率よく面を広げる。市場の特性に合わせて出店の形を変えているのです。この使い分けの柔軟さこそが、ゼンショーHDが世界各地で寿司事業を拡大できている理由の一つです。そして、日本の全業態の2倍弱にあたる8970店舗という海外の店舗網は、今後さらに利益を積み上げていく潜在力を秘めています。海外の和食ブームが続く限り、この成長エンジンはまだ加速の余地を残していると言えるでしょう。

6. それでもスシローに届かない 海外利益という課題

ここまで、はま寿司とゼンショーHDのすし事業の強さを見てきました。しかし、話はそれで終わりません。回転寿司業界の先頭を走るスシローと比べると、はま寿司にはまだ届かない壁があります。

数字で確かめてみましょう。はま寿司事業の2026年3月期の売上高は3202億円、営業利益は267億円でした。一方、スシローを運営するFOOD&LIFE COMPANIESの主力事業は、2025年9月期の売上高が3973億円、営業利益は343億円です。売上高でも営業利益でも、はま寿司はスシローを下回っています。決算期がずれているため単純な横並び比較には注意が必要ですが、規模と収益力の両面で、スシローが一歩先を行っているのが実情です。

では、この差はどこから来ているのでしょうか。大きな要因の一つが、海外事業の利益です。

はま寿司は海外事業のみの業績を単独では開示していません。しかし、開示されている数字から、その輪郭を推し量ることはできます。2026年3月期のグローバルはま寿司の営業利益が267億円であるのに対し、国内のみのはま寿司の経常利益は210億円でした。この二つを比べると、海外が生み出している利益は相対的に小さいことがうかがえます。国内で稼いだ利益に、海外がまだ大きく上乗せできていない構図です。

対照的に、スシローは海外でしっかりと利益を出しています。スシローの2025年9月期の海外営業利益は163億円に達しました。海外展開の早さと店舗網の厚みが、そのまま利益として結実しているのです。はま寿司も海外に店舗を広げてはいるものの、そこから得られる利益の面では、スシローに水をあけられているというわけです。

この差が生まれる背景には、両社の海外展開の歴史の違いがあります。スシローは早くからアジアを中心に海外店舗を広げ、台湾や香港、中国、韓国、東南アジアなどで着実にブランドと店舗網を築いてきました。回転寿司の本場である日本発のブランドとして、現地でプレミアムな和食体験を提供するという明確な立ち位置を確立しています。海外売上比率を高めることを成長戦略の柱に据えており、その積み重ねが163億円という海外営業利益に結実しているのです。

一方のはま寿司は、国内での圧倒的な強さに比べると、海外での利益の刈り取りはこれからという段階にあります。店舗を広げること自体は進んでいても、それぞれの店をしっかりと利益を生む状態に育て上げるには、まだ時間がかかります。海外での知名度を高め、現地の消費者に選ばれる存在になるための投資も続けなければなりません。こうした先行投資の負担が、目下の海外利益を小さくしている面もあります。

売上や店舗数では肩を並べ、あるいは追い抜きつつあるはま寿司ですが、収益力、とりわけ海外での稼ぐ力という一点で、まだ課題を残しています。国内での強さを、いかに海外での利益につなげていくか。ここがはま寿司にとって、スシローとの差を埋めるための最大のテーマになっています。逆に言えば、この課題を克服できたとき、はま寿司は名実ともに業界の頂点に立つことになります。潜在力は十分に持っているだけに、海外事業の成熟が待たれるところです。

7. 主戦場は中国 成長市場での首位争い

はま寿司とスシローの競争が、これから最も激しくぶつかり合う舞台。それが中国です。市場関係者の視線も、この成長市場に注がれています。

なぜ中国なのか。回転寿司という業態そのものに、参入障壁の高さがあるからです。いちよし経済研究所の鮫島氏は「すし事業は初期投資がかかる上にオペレーションが難しい。ノウハウが必要な業態のため参入障壁が高い」と指摘します。寿司をレーンで回し、新鮮なネタを安定して供給し、多店舗で同じ品質を保つ。これは簡単に真似できることではありません。だからこそ、この難しい業態のノウハウを持つ日本の寿司事業者に、中国市場での成長が見込まれているのです。

出店の数だけを見れば、はま寿司は決して遅れをとっていません。中国でのはま寿司の出店数は、2026年3月末時点で186店。4月に100店舗に到達したスシローと比べても、店舗数では多い状況です。数の上では、はま寿司が先行しているように見えます。

