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イスラエルの入植地拡大はなぜ止まらないのか パレスチナ人識者が語る占領下の「今」(2回目)


イスラエル政府によるガザへの軍事力の投入が継続・強度を増し、またヨルダン川西岸地区の入植地拡大という国際法違反を続けるイスラエルには国際社会の圧力は高まるように見えるが、イスラエルの強硬姿勢は強まるばかりだ。パレスチナの二大勢力であるファタハとハマスとは一線を画す現地の識者に、パレスチナ取材歴20年を超えるジャーナリストの小田切拓氏がインタビューした短期緊急連載の2回目(約6200字)。
(パレスチナの写真撮影/小田切拓、サムネイル写真はベツレヘムの検問所近くで)




予備解説:オスロ合意による西岸地区の現状(小田切拓)

10月7日以降、西側政府は、現在加速度的に進むイスラエルによる併合の動きを制止しようとはしていません。イスラエルが着々と既成事実化しているにもかかわらずです。この状況を象徴しているのが、エリアBにおける入植活動です。
 今年3月には、国連人権高等弁務官事務所も、「イスラエルによる西岸地区の併合」について調査書を発表し、強く非難しています。インタビューに入る前に、西岸地区の現状についておさらいしておきましょう。

1995年に規定されたオスロ合意の補足的条項によって、西岸地区はA、B、Cの3つのエリアに区分けされました。

<2010年当時の国連によるヨルダン川西岸(ウエストバンク)の地図>

半分以上がすでに白い

https://www.ochaopt.org/maps

エリアA(パレスチナ全体の約18%) =地図中の濃いベージュの区域
パレスチナ人口が集中している場所で、簡単に言えばラマッラやベツレヘムといった都市の中心部に当たります。ここでは民政も治安権限もパレスチナ自治政府が保持しています。  


エリアB(約22%)=薄いベージュ区域 
民政はパレスチナ自治政府が行っていますが、治安権限はイスラエルが握っています。比較的人口が少ないこの区域は、エリアAの周辺地域です。この区域内にも農地が存在し、そこの獲得を入植者が狙っています。    


エリアC(約60%) =白い区域
入植地や軍の駐屯地などを含む、パレスチナ人口がいない、または少ないエリアでした。この場所では民政も治安権限もイスラエル政府が握り、暫定的にとはいえ、イスラエルの準領土という状況を国際社会が保証した格好になりました。この面積は近年まで、西岸地区の約60%を占めていました。(この場所にも約30万人のパレスチナ人が居住し、パレスチナ人の農地の多くも存在します。)  

ユダヤ人入植地



パレスチナBDS運動の立役者 ジュマール・ジュマ氏との対話

ジャマール・ジュマ
東エルサレム在住のパレスチナ人。
28年以上にわたり草の根運動に携わり、複数の社会団体を設立。
2002年には「Stop The Wall Campaign」(反隔離壁運動)の設立に貢献した。
パレスチナBDS民族評議会委員も務めている。
BDS運動とは、イスラエルに対する「ボイコット(Boycott)、資本引き上げ(Divestment)、制裁(Sanctions)」を求める世界的な運動の略称。
(写真提供/J・ジュマ)

小田切  ガザ地区では、「停戦すれば平和になる」という誤った考えが、現在もまかり通っているように思います。今後どのような状況になれば、解決に向けた第一歩となるとお考えですか。
1993年と比較して、占領地におけるパレスチナ人口は倍増しています。海外に存在する難民もいます。国際社会が謳う「パレスチナ国家」の独立をすれば、パレスチナ人口の収容所が多数存在することになるだけです。(多少の領土の調整はあるにせよ)西岸地区の100%と、ガザ地区、東エルサレムがパレスチナ人の領土になった場合でさえ、狭すぎて、仮にパレスチナが独立しても国家として存続しようがないと思うのですけれどもね。もはや、イスラエルとパレスチナは、一つの国家になるしか解決方法はないようにさえ思えてきますが。

