見出し画像

🎧針を落とせば、いつかの風景-Pt.2〜ザ・キンクスが鳴らした最初の轟音

ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。


ザ・キンクス『キンクス』 (1964年)


ブリティッシュ・ビートの嵐

アミ「ユキヒロさん、今日はマスターが選んだアルバムは何ですか?」
カズヒコ「これだよ、キンクスのデビューアルバム『キンクス』。1964年に出た、彼らの原点だな。」
ユキヒロ「おお、懐かしいね。リリース当時はまだビートルズやストーンズが全盛で、キンクスは後発だった。でも彼らは“ブリティッシュ・ビート”の嵐にしっかり乗っていた。ラジオから流れてくる音がとにかく新鮮だったんだ。」
アミ「“キンクス”って名前だけでも個性的ですよね。ちょっと風変わりな響きで、印象に残ります。」
カズヒコ「そうそう。実際、音楽も荒削りでストレート。『ビューティフル・デライラ』とか『ソー・マッチ・イン・ラブ』みたいなR&Bカバーは、リヴァプール勢に負けない勢いがある。まだオリジナリティよりも、とにかく衝動をぶつける感じだ。」
ユキヒロ「そして、このアルバムの目玉はやっぱり『ユー・リアリー・ガット・ミー』だよな。ジミー・ペイジがセッションで弾いてた説もあるけど、真相はさておき、あのファズギターの衝撃は大きかった。ブリティッシュ・ロックの新しい扉を開いた一曲だ。」
アミ「あれは本当にカッコいいです。シンプルだけど力強くて、いきなり引き込まれる。今のロックのルーツって感じがします。」
カズヒコ「アミも耳が育ってきたな。あの曲は、パンクやハードロックに繋がるエネルギーを秘めてる。レイ・デイヴィスの書くリフのセンスは、この時点ですでに突出していたんだ。」

キンクスが切り拓いた道

ユキヒロ「このアルバムは、後に彼らが見せる“風刺と物語性”の萌芽はまだ少ない。けれど、その分、バンドの“若さ”と“粗さ”がむき出しになってる。だからこそ、リアルタイムで聴いた人たちは衝撃を受けたんだ。」
カズヒコ「そうだな。後期の『アーサー』や『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』みたいな叙情的な作風に比べると、初期は本当にギターリフで押すバンドだった。最初の一歩がこれっていうのは、彼らのキャリアを語るうえで外せない。」
アミ「私は絵を描くときに、最初のスケッチって勢い任せになるんですけど、このアルバムもそんな感じなのかな。まだ完成形じゃないけど、そこにしかない魅力がある。」
ユキヒロ「いい例えだね。音楽もアートも、最初の衝動には特別な力がある。『ユー・リアリー・ガット・ミー』のギターリフは、まさに“ロックってこういうことだ”って叫んでいるみたいだった。」
カズヒコ「しかも、その後に続くギターロックの系譜にどれだけ影響を与えたか。ヴァン・ヘイレンがカバーして大ヒットさせたことからもわかるだろ。60年代の若者が聴いた衝撃は、そのまま70年代以降のロックに伝わったんだ。」
アミ「なるほど……。マスターやユキヒロさんが若い頃に中古レコード屋で掘っていたとき、このアルバムにも出会っていたんですね。」
カズヒコ「もちろんだ。ジャケットを手に取った瞬間のときめきは今も覚えてる。安い盤だったけど、家に帰って針を落としたら、部屋が一気に熱気に包まれた。まるでステージが目の前に現れたような感覚だったな。」
ユキヒロ「あの頃、俺たちはただ夢中で聴いていた。評論家ぶる前に、身体が勝手に反応してたんだ。キンクスのファーストには、そんな“原始的な力”が詰まっている。」
アミ「私もその感覚、少しわかります。まだ知識は少ないけど、このアルバムを聴いていると、絵を描くときと同じように心がざわついて、手を動かしたくなる。そういう刺激があるんです。」
カズヒコ「それがロックの本質だよ。音楽を聴いて、心も体も突き動かされる。キンクスの『キンクス』は、その衝動を最も生々しく閉じ込めた一枚なんだ。」


次回作・・・

ザ・フー 「マイ・ジェネレーション」

■登場人物

  • カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。

  • アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。

  • ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。

※喫茶店「フォックストロット」の名前は、ジェネシスの同名アルバムに由来。
 

いいなと思ったら応援しよう!