🎧針を落とせば、いつかの風景 Pt. 135~アラン・パーソンズ・プロジェクトが仕掛けた幻想音楽の迷宮
ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。
アラン・パーソンズ・プロジェクト 『怪奇と幻想の物語 - エドガー・アラン・ポーの世界』 (1976年)
コンセプトアルバムとしての完成度
カズヒコ「このアルバムはね、アラン・パーソンズ・プロジェクトのデビュー作なんだけど、いきなり完成度が高いんだよ」
アミ「タイトルからして、ちょっと怖そうですね……ポーって、あの文学の人ですよね?」
ユキヒロ「そう、エドガー・アラン・ポー。19世紀のアメリカの作家で、怪奇小説や詩で有名な人だ。このアルバムは、そのポーの作品をモチーフにしてる」
アミ「音楽で文学を表現するって、なんだか難しそうですね」
カズヒコ「でも、それをちゃんと“音”でやってるのがすごいんだ。単なるロックアルバムじゃなくて、完全にコンセプトアルバムとして作られてる」
ユキヒロ「しかも、ストーリー性があるだけじゃなくて、一曲一曲がそれぞれポーの作品を反映してる。『The Raven(大鴉)』とか『The Tell-Tale Heart(告げ口心臓)』とかね」
アミ「タイトルだけでも、ちょっとゾクッとします……」
カズヒコ「そういう不気味さとか、不安定さを音で表現してるんだよ。シンセサイザーとかナレーションも使って、かなりドラマチックに仕上げてる」
ユキヒロ「当時としてはかなり先進的だったと思うよ。ロックとクラシック、さらに朗読まで組み合わせてるんだから」
アミ「朗読って、歌じゃないんですか?」
カズヒコ「そう。実際に語りが入る曲もある。まるで舞台を観てるみたいな感覚になるんだ」
ユキヒロ「このプロジェクトの中心人物、アラン・パーソンズは、もともとエンジニアとしても優秀でね。Pink Floydの『狂気』にも関わってる」
アミ「あ、前にマスターが言ってたアルバムですよね」
カズヒコ「そうそう。その経験が、このアルバムにも活かされてる。音の作り込みがとにかく細かい」
ユキヒロ「単に“いい曲”っていうより、“音の空間”を作ってる感じだね。ヘッドフォンで聴くとよく分かる」
アミ「なんだか映画みたいですね、音だけで世界があるっていうか」
カズヒコ「まさにそれ。だから最初から最後まで通して聴くのが前提のアルバムなんだ」

音作りと表現の革新性
ユキヒロ「このアルバムのもう一つの特徴は、音の“質感”だと思うな」
アミ「質感、ですか?」
カズヒコ「例えば、不安を煽るような音の重ね方とか、急に静かになる瞬間とか。そういうコントロールが絶妙なんだ」
ユキヒロ「それに、ボーカルも固定じゃない。曲ごとに歌い手が変わることで、それぞれの物語に合った声を使い分けてる」
アミ「それって、ちょっとオムニバス映画みたいですね」
カズヒコ「いい例えだね。ひとつのテーマでいろんな物語が展開される感じ」
ユキヒロ「あと、シンセサイザーの使い方も特徴的だよ。当時はまだ発展途上の楽器だけど、かなり効果的に使ってる」
アミ「電子音って冷たいイメージがあったんですけど、こういう使い方もあるんですね」
カズヒコ「むしろ、その冷たさが“怪奇”の雰囲気に合ってるんだよ」
ユキヒロ「それに対して、オーケストラ的なアレンジも入ってくる。この対比がいいんだ」
アミ「冷たい音と、あたたかい音が混ざる感じですか?」
カズヒコ「そう。で、そのバランスが崩れそうで崩れない。ずっと緊張感がある」
ユキヒロ「それがポーの世界観とも重なるんだよ。不安定で、どこか狂気を孕んでる感じ」
アミ「なんだか、聴くのにちょっと覚悟がいりそうですね……」
カズヒコ「でもね、怖いだけじゃない。美しさもちゃんとある」
ユキヒロ「むしろ、その美しさがあるからこそ、不気味さが際立つんだろうね」
アミ「なるほど……対比なんですね」
カズヒコ「このアルバムは、そういう“感情の揺れ”を音で描いてるんだと思うよ」
ユキヒロ「だから何度聴いても発見がある。音の細部まで意識が行くようになるからね」
アミ「最初はちょっと怖そうって思ったけど……逆に気になってきました」
カズヒコ「そういうアルバムなんだよ。入口は不気味でも、奥に行くほど深くなる」
ユキヒロ「そして気がつくと、また最初から聴き直してる」
アミ「それって、ちょっと危ない魅力ですね」
カズヒコ「ポーの世界だからね……簡単には抜け出せないよ」
ユキヒロ「まさに、“怪奇と幻想”だな」
アミ「……なんだか、その言葉の意味、少し分かってきた気がします」
次回作・・・
■登場人物
カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。
アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。
ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。
※喫茶店「フォックストロット」の名前は、ジェネシスの同名アルバムに由来。
