若手社員の「こころの不調」に寄り添う:中小企業における対話と柔軟な職場づくりー日経新聞記事からの考察
日本経済新聞朝刊(2026年5月31日付)に掲載された「こころのケア、遅れる中小 若手の不調10年で3倍 悩み多様に、手回らず」を拝読しました。
中小企業における若手社員のメンタルヘルス対策の遅れ
国内企業の大部分を占める中小企業において、若手社員の「こころの不調」への対応が深刻な課題となっています。厚生労働省の調査によると、社員50~99人の企業でこころの不調により退職・休職した人がいる割合は、2013年の9.5%から2024年には19.7%へと倍増し、大企業の水準に迫っています。さらに、協会けんぽのデータでは、精神的理由で傷病手当金を受給した25~34歳の若手世代が過去10年間で3倍に急増していることが示されています。
多様化する不調の原因と中小企業が抱える背景
不調の原因は、かつての長時間労働やハラスメントといった職場内の問題だけでなく、共働きでの育児や親の介護、仕事と家庭の両立といった私生活の悩みなど、多様化しているのが特徴です。中小企業は大企業に比べて従業員の様子が目に行き届きやすい反面、代替要員の確保や配置転換の難しさから、対策に手が回らないケースが目立ちます。専門家は、若手のストレス耐性を「甘え」と捉えず、管理職に相談しやすい環境づくりや、法改正に合わせたストレスチェックの導入、そして100%の体調を前提としない柔軟な働き方の整備が必要であると指摘しています。

人事の視点からの考察
若手の「相談しやすさ」を醸成するための仕組みづくり
若手社員が現状の成果と理想のギャップ、あるいは私生活での両立に悩んでいる時、そのサインを早期にキャッチするためのアプローチを検討したいところです。記事にある薬局グループのように、外部の専門家を活用したオンライン相談窓口を設けることは、社内の人間に直接言いにくい本音をすくい上げる有効な一手といえます。特に、新入社員や若手に対しては、研修の段階から「相談することは決して恥ずかしいことではない」と繰り返し伝えることで、窓口利用への心理的ハードルを下げることができるのではないでしょうか。
また、日常のコミュニケーションの中で不調の芽を摘むために、1on1ミーティングの質を向上させる取り組みも考えられます。業務の進捗確認だけでなく、本人が今どのような壁にぶつかっているのか、あるいは私生活でどのような変化があるのかを気軽に話せる関係性を、社内全体で少しずつ育てていくことが大切になりそうです。
管理職へのマインドセットと支援体制の強化
若手社員を直接支える立場にある管理職へのサポートも、今後の重要なポイントになるといえます。世代間のギャップから、年配の社員が「自分の若い頃はもっと大変だった」と感じてしまうのは自然な心理かもしれませんが、ストレスの感じ方や育った環境が異なることを理解するための管理職研修などは有意義な試みです。若手の状況を「甘え」として片付けず、個々の事情に耳を傾ける重要性を、組織共通の認識として浸透させていきたいものです。
同時に、中小企業においては管理職自身もプレイングマネージャーとして多忙を極めていることが多いため、不調者への対応をすべて現場の管理職に委ねるのではなく、人事が伴走者として一緒に事例を検討するような協力体制を築くことが、管理職の負担軽減にもつながるといえるでしょう。
「100%を前提としない」柔軟な働き方の制度設計
体調に波がある人や、家庭の事情を抱える人が増える中で、全員が一律にフルタイムで完璧に働くことを前提とした仕組み自体を見直す時期に来ているのかもしれません。短時間勤務制度の拡充や、体調に合わせたテレワークの導入など、業務量を調整しながらでも働き続けられる選択肢を増やすことは、貴重な人材の流出を防ぐ有効なアプローチだと考えられます。
業務の代行や配置転換が難しいという中小企業固有の課題に対しては、一つの業務を複数人で共有する「ワークシェア」の視点を取り入れたり、業務のマニュアル化を進めて誰でもサポートに入れる体制を作ったりすることで、属人化を解消する工夫を少しずつ進めていくのが現実的なステップといえます。
法改正を見据えた小規模からの健康経営の推進
2025年の労働安全衛生法改正により、将来的には従業員50人未満の事業所でもストレスチェックが義務化されるなど、国全体でメンタルヘルスへの意識が高まっています。これを単なる法的義務への対応として捉えるのではなく、自社の組織風土をより良くするための機会として活用したいところです。
ストレスチェックの結果をもとに、どの部署に負荷がかかっているのかを客観的に把握し、職場環境の改善につなげるサイクルを小さく始めていくことが、結果として従業員のエンゲージメントを高め、企業のブランド力向上にもつながっていくといえるでしょう。
中小企業は余裕がない、確かなところですが、一つ一つ、できるところから進めていきたいところです。

