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障害者雇用は「人材戦略」:業務の見える化と公平な評価が拓く、誰もが活躍できる組織ー日経ビジネス記事からの考察

 藤田太郎氏による 日経ビジネスの記事『ケーススタディ②求める人材像を明確化する 障害有無の「枠取り除く」 独自の採用・評価制度で人材確保』(2025年11月14日公開、基記事:「日経トップリーダー」2025年11月号)を拝読しました。

 この記事では、自動車部品のめっき加工を手がける新和金属(広島県府中町、社員87人)の、障害者雇用に関する先進的な取り組みを紹介しています。同社は法定雇用率2.5%を大きく上回る6.9%(障害を持つ社員6名)を実現していますが、それは単なる「義務」としてではなく、中小企業が直面する人材不足を乗り越えるための「戦略」として位置づけられています。

 創業当時から障害の有無で人を区別しない風土があり、採用や業務、人事評価においても「障害者枠」を設けていません。この「枠を取り除く」という思想は、同社のスローガン「FACTORYからWACTORY(和、ワクワク、枠を取り除く)へ」にも込められています。

 その戦略を具体的に支えているのが、独自の「人事評価制度」です。まず、特定の人に業務が集中していた課題を解決するため、全社約260の業務を一覧化・見える化しました。さらに、各業務の難易度に応じてポイントを付け、その業務を習得すれば1ポイントにつき1000円が基本給に加算される仕組みを導入。これにより、評価基準が明確になりました。

 この制度により、業務と必要なスキルが明確になったため、欠員が出た際などに「今まさに必要な人」を、障害の有無に関わらず探すことが可能になりました。実際に、シーケンス制御の専門スキルを持つADHDやうつの経験がある男性を採用し、事業継続の危機を乗り越えた事例も紹介されています。

 新谷浩之社長は、トライアル雇用制度の活用や、障害種別で一括りにせず「その人」と粘り強く向き合うことの重要性を説いており、障害者雇用が組織全体の働きやすさや強さにつながることを示唆しています。

企業人事の視点から考える、記事内容の活かし方

 この事例は、障害者雇用に関わる立場としても、多くの示唆に富むものでした。「法定雇用率の達成」という言葉が先行しがちなこのテーマを、いかにして「企業を強くする戦略」へと転換できるか、その具体的なヒントが詰まっていると感じます。ここでは、企業人事の視点から、この事例を自社の取り組みにどう活かしていけるか、いくつかの角度から考えてみたいと思います。

1. 「枠」を外し、「必要なスキル」で採用を捉え直す

 私たちは「障害者雇用」と聞くと、無意識のうちに「障害のある方にどのような仕事を任せられるか」という発想、つまり「障害」という枠の中で業務を切り出そうとしていないでしょうか。もちろん、特性に応じた配慮や環境整備は不可欠です。しかし、新和金属がシーケンス制御という専門スキルを持つ人材を、障害の経験があるという情報と共に入社に至った例は、私たちの視野を広げてくれます。

 企業として今、どの部門で、どのようなスキルや経験が不足しているのか。その「必要なスキル」という軸で採用市場を見渡したとき、従来の採用ルートでは出会えなかった優秀な人材が、障害や病気の経験ゆえに力を発揮する場を探しているかもしれません。

 人事としては、まず「障害者枠」という固定化された募集要項を見直してみることが一手と考えられます。単に「軽作業」「事務補助」と括るのではなく、現場が必要としている業務を具体的に棚卸しし、「○○の経験があれば尚可」「××のスキルを活かせます」といった、その人の持つ能力や可能性に光を当てるようなメッセージを発信していくことが、新たな出会いにつながるのではないでしょうか。シーケンス制御の例は極めて専門的ですが、経理、ITサポート、語学、デザインなど、様々な分野で同様の可能性が眠っていることもあるかも知れません。

2. 「業務の見える化」が拓く、インクルーシブな職場環境

 新和金属の取り組みの核となっているのが、「全業務(約260)の一覧化」と「ポイント制」です。これは、障害者雇用のためだけに行われたのではなく、「特定の人に業務が集中し過ぎていた」という、多くの企業が共感するであろう課題認識からスタートしています。

 業務が属人化し、「あの人にしか分からない」状態(ブラックボックス)になっていると、障害のある社員を受け入れる現場は「何を任せてよいか分からない」と不安になりますし、他の社員も急な欠員に対応できません。

 人事としては、この「業務の見える化」を、障害者雇用推進のためだけでなく、全社的な生産性向上、属人化の解消、多能工化の促進、ひいては働き方改革の一環として位置づけ、主導していくことが考えられます。