「ジェノサイド」と「民族浄化」を止めることが最重要課題

ジュマ  現在の最重要課題は、(ガザ地区における)「ジェノサイド」を止めること、(西岸地区における)「民族浄化」を止めることです。この2つはどちらも重要です。これらを実現させたら、第2段階として、イスラエルが国際刑事裁判所で裁かれ、殺戮について処罰されることです。

将来、イスラエルとパレスチナが一国家になる可能性があるにしても、今それを語るのは欺瞞的でしかないと思います。解決までには時間がかかるでしょう。パレスチナ人はこの600日間で、これだけの血を流してきました。その耐え難い事実がある状況で、どうやって共存を考えればいいのか、我々に殺戮を行った相手と。

だから、(一国家になることを考えるのは)現状では難しいです。今必要なのは、まず、パレスチナ人としての権利を回復すること。民族自決、難民が帰還できるように尽力すること、それらの必要性が国際的に認識されることです。

エルサレム旧市街、ムスリム地区

もしこうした状況が実現された後ならば、(独立が暫定的な状態であったにせよ)パレスチナ国家が承認されるのも良いと思います。独立国家として当然のことが認められ、また領土的には「飛び地」の寄せ集め国家ではないのであれば。原則として西岸地区、東エルサレム、ガザ地区の全てがイスラエルの植民地化計画から解放され、入植者を一人として見ることがないならば、です。

その後に(真の)和解がなされたならば、一国家になる可能性もあるのかもしれません。そうでなければ、二国家状態は一時的なものになるでしょう。

まずはガザにおいて、「ジェノサイド」が行われたことが確定されなければなりません。もちろん、それを行ったのはパレスチナ人ではありません。イスラエルであり、西欧であり、アメリカです。彼らは全てパートナーであり、アメリカの戦争の常套手段的なやり方を共有していると言えます。


【補足説明】
10.7以降の数字を比較すると、死者数だけでも以下のようになります。戦争状態とはいえない西岸地区でも、犠牲者が多数発生しています。

(国連関係機関の発表)
・ガザ地区関連(2025/5/25):パレスチナ人 54,084人、イスラエル人 1,616人以上
・西岸地区(2025/4/30):パレスチナ人 616人、イスラエル人 32人



国際社会の矛盾と「国家承認」の欺瞞性

小田切 5月27日には、今回特に強くイスラエルを支持してきたドイツがイスラエルのガザ攻撃について自制を促しましたが。

ジュマ 10月7日(2023年10月7日のガザ攻撃)以降、特に強くガザ地区における「ジェノサイド」(大量虐殺)を支持してきたのが、アメリカとドイツです。そのドイツは、ホロコーストを2回行っていると言えます。一度目はご存じのようにユダヤ人に対して。そして二度目は、パレスチナ人に対してです。ドイツは、(ホロコーストを行った者として)イスラエルに対して責任があると語ってきましたが、ガザでの軍事力行使については、パレスチナ人に対する責任があるはずです。

だからこそ10月7日以降のドイツには、非常に恐ろしいものを感じてきました。かつて「ジェノサイド」という罪を犯した国が、さらに別の「ジェノサイド」を幇助しているのですから。これには失望させられました。ドイツは、「民主主義」、「人権」、「国際法の順守」を否定する国だと考えざるを得ません。

入植地の中に入るとそこはイスラエル。ユダヤ人入植者はイスラエル国旗を一面に並べていた。

小田切  ガザ地区への軍事力行使が再開された今年3月以降、イギリスやフランスが、パレスチナを国家承認する姿勢を示しました。イスラエル政府はそれを強く非難していますが。

ジュマ  (ドイツの動きを含めて)こうした動きには、全く将来性は見いだせません。(独立を認められていない)「パレスチナ国家」を承認するかどうかは、本質的な問題ではないからです。こうした国々は、いつでも「パレスチナ国家」を承認できます。実際には、パレスチナの独立を認めていないのですから。