ところが、中身に目を向けると評価は変わります。1店舗あたりの売上高やブランドの認知度という点では、中国でもスシローが一歩先を行くと見られています。その背景にあるのが、出店している立地の違いです。はま寿司は、スシローに比べて都心の一等地にある有力なショッピングセンター内の店舗が少ないのです。人通りが多く、話題になりやすい一等地での存在感が薄いため、ブランドの想起率、つまり「回転寿司といえば」で名前が挙がる度合いで見劣りしてしまいます。店舗数は多くても、消費者の頭の中での存在感では後れをとっている。これが中国でのはま寿司の現在地です。

とはいえ、悲観する必要はありません。むしろ、伸びしろが大きいとも言えます。大和証券の津田氏は「はま寿司は企業としてのスケールと調達力に強みを持つ。各出店地でのボリュームゾーンを取り込むことで、今後の成長余地は大きい」と見ています。ゼンショーHDが持つ巨大な調達力とコスト競争力を、中国市場でも存分に活かせれば、幅広い所得層、とりわけ価格を重視する層をしっかりと取り込むことができます。一等地での高級路線ではなく、日本国内で成功した「低価格で数を稼ぐ」モデルを中国でも展開していく。そこにはま寿司の勝ち筋があります。中国での首位争いは、まだ始まったばかりです。

中国という市場の魅力は、その規模と成長性にあります。所得の伸びとともに外食への支出が増え、日本食への関心も高まり続けています。回転寿司は、手ごろな価格で楽しめる日本食として、中国の消費者にとって身近な存在になりつつあります。この巨大な市場で、消費のボリュームゾーン、つまり最も人数の多い中間所得層をどう取り込むかが、勝敗を大きく左右します。ここは、まさにはま寿司が日本国内で得意としてきた領域です。高級店ではなく、家族で気軽に通える価格帯で数多くの客を集めるモデルは、中間層が急速に拡大する中国市場と相性が良いと考えられます。

課題である一等地への出店も、時間をかけて解決していくべきテーマです。有力なショッピングセンターの好立地は限られており、そこを押さえるには相応の投資と交渉が必要になります。しかし、ゼンショーHDの企業としての体力を考えれば、腰を据えて立地を積み上げていくことは十分に可能です。ブランドの認知度も、店舗が増え、消費者との接点が広がるにつれて、後から追いついてくる面があります。先行するスシローを追う立場ではありますが、はま寿司には規模と調達力という確かな武器があります。この強みを中国という舞台でどう発揮していくのか。日本の外食企業による海外での本格的な競争として、その行方は注目に値します。

8. 二強競争の行方 低価格大量出店とプレミアムの対決

ここまで見てきたはま寿司とスシローの競争を、あらためて戦略という視点で整理してみましょう。両社は同じ回転寿司でありながら、目指す方向がはっきりと分かれています。

はま寿司の戦略は、一言で言えば「低価格・大量出店」です。1皿110円という最安クラスの価格を武器に、ロードサイドを中心に店舗を広げ、来店客数を積み上げていく。ゼンショーHDのMMDによる圧倒的な調達力が、この低価格を支えています。コストパフォーマンスを前面に出し、家族層や価格に敏感な消費者を取り込む。数と安さで勝負するモデルです。

一方のスシローは、「高単価・プレミアム」の方向へと舵を切っています。スシローは2025年に価格改定を実施し、店舗を郊外型、準都市型、都市型の3区分に分けました。最も安い皿でも、郊外型で120円、準都市型で130円、都市型では150円と、立地に応じて価格を引き上げています。さらに260円の高価格帯の皿も導入し、価格帯を多段階にしました。ネタの質や商品のバリエーション、期間限定のフェアなどで付加価値を打ち出し、客単価を上げながら収益性を高めていく戦略です。110円皿からは、明確に距離を置いています。

この対照的な二つの戦略のどちらが有利かは、経営環境によって変わってきます。いま外食業界が直面しているのは、水産物などの原材料費の高騰と、人件費の上昇です。この局面で問われるのが、価格転嫁の巧拙です。

低価格を維持するはま寿司にとって、原価が上がる中で110円皿を守り続けることは、集客とブランドには大きなプラスになる半面、利益を圧迫する要因にもなりかねません。安さが強みである以上、簡単には値上げに踏み切れないというジレンマがあります。ただ、ここでもMMDによる調達力が効いてきます。グループ全体でコストを抑え込める体制があるからこそ、他社より低い価格を維持しながら利益を確保できる余地があります。

