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「注意したらパワハラ?」と悩む管理職へ:上田準二氏の教えから学ぶ、令和時代の部下育成術

 上田準二氏による日経ビジネス掲載記事『上田準二の“元気”のレシピ 上田準二のお悩み相談「注意しただけなのに、人格否定と受け止められてしまいます」』(2025年10月20日公開)を拝読しました。

 本記事は、部下への注意が「人格否定」と捉えられてしまうことに悩む管理職からの相談に対し、上田氏が回答する形式で構成されています。

 上田氏は、この問題を単なる世代間のギャップとして片付けるのではなく、「時代は変わっている」という認識を持つことの重要性を説きます。そして、指導と感情的な「怒り」は全くの別物であると指摘。管理職自身の伝え方に、相手を追い詰めるような強い言葉がなかったかを振り返る必要性を訴えます。

 解決策として、部下に変化を求める前に、まず管理職自身が現代に合ったマネジメント手法を学ぶべきだと提言します。具体的には、指導の前に「あなたに期待している」「成長してほしい」というポジティブなメッセージを明確に伝えることで、指導が「攻撃」ではなく「支援」として受け止められやすくなると解説します。

 最後に、こうした悩みでストレスを溜めないよう、管理職自身が上司に相談するなどして、自身の「ガス抜き」をすることも大切だと締めくくっています。この記事は、現代の管理職が直面するコミュニケーションの難しさに、具体的かつ温かい視点で実践的なアドバイスを提供しています。

企業人事の視点から:この記事を組織の力に変えるために

 この記事で語られている内容は、一人の管理職の悩みにとどまらず、多くの企業が抱える組織的な課題を浮き彫りにしています。私たち人事担当者は、この課題を個人のスキルや意識の問題として片付けるのではなく、組織全体で取り組むべきテーマとして捉え、具体的な施策に落とし込んでいく必要があります。

はじめに:個人の問題から「組織の仕組み」の問題へ

 「最近の若手は…」「あの管理職は指導力不足だ」といった形で、問題を個人に帰結させてしまうのは簡単です。しかし、それでは根本的な解決には至りません。「注意しただけで人格否定と受け止められる」という事象が起きるのは、その背景に組織的な課題、例えば、コミュニケーションの断絶、心理的安全性の欠如、育成文化の形骸化などが存在している可能性が高いのです。

 人事としては、こうした事象を組織からの重要なシグナルと受け止め、より健全なコミュニケーションと育成が自然発生するような「仕組み」や「文化」を構築していくという視点が不可欠です。以下に、具体的なアクションプランを提案します。

1. 管理職研修の抜本的アップデート:「教える」から「共に学ぶ」へ

 多くの企業で管理職研修は実施されていますが、その内容は時代に合わせてアップデートされているでしょうか。ハラスメントの定義や禁止事項を一方的に教え込むだけの研修では、管理職の萎縮を助長するだけで、本質的なコミュニケーション改善にはつながりません。

 今、求められているのは、「伝える技術(ティーチング)」だけでなく、「相手を理解し、引き出す技術(コーチング)」や「質の高い対話(1on1ミーティング)」のスキルです。上田氏の言う「期待を伝える」コミュニケーションを、具体的なロールプレイングを交えながら学ぶ機会を提供することが重要です。

 さらに、研修の形式も見直すべきです。講師が一方的に話す座学だけでなく、同世代の管理職同士が自社のリアルな悩みを共有し、ケーススタディを通じてお互いの知見から学び合う「ピアラーニング」の要素を取り入れるべきです。これにより、管理職は「悩んでいるのは自分だけではない」という安心感を得ることができ、孤立を防ぐことにもつながります。人事としては、こうした「共に学ぶ場」を設計し、ファシリテートする役割を担うことが期待されます。

2. 「心理的安全性」の醸成:健全な指導文化が育つ土壌づくり

 「人格否定」という言葉が安易に使われてしまう背景には、組織の「心理的安全性」の低さが潜んでいる可能性があります。心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。この土壌がなければ、どんなに丁寧な言葉を選んで指導しても、部下は「評価を下げられるのではないか」「自分の立場が危うくなるのではないか」という不安から、過度に防衛的になってしまいます。

 人事として、この心理的安全性を組織の重要な健康指標(KPI)と位置づけ、定点観測することが第一歩です。匿名式のサーベイなどを活用して組織の状態を可視化し、その結果を経営層や各部門の管理職にフィードバックします。

 その上で、心理的安全性を高めるための具体的な施策を推進します。例えば、

  • 経営トップから「失敗を歓迎する」「挑戦を称賛する」というメッセージを繰り返し発信する。

  • 会議の場で、役職に関係なく自由に発言できるようなグランドルールを設ける。

  • 社員同士が感謝や称賛を伝え合う「サンクスカード」のような仕組みを導入する。

 こうした地道な取り組みを通じて、社員が安心して本音を言える、健全な人間関係の土台を築くことこそ、人事の重要な役割です。この土台があって初めて、建設的な指導やフィードバックが機能するのです。

3. ミドルマネジメント層への多角的な支援体制の構築

 相談者のようなミドルマネジメント層は、経営層と現場の板挟みになり、最もストレスがかかるポジションです。彼らが孤立無援の状態で奮闘することのないよう、組織として多角的な支援体制を構築する必要があります。

 一つは、「ナナメの関係」の構築支援です。直属の上司部下というタテの関係だけでなく、他部署の管理職や人事担当者など、利害関係の少ない相手に相談できる「ナナメの関係」は、精神的なセーフティネットになります。人事主導で、部門横断のメンター制度や、管理職限定のコミュニティなどを立ち上げ、偶発的な出会いや相談の機会を創出することが有効です。

 もう一つは、上司(部長クラス以上)への働きかけです。ミドルマネジメント層の上司には、部下である管理職の業績だけでなく、彼らが抱える組織マネジメント上の悩みにも耳を傾け、支援する役割があることを明確に伝える必要があります。1on1ミーティングは、部下と行うだけでなく、管理職とその上司との間でも定期的に実施されるべきです。人事としては、その重要性を啓蒙し、必要であれば面談のテーマ設定などをサポートします。

4. 評価制度との連動:育成行動を正当に評価する仕組みへ

 結局のところ、人は評価される行動を優先するものです。もし、企業の評価制度が短期的な個人の業績目標の達成度のみに偏っているのであれば、管理職が部下との対話や育成に時間を割くインセンティブは働きにくくなります。

 部下の育成にどれだけ真摯に取り組んだか、チームの心理的安全性を高めるためにどのような工夫をしたか、といった「育成行動」や「チームビルディングへの貢献」を、管理職の評価項目として明確に組み込むべきです。360度評価などを活用し、部下からのフィードバックを評価の一部として参考にするのも一つの方法です。

 「会社は、部下を大切に育てようとする管理職を正当に評価する」という明確なメッセージを、評価制度という最も強力なツールを通じて示すこと。これこそが、組織全体のマネジメントの質を底上げし、健全な育成文化を根付かせるための効果的な打ち手といえるでしょう。

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