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🎧針を落とせば、いつかの風景 Pt. 102〜ジョン・レノンの叫びが響く『ジョンの魂』

ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。


ジョン・レノン&オノ・ヨーコ『ジョンの魂』 (1970年)


“心のざらつき”を聴く時間

マスター「今日はジョン・レノンの『ジョンの魂』を出してみたよ。ビートルズ解散直後の、あの剥き出しのジョンが詰まった一枚だね」
アミ「これは……ジャケットからして静かで落ち着いてるのに、中身は真逆ってことですか?」
ユキヒロ「そう。見た目は木の下でジョンがヨーコに寄りかかってる優しい写真だろ。でも針を落とすと、いきなり“Mother”で叫ぶんだ。まるで心の奥の古傷を引っ掻きまわすみたいに」
マスター「“Mama don’t go, Daddy come home…”ってね。幼い頃に両親が離れて暮らした経験が、ここまで真正面に歌に出てくるってすごいよ」
アミ「確かに、ビートルズの曲とはぜんぜん違いますよね。ポップさとか、可愛らしさとかじゃなくて、“そのままのジョン”みたいな」
ユキヒロ「まさに“自分をさらけ出すロック”だよ。“I Found Out”“Working Class Hero”もそう。言葉に飾りがないし、ギターの鳴りも荒々しい。今の時代に聴いても生々しいよ」
マスター「僕はね、こんなに研ぎ澄まされてるアルバムは多くないと思ってる。余計な音をそぎ落として、必要最低限のリズムと声だけ。そこにリンゴのドラムが、また絶妙に重い」
アミ「リンゴさんのドラムって、ビートルズの時よりも重たい感じがします。こんな叩き方もするんだって驚きました」
ユキヒロ「リンゴは“引き算のドラマー”だからね。シンプルだけど、感情の揺れをそのまま支えるタイプ。ジョンの叫びとリンゴの間に漂う“空気の緊張”がこのアルバムの魅力なんだよ」
アミ「ジョンの心の“ざらつき”そのまま、ですね……」
マスター「うん。荒れてるのに、どこか救われる感じもある。そこが、このアルバムに人が惹かれる理由かもしれないよ」

“ジョンという人間”が立ち上がる

ユキヒロ「後半の曲になるほど、ジョンの内面がさらに深くなるんだ。“Isolation”なんて、聴くたびに胸がぎゅっとなる」
アミ「“Isolation…”って歌い出し、ほんとに孤独でしたって声に聞こえますよね」
マスター「あの頃のジョンは、世界から“ジョン・レノン像”を押しつけられて疲れてたんだろうね。“自分は誰なんだ”って問いつづけてた。だからこそ“God”のあの歌詞にたどり着く」
ユキヒロ「“I don’t believe in Beatles.” あれは当時衝撃だったよ。自分の過去に線を引く宣言みたいなものだから」
アミ「ビートルズを否定してるわけじゃなくて、“アイドルの自分”を終わらせるってことですよね?」
マスター「そう。あの曲の最後に“I just believe in me. Yoko and me.”と歌うだろ。あの時点のジョンの答えがそこに全部ある。世間のイメージじゃなく、本当の自分と向き合うっていうね」
ユキヒロ「このアルバムは“音楽作品”というより、“心の記録”なんだよ。カウンセリングを受けていた時期で、そこであぶり出された感情が、そのまま歌になっている」
アミ「なんだか、怖いぐらいに正直ですね。自分の弱さとか、怒りとか、孤独とかを誤魔化してない」
マスター「その正直さが、時代を超えて響くんだよ。“Love”なんて、ささやくように歌ってるのに圧倒的だしね」
ユキヒロ「“Love is real, real is love.” あれはジョンが見つけた“ひとつの答え”だね。激しい曲ばかりじゃなく、あの静けさがアルバムを丸ごと包んでる」
アミ「全体を通して、ジョン・レノンという“人間”が見える感じがします。怒って、泣いて、愛して……すごく生々しいです」
マスター「だから、このアルバムは何十年経っても聴き返される。飾ってない音楽って、強いんだよ」
ユキヒロ「ジョンの魂をストレートに感じたいなら、この一枚が一番だな。逃げ場のないほど純度が高いから」
アミ「今日はなんだか、いつもよりしんみりする話になりましたね。でも、こういうアルバムも知れて良かったです。絵にも描けるかな……“ざらっとした心の風景”みたいなの」
マスター「お、良いね。ジョンならきっと喜ぶよ。ぜんぶさらけ出して描いてごらん」
ユキヒロ「アミが描く“ジョンの魂”、ちょっと楽しみだな」


次回作・・・

レッド・ツェッぺリン『レッド・ツェッペリン III』 (1970年)

■登場人物

  • カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。

  • アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。

  • ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。

※喫茶店「フォックストロット」の名前は、ジェネシスの同名アルバムに由来。
 

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