対するスシローは、値上げによって一時的に客の抵抗を招くリスクを抱えますが、中長期的には収益性の向上につながる可能性があります。高くても選ばれるブランド力を築けるかどうかが、その成否を分けます。ネタの鮮度や品質、季節ごとのフェアといった付加価値で「多少高くても、やっぱりスシローがいい」と思わせることができれば、値上げは利益の拡大に直結します。逆に、価格に見合う価値を感じてもらえなければ、客足は低価格のはま寿司へと流れかねません。プレミアム路線は、常にこの緊張感と隣り合わせです。

つまり、はま寿司とスシローの競争は、単なる価格の高い安いの勝負ではなく、それぞれのビジネスモデルが原価高・人件費高という逆風にどれだけ耐えられるかの勝負でもあるのです。安さで数を稼ぐモデルと、価値で単価を稼ぐモデル。どちらにも強みと弱みがあり、経営環境の変化によって優劣は入れ替わり得ます。この二強がしのぎを削ることで、回転寿司業界全体が鍛えられ、消費者にとってはより魅力的な選択肢が生まれていく。競争そのものが、業界の進化を促しているとも言えます。

投資家の視点で見れば、注目すべきは「規模と調達力のはま寿司が、その強みを利益にどこまで変換できるか」という点です。売上と店舗数で先行しても、利益でスシローに及ばなければ、企業価値の評価では後れをとります。国内で築いた強固な基盤を、海外、とりわけ中国での利益にどうつなげるか。この一点に、はま寿司の、ひいてはゼンショーHDの今後の成長のカギが握られています。

9. まとめ 外食から「食のインフラ企業」へ

牛丼のすき家から、回転寿司のはま寿司へ。ゼンショーHDの主役交代は、単なる事業構成の入れ替えではありません。それは、この企業がどこへ向かおうとしているのかを映し出す変化です。

2026年3月期、はま寿司はついにすき家を売上高で上回り、利益ではその3倍弱を稼ぐ存在になりました。国内店舗数ではスシローを抜いて首位に立ち、海外では持ち帰り寿司事業がM&Aを通じて急成長を遂げています。連結売上高に占めるすしの比率は5割に迫り、グループの重心は完全に寿司へと移りました。これらすべてを根底で支えているのが、原材料の調達から販売までを束ねるMMDという巨大な仕組みです。

一方で、課題も明確です。収益力ではスシローにまだ届かず、その差は主に海外利益から生まれています。成長市場の中国では、店舗数で先行しながらもブランド認知度で後れをとっています。国内での強さを、海外での稼ぐ力にどう転換していくか。ゼンショーHDに突きつけられた宿題は、はっきりしています。

見方を変えれば、ゼンショーHDはもはや単なる外食チェーンではありません。50を超えるブランドを世界1万5000店舗で展開し、牛1頭やポテト1つを複数の業態で無駄なく使い切る。その姿は、食の調達と供給を担う「食のインフラ企業」と呼ぶべき存在に近づいています。牛丼か寿司か、という業態の枠を超えて、食そのものを効率的に世界へ届ける仕組みを持つ企業。はま寿司の躍進は、その大きな変貌の一つの局面に過ぎないのかもしれません。

私たちが週末に家族で訪れる、あの安くて楽しい回転寿司。その1皿110円の背後には、世界1万5000店舗を束ねる巨大な調達ネットワークと、牛丼で鍛えられたコスト構造の蓄積があります。何気なく口にする一貫の寿司が、実は日本を代表する外食企業の壮大な戦略の結晶であると知ると、次にはま寿司の暖簾をくぐるときの見え方も、少し変わってくるかもしれません。

主役が牛丼から寿司へと移ったゼンショーHDが、次にどんな姿を見せるのか。その動きは、日本の外食産業が世界でどう戦っていくのかを占ううえでも、目が離せないものになりそうです。はま寿司がすき家を抜いた2026年は、後から振り返ったとき、ゼンショーHDが真のグローバル企業へと脱皮する分岐点として記憶されるのかもしれません。1皿の寿司から世界を狙う。その挑戦は、これからが本番です。牛丼で日本を制した企業が、寿司で世界に挑む。その物語の続きを、私たちは同時代の目撃者として見届けることになります。


参考文献・出典

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