揚げ物をやめなくていい。「悪いのは揚げ物じゃなくて油だった」コレステロールの新常識
「揚げ物はコレステロールが上がるから食べてはいけない」
そう信じて、唐揚げも天ぷらもトンカツも我慢してきた方に、少し立ち止まって考えてほしいことがあります。
じつは2015年に厚生労働省がコレステロールの食事摂取基準の上限値を撤廃しています。「食事中のコレステロール量が血中コレステロール値を直接上げる」という長年の常識が、科学的に見直されたのです。
とはいえ「揚げ物は何を食べてもOK」というわけでもありません。問題の本質は揚げ物そのものではなく、使う油の質・状態・量にあります。
この記事では、コレステロールの正しい知識から、揚げ物のリスクの本当の原因、そして揚げ物を罪悪感なく楽しむための賢い油選びと食べ方まで、科学的根拠をもとに解説します。
参考:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」/ 日本動脈硬化学会「コレステロール摂取に関するQ&A」/ 日本人間ドック学会 検査基準値 / Del Gobbo LC, et al. Am J Clin Nutr. 2015(ナッツ類とLDLのメタ解析)/ WHO「トランス脂肪酸に関するガイドライン(2018年)」/ 米国心臓協会(AHA)「食事と心血管疾患に関するガイドライン2021年版」
1. そもそもコレステロールとは何か──体に不可欠な脂質の正体
コレステロールは「悪者」ではなく「必需品」
コレステロールという言葉を聞くと、多くの人が「体に悪いもの」というイメージを持ちます。しかし実際には、コレステロールは以下のような体の根本的な機能を支える不可欠な脂質です。
全身の細胞膜の材料となる(人体の細胞は約37兆個)。テストステロン・エストロゲンなどのホルモンの原料になる。脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収を助ける胆汁酸の材料になる。脳・神経組織の構成成分として神経伝達を支える。
体内のコレステロールの約70〜80%は肝臓が自ら合成しており、食事から摂る量が増えると肝臓の合成量が自動的に減る「フィードバック機構」が働きます。つまり多くの人は、コレステロールを多く含む食品を食べたからといって、血中コレステロールが比例して急上昇するわけではありません。
食事のコレステロール吸収率には大きな個人差がある
日本動脈硬化学会によると、食事中のコレステロールの吸収率には20〜80%と大きな個人差があり(平均で約50%)、吸収されなかったコレステロールは便として排泄されます。また食物繊維や植物性ステロールを多く含む食事ではコレステロールの吸収が抑えられることも明らかになっています。
この「個人差の大きさ」こそが、2015年の食事摂取基準改定でコレステロールの上限値が撤廃された科学的根拠のひとつです。
2. 2種類のコレステロール──LDLとHDLの正しい理解
LDLコレステロール(悪玉)の役割
LDL(低密度リポタンパク質)は、肝臓で合成されたコレステロールを全身の細胞へ届ける「運搬役」です。細胞の材料・ホルモン産生・神経機能維持など、体の至るところで必要とされているコレステロールを届けるために欠かせない存在です。
「悪玉」と呼ばれる理由は、過剰になると血管壁に侵入して蓄積し、動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中などのリスクを高めるからです。
日本人間ドック学会による基準値は、LDLコレステロールが60〜119mg/dLが基準範囲、120〜179mg/dLが要注意、180mg/dL以上が異常値とされています。
HDLコレステロール(善玉)の役割
HDL(高密度リポタンパク質)は、全身の細胞から使われなくなったコレステロールを回収して肝臓に戻す「掃除役」です。動脈硬化を起こした血管からもコレステロールを引き抜く働きがあり、HDLが高いほど心血管リスクが低下します。
基準値はHDLコレステロールが40mg/dL以上が正常、35〜39mg/dLが要注意、34mg/dL以下が異常値とされています。
本当に重要なのは「LDLとHDLのバランス」
単にLDLが高い・低いだけでなく、**LDL÷HDLの比率(動脈硬化指数)**が心血管リスクの重要な指標とされています。LDLを下げることと同様に、HDLを上げることも重要です。HDLを上げるためには有酸素運動・禁煙・節度ある飲酒・不飽和脂肪酸の摂取が有効とされています。
3. 揚げ物の本当のリスク──問題はコレステロールじゃなかった
リスク① トランス脂肪酸──LDLを増やしHDLを減らす二重の悪影響
揚げ物で最も注意すべきなのは、食品中のコレステロール量ではなくトランス脂肪酸です。
トランス脂肪酸は、マーガリン・ショートニング・植物性油脂を加工する際や、植物油を高温で繰り返し加熱することで生成されます。LDLコレステロールを増やしながら同時にHDLコレステロールを減らすという、二重に心血管リスクを高める作用が確認されており、WHOは成人の1日のトランス脂肪酸摂取量の上限を**総エネルギーの1%未満(約2g未満)**と定めています。
