🎧針を落とせば、いつかの風景 Pt. 97〜クリエイションが描いた日本ハードロックの未来
ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。
クリエイション 『クリエイション』 (1975年)
日本から生まれた“洋楽の風”
アミ「マスター、この『クリエイション』ってアルバム、1975年っていうともう半世紀前ですよね。どんな作品なんですか?」
カズヒコ「当時の日本ロック界にとっては、まさに衝撃だった一枚だよ。洋楽の要素を吸収して、日本人が“本気で世界に通用するロック”を作る。その挑戦の象徴がこのアルバムなんだ。」
ユキヒロ「クリエイションは竹田和夫を中心に結成されたバンド。彼はギタリストとしてすでに実力派で、ブルースをベースにしながらも、音の作り方やアレンジに英国ロックの香りがあった。デビュー作のこの『クリエイション』は、ハードロックとブルースロックの中間を歩くような作品だね。」
アミ「日本のバンドが、そんなに洋楽っぽい音を出してたんですか?」
カズヒコ「そう。サウンドがまず違う。ギターは太く、ドラムはタイトで、ベースがしっかりと前に出てくる。音の重心が高くて、まるで海外録音のように聴こえる。70年代の日本の録音技術を考えたら、驚異的な完成度だよ。」
ユキヒロ「英語詞も印象的だ。日本語の歌詞で“ロック”を表現する難しさを知っていた彼らは、あえて英語で挑戦した。歌詞の意味よりも“響き”で勝負してる。そこが当時としてはすごく新しかった。」
アミ「確かに、言葉よりも音の勢いで引き込まれますね。」
カズヒコ「そうなんだ。リフの鋭さ、テンポの構成、リズムの切り方……全体が緊張感で張りつめてる。どの曲にも“俺たちはここにいる”っていう意思が感じられるんだ。」
“創造”という名の誇り
ユキヒロ「このアルバムの面白いところは、派手な実験よりも、基本に忠実であること。ロックの王道を極めようとしてるんだ。奇抜さじゃなく、“王道の完成度”で勝負している。」
カズヒコ「うん、それが逆に潔い。ギター、ベース、ドラム──3ピースの音を最大限に生かした構成。余計な装飾を排して、純粋に“音そのもの”で聴かせる。1970年代の日本で、これができたバンドは本当に少なかった。」
アミ「英語で歌って、海外みたいな音で……でもどこか日本的な部分も感じます。」
ユキヒロ「それはメロディの流れや情感だね。ハードロックの力強さの中に、湿度のある叙情がある。完全な模倣じゃなくて、日本人の感覚が自然に滲み出てる。それがクリエイションの独自性なんだ。」
カズヒコ「そして何より、音に誠実さがある。当時の彼らは、売れるとか流行るとかじゃなく、“本物のロックをやる”という信念で動いてた。それが録音にも表れてる。レコードで聴くと、ギターの歪みやベースの唸りが生々しくてね、スタジオの空気まで感じる。」
アミ「アナログならではのあたたかさですね。」
カズヒコ「そう。今の音楽みたいに整いすぎてない分、音が呼吸してる。演奏も荒削りだけど、その分だけ人間味がある。そこに70年代ロックの魅力が詰まってるんだ。」
ユキヒロ「このあと彼らは、フェリックス・パパラルディと組んで『Pure Electric Soul』を作るけど、その海外志向の下地はすでにこのデビュー作で完成していた。国内ロックの限界を突き破るような、堂々としたサウンドだよ。」
アミ「“創造=クリエイション”っていう名前がぴったりですね。」
カズヒコ「まさにその通り。誰かの真似をするんじゃなく、自分たちで形を作るという信念があった。日本のロックが“文化”として根づく前に、これほど完成された作品を出していたこと自体が奇跡なんだ。」
ユキヒロ「時代が早すぎたとも言える。でも、その早さこそ価値だよ。このアルバムは、のちのロック世代への“地図”みたいな存在なんだ。」
アミ「なるほど……だから“未来を描いた”ってタイトルなんですね。」
カズヒコ「そう。日本のロックが“夢”だった時代に、現実として響かせた音。それが『クリエイション』だよ。」
次回作・・・
キンクス 『ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組第一回戦』 (1970年)
■登場人物
カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。
アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。
ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。
※喫茶店「フォックストロット」の名前は、ジェネシスの同名アルバムに由来。