 「この部分を丸ごと代わってもらえると助かる」程度の粒度で業務を棚卸しし、必要なスキルや手順を明文化する作業は、確かに労力がかかります。しかし、そのプロセスを経ることで、障害のある社員だけでなく、新入社員、育児や介護で時短勤務をする社員、あるいはシニア人材など、多様な背景を持つ誰もが「自分にもできる業務」「挑戦したい業務」を見つけやすくなります。それは、個々の能力を最大限に活かすインクルーシブな環境づくりの基盤となるはずです。

3. 「公平性」と「納得感」を醸成する評価制度の工夫

 「大変な業務とそうでない業務があるのに評価の基準がない」。これもまた、耳の痛い課題です。新和金属の「業務ポイント制(1ポイント=基本給1000円加算)」は、この課題に対する一つの明快な答えを示しています。

 障害の有無に関わらず、担っている業務の難易度や範囲が、明確な基準(ポイント)によって給与(基本給)に反映される。この透明性は、障害のある社員にとっては「配慮される対象」ではなく、純粋に「業務遂行能力で評価される戦力」として扱われている証となります。これは本人のモチベーションや自己肯定感を大いに高めることが想像できます。同時に、周囲の社員にとっても、「なぜあの人の給与がこうなっているのか」という不公平感を抱きにくくさせ、納得感のある評価制度として機能するでしょう。

 また、「昇給表明」と「3者面談」の仕組みも注目したいところです。会社が一方的に評価を下すのではなく、本人の「成長したい」「昇給したい」という意思を表明する機会があり、それを上司2名が(おそらく業務の習得状況や目標達成度に基づき)フィードバックし、支援する。この双方向のコミュニケーションが、キャリアアップの道筋を具体的にし、主体的な成長を促します。

 人事としては、自社の評価・処遇制度が、多様な社員にとって「何をすれば報われるのか」が分かりやすいものになっているか、点検してみる良い機会かもしれません。特に、障害のある社員のキャリアパスや昇給ルールが曖昧になっていないか、上司が適切な目標設定やフィードバックができているか、見直したいところです。

4. 採用チャネルの多様化と、粘り強い定着支援

 新谷社長が、懇意にしている医師から専門スキルを持つ人材を紹介されたというエピソードは、人事としての「ネットワーク構築」の重要性も示唆しています。

 従来の採用手法(ハローワーク、エージェント)だけに頼るのではなく、地域の就労移行支援事業所、特別支援学校、医療機関、NPOなど、障害のある方々の支援に携わる様々な機関との顔の見える関係を築いておくことが、自社が必要とする人材との思わぬ出会いを生むかもしれません。

 また、入社後の「定着」に関しても、「トライアル雇用制度」の活用提案は実務的です。特に精神障害のある方などは、環境変化への不安が大きい場合があります。企業側も本人側も、支援機関のサポートを受けながら「お試し期間」を持てるこの制度は、ミスマッチを防ぎ、長期的な活躍を後押しする有効な一手です。

 そして何より、「その人の課題に対して粘り強く接していくしかない」「型にはまった接し方があるわけではない」という新谷社長の言葉が胸に響きます。人事としては、「障害特性ハンドブック」のような知識を提供することも重要ですが、それ以上に、現場の上司が「その人個人」と向き合い、対話を重ねる(新和金属の3者面談のように)ことを支援する役割が求められます。現場の上司が一人で抱え込まないよう、定期的に状況をヒアリングし、必要に応じて人事や支援機関が間に入るなど、伴走する姿勢が大切だと考えられます。

5. 組織開発として捉える「枠を取り除く」こと

 新和金属のスローガン「FACTORYからWACTORYへ」(和、ワクワク、枠を取り除く)は、これが単なる障害者雇用の取り組みではなく、全社的な「組織開発」であることを示しています。

 障害のある社員が働きやすいように業務を見える化し、評価基準を明確にし、コミュニケーションを密にする。こうした環境は、結局のところ「障害のない社員にとっても働きやすい」環境であるはずです。

 「枠を取り除く」とは、障害の有無という枠に限りません。性別、年齢、国籍、雇用形態、あるいは「この仕事はこうあるべき」といった固定観念。そうした様々な「枠」が、組織の活力や個人の可能性を狭めているのかもしれません。

 人事としては、障害者雇用を「人事部内の一担当業務」として小さく捉えるのではなく、経営層とも連携し、全社的なダイバーシティ&インクルージョン、あるいは組織風土変革の一環として位置づけていく。新和金属の事例は、そうした大きな視座を持つことの重要性を教えてくれているように感じます。

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