日本人の平均摂取量は1日あたり約1g前後とされており、一般的な食生活ではWHOの基準を超えにくい水準です。ただし外食・コンビニ食・菓子パン・インスタント食品を毎日多く摂る方は注意が必要です。
リスク② 酸化した油──過酸化脂質が体を傷つける
揚げ物の第二のリスクが油の酸化です。油は高温加熱・光・空気との接触によって酸化が進み、「過酸化脂質」という有害物質が生成されます。過酸化脂質は体内で活性酸素を発生させ、血管・細胞・DNAにダメージを与え、動脈硬化・肝臓障害・発がんリスクの上昇と関連するとされています。
特に問題なのが、飲食店や揚げ物売り場で何度も使い回した古い油です。繰り返し加熱された油は酸化が著しく進んでおり、自宅で新しい油を使って作る揚げ物とは、健康リスクの観点から大きく異なります。
揚げてから時間が経ったお惣菜の揚げ物や、コンビニの揚げ物に注意が必要な理由はここにあります。
リスク③ カロリー過多による体重管理への影響
揚げ物は調理の過程で油を大量に吸収するため、カロリー密度が非常に高くなります。例えば鶏胸肉100gを素揚げにするとカロリーが約1.5〜2倍に増加します。
揚げ物のリスクの本質は「コレステロール」ではなく、食べすぎによる総カロリー過多と体重増加→代謝悪化というサイクルにあります。
4. 揚げ物を賢く食べるための油選びと調理のポイント
揚げ油の選び方──「酸化しにくさ」が最重要
揚げ物に適した油の条件は「熱に強く酸化しにくい」こと。その観点から特におすすめの油を紹介します。
米油 米ぬかから作られる日本発の植物油で、オレイン酸・オリザノール(悪玉コレステロールを下げ自律神経を整える成分)を豊富に含みます。揚げ油として非常に向いており、クセがなく使いやすいため日常使いの揚げ油として最もおすすめです。価格もオリーブオイルより手頃で、揚げ物との相性も抜群です。
オリーブオイル(エクストラバージン) オレイン酸(オメガ9系脂肪酸)が豊富で、他の食用油と比べて酸化しにくい特性があります。また抗酸化作用のあるポリフェノール・ビタミンEも含まれています。エクストラバージンはトランス脂肪酸をほぼ含まない良質な油です。ただし高価なため、揚げ油として大量に使うのは現実的でない場合もあります。
避けたい油 コーン油・大豆油・綿実油・サラダ油などのリノール酸(オメガ6系)が多い植物油は加熱によりトランス脂肪酸に変化しやすく、揚げ油として繰り返し使用するのは避けることが推奨されます。
揚げ物を「毒にも薬にも」しない食べ方のコツ
① 揚げたては食べていい、古いものは避ける 揚げてすぐの状態の油の酸化は最小限です。問題なのは時間が経った揚げ物。できれば揚げたてを食べ、時間が経ったお惣菜の揚げ物は頻度を減らすことが賢明です。
② 自宅で作るなら油を使い回さない 家庭での揚げ物は、油を毎回新しく使うのが理想です。どうしても使い回す場合は2〜3回を限度に、油こし器で揚げかすを取り除き、光・空気を遮断して保存します。
③ 食物繊維と一緒に食べる 野菜・海藻・きのこなどの食物繊維をセットで食べることで、コレステロールの吸収が抑えられます。唐揚げにキャベツ・天ぷらに大根おろし・とんかつにキャベツの千切りという組み合わせは、栄養学的にも非常に理にかなっています。
④ 週に1〜2回を目安にする どんなに良い油を使っても、揚げ物は高カロリー食品です。食べる頻度を週1〜2回程度にして、ほかの日は蒸す・煮る・焼くなどの調理法とバランスを取ることが長期的な健康管理につながります。
⑤ 外食の揚げ物は「油の状態」が見えない 外食産業では繰り返し使われた油が使われているケースもあります。外食の揚げ物の頻度は特に意識して管理することが推奨されます。
5. HDLを上げてLDLを下げる──コレステロールを整える食習慣
LDLを下げる食べ物
水溶性食物繊維(オーツ麦・大麦・豆類・りんご・オクラ)は腸内でLDLの再吸収を妨げ、胆汁酸の排泄を促進することでLDLを低下させます。米国心臓協会(AHA)のガイドラインでも積極的摂取が推奨されています。
植物ステロールを1日2g以上摂取することでLDLを5〜10%低下させられると、米国心臓病学会・米国心臓協会の報告で示されています。大豆食品・植物油・ナッツ類に多く含まれています。
ナッツ類(アーモンド・くるみ・ピスタチオ)は28.4gを毎日食べることでLDLが平均約4.8mg/dL低下したことが61件の研究を統合したメタ解析で示されています。
HDLを上げる生活習慣
有酸素運動(週3回・30分以上のウォーキング・ジョギング)が最もHDLを上げる効果が確認されている方法です。禁煙・節度ある飲酒・良質な不飽和脂肪酸(オリーブオイル・アボカド・青魚)の摂取も有効です。
6. まとめ──「揚げ物は悪者」を卒業して、賢く楽しむ
今日から意識できることをまとめます。
揚げ物そのものをやめる必要はない。問題は油の質(トランス脂肪酸・酸化)と食べる頻度・量。自宅では米油・オリーブオイルを選び、油は使い回さない。揚げたてを選び、時間の経った揚げ物は控える。野菜・食物繊維と一緒に食べてコレステロール吸収を抑える。週1〜2回を目安に、全体の食事バランスを意識する。
「食べてはいけない食品」ではなく「どう食べるかの問題」という視点を持つだけで、食の楽しさと健康は両立できます。コレステロールの正しい知識を持って、揚げ物と上手に付き合っていきましょう。