もし本当にパレスチナ国家の独立を望んでいるのであれば、承認するのは、小さな人口密集地の「寄せ集め」ではないはずです。国際法や、1967年の国連安保理決議に基づいて占領地からの完全撤退を行わせ、入植地がない状態にならなければなりません。西岸地区、東エルサレムから「全ての入植地」が撤去されないのであれば、将来的な希望があるとは言えません。

(現存する入植地は解体しないというような)中途半端な、アパルトヘイト状態の、都市の「寄せ集め」を国家だというのであれば、独立は名ばかりのものですよね。それは独立ではなく、イスラエルによる入植型植民地計画の継続を意味します。

トランプ和平案が示す「共謀」

小田切  トランプ大統領が前政権時の2020年に提示した和平案では、国境の管理、制空権、制海権、電波帯の管理までイスラエルが保持するという内容でした。さらに難民の帰還権の放棄まで言及されていましたが、状況はそれより後退しているのでしょうか。

ジュマ 1993年のイスラエル・PLO(パレスチナ解放機構=アラファトが主導していたパレスチナを代表する組織)によるオスロ合意で提唱された案、西岸地区全土と東エルサレム、ガザ地区(「パレスチナ」地域の約22%)がパレスチナ国家となるという内容は、パレスチナ人にとって、とても満足できるものではありませんでした。しかし(同案では、「パレスチナ」地域の78%を領有することになる)イスラエル政府は、その割合(78%)でも不満だったわけです。

イスラエルは、一貫して、(オスロ合意で提唱された、狭隘な)パレスチナ国家の独立の可能性さえ潰そうとしてきました。オスロ合意以降に、西岸地区での入植を加速させ、西岸地区の植民地化を進めたのです。

そして国際社会は、それを傍観してきました。これは(イスラエルとの)共謀ですよね。国際社会、特に西側諸国、国際機関、国連関係機関は、イスラエルが西岸地区で行っている植民地化や土地の収奪を、イスラエルと協働で進めてきたのです。そうしたイスラエルのパートナーと称されるべき国が、西欧諸国とアメリカです。この両者は、イスラエルとともに(オスロ合意締結時の状況における)線引きまでも変更してしまいました。

パレスチナ国家の独立が不可能になっていくのを止める努力は、もちろん、一切行われませんでした。つまり、(オスロ合意が謳った)原則に則ってパレスチナ国家を独立させるつもりはなく、この原則には反対だったと言えます。

近年は、建前としてはオスロ合意の原則を訴えてきた西欧も同じになりました。西岸地区、東エルサレム、ガザ地区の全てを、入植地がない状態でパレスチナ国家として独立させようという姿勢を全く示さなくなっていたのです。

①トランプ案が示した地図

②ジャマルの団体が発表した地図および分析

https://stopthewall.org/resources/trumps-map-israeli-apartheid-detail/

【解説】
 領土面で言えば、西岸地区の70%弱とガザ地区がパレスチナ国家になります。一方で、ガザ地区に近くエジプト国境沿いに広がる砂漠地帯や、西岸地区付近のアラブ人の居住区域を、パレスチナ国家に編入させるという(西岸地区の面積の約15%程度)。しかし難民キャンプ等以外の東エルサレムのほとんどが、イスラエル領となる案でした。
 最終的にこの案は立ち消えになりましたが、湾岸諸国の多くがこの案を歓迎。トランプ大統領(第一次政権)の仲介で、2020年8月にUAEが、9月にはバーレーンが、イスラエルとの国交を正常化(和平条約を締結)しました。

西岸地区の現状とアラブ諸国の役割

小田切  今、西岸地区では、具体的にどのような問題が起こっているのですか。

壁に囲まれて村と村の間が封鎖され、行き来ができなくなったためにゴーストタウン化した地区(トルカレム近郊)

ジュマ ガザへの軍事侵攻が、全てを変えてしまいました。西側政府は、国際法であろうが人権であろうが、(それらが無視されパレスチナ人が侵害されても)全て冗談のように無視するようになりました。

10月7日以降、イスラエルは、(西岸地区において)エリアBの土地まで、何万ドノム(1ドノム=1000平方メートル)も収奪しています。同時に、エリアBの住居の破壊も加速させています。エリアCだけでなく、エリアBには農地がたくさんあるためです。それを収奪し、可能な限りパレスチナ人を小さな場所(エリアAを中心とした都市部)に追い込もうとしているのです。

10月7日以前は、併合される可能性がある面積は、⇨最悪の場合、(エリアCと規定され、イスラエル政府が管轄していた)西岸地区全体の62%だと危惧されてきました。しかし現在は、それがおよそ70%にまで拡大し、また現実味を帯びてしまいました。

国連関係地図拡大図(エリアBにおける入植地の拡大)〜西岸地区北西部

2018年の地図。yabadは最近、入植地になったところ


2018年の拡大図


2024年の地図。上の図でエリアCは水色で、入植地はピンクです。そのピンクの区域が、薄ベージュ色の区域に食い込んできていることがわかる。2018年には、黄土色だった地域が2024年にはピンク色になってきています。


小田切 アラブ諸国はどうでしょうか。6月17日から、フランスとサウジアラビアが共同議長を務める国際会議がニューヨークで開催されることが決まっていますが。

ジュマ 6月初旬に5か国(サウジアラビア、UAE、カタール、ヨルダン、エジプトのアラブ5か国+トルコ)のアラブ諸国の外相が、ラマッラでアッバース大統領と会うことになっています。これはニューヨークで開催される国際会議の準備、すり合わせのための会合でしょう。しかしこの国際会議は、二国家解決のためといいながら、(実質的にはイスラエル国家に統治された状態を維持するという)「一国家」解決を話し合う場です。こんな解決策は、状況を壊滅的にするだけです。

アラブ諸国は直ちに、共に、「ジェノサイド」を制止するために動くべきです。世界が、国連安保理が、国連関係機関が、世界中の全ての人々が、「ジェノサイド」を即時停止させるように促すべきです。その後に、和平会議でもなんでもやればいい。「ジェノサイド」が現実に進行されている中で、(実態をともなわない)パレスチナ国家のあり方を議論するべきではありません。

小田切  続けて、西岸地区で進む「併合政策」について、具体的に教えてください(次回に続く)

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西岸の村で振る舞われたパレスチナ料


【小田切メモ:平和会議直前の情勢と今後の焦点】

1 5月31日、イスラエル政府はアラブ諸国等の外相の入国を認めないと通告。

2 ニューヨークで開催される国際会議では、「二国家解決」案に基づいた平和で安全な状況を作り出すための枠組みや、工程が検討されることになってた。しかしサウジアラビアとともに共同議長を務めるフランスは、パレスチナ人が国家を持つことの必要性を訴えると同時に、「イスラエルの安全保障」を確実にすることを⇨前提とした。

3 今後のガザ地区については、イスラエルの脅威を取り除くために、①「地区の非武装化およびハマスの排除」②「信頼できる統治が行える体制の構築」、「パレスチナ自治政府の改善」が必要とされている。その過程において国連および国連関係機関が重要な役割を担うとしている。

4 5月30日には、フランスの外相が、「パレスチナ国家は『非武装化』され、イスラエルによって形作られた『地域的安全保障の枠組み』に組み入れられる」と述べた。

2.3.4の内容が示しているのは、2020年のトランプ案と同じく、準国家以下の状態が想定されていると考えられる。イスラエルが「国境を管理」し、「制空権」「制海権」も保持しない、西岸・ガザ間に象徴される「『飛び地』から『飛び地』への移動」さえ制限された人口の「収容場所」の可能性が高い。


ヨルダン川西岸地区・ヘブロンの市場で買ったイチゴ


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