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【書籍】「くれない族」では得られない幸福:曽野綾子氏が語る成熟の道

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp195「6月10日:「くれない族」では幸せになれない(曽野綾子 作家)」を取り上げたいと思います。

 曽野綾子氏は、幸福に生きるためには「与えること」が非常に重要であると強調しています。彼女の考え方は、他者に対して何かをしてもらうことばかりを期待し、不満を抱くような人々に対して警鐘を鳴らすものであり、そのような人々を「くれない族」と呼んでいます。この「くれない族」は、たとえ青年や中年であっても、「~をしてくれない」と言い始めた瞬間から、すでに精神的な老化が始まっていると指摘します。このような態度は非常に危険な兆候であり、早い段階で自分自身を戒めることが必要だと警告します。人は、他者に対して不満を抱く前に、まず自分が他者のために何ができるのかを深く考えるべきだとしています。

幸福に生きるためには大事なことはいろいろありますけどね、やっぱり、できたら与えることだと思います。私は昔から「くれない族」と定義していますけど、青年でも中年でも「~をしてくれない」と言い始めた時から、既に精神的な老化が進んでいる。それは危険な兆候だと思って、自分を戒めたほうがよろしいかもしれません。他人が「~をしてくれない」と嘆く前に、自分が人に何かしてあげられることはないかと考えるべきです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p195より引用

 さらに、インドへの旅行での体験を紹介し、そこで出会った若者たちの姿について語ります。彼らは、自分たちで貯めたお金を使い、誰にも迷惑をかけずにインドを長期間旅行していたのですが、同行していた神父が彼らについて「彼らは少しも幸せそうに見えなかった」と話したことが、心に深く残ったと述べています。その理由を尋ねると、神父は「彼らは自分のしたいことをしているだけで、人間としてすべきことをしていないから」と答えました。この言葉を通じて、曽野氏は「自分のしたいことを追い求めるだけでは、真の幸福には繋がらない」との思いを深めました。

 曽野氏は、自分の楽しみだけを追い求めるのではなく、他者のためにも貢献しようという気持ちを持つことが、成熟した人間としての生き方だと考えています。「自分のしたいことを自分の力で実現すること」と「他者のために何かをすること」の両方ができる人間でなければ、真に大人と言えず、またそのような人間は真の幸福を手に入れることができないと指摘します。「七割は自分の楽しみのために、三割は他者や育てたいもののために時間やお金を使うべきだ」と提言し、年齢を重ねるほど、そのようなバランスを取れる人間になることが望ましいとしています。

 また、彼女の趣味であるオペラについてのエピソードも興味深いです。オペラの語源はラテン語で「仕事」という意味であり、オペラという芸術形式は一人では成立せず、多くの人々が協力して作り上げる「仕事」であると語ります。オペラの主役は確かに存在しますが、主役一人ではオペラは成り立たず、全ての出演者がそれぞれの役割を過不足なく果たすことで、素晴らしい舞台が完成します。曽野氏は、これを人生に置き換えて、「自己を育てる」ということは、単に自分のやりたいことを追求するだけではなく、他者のために役立つことを考え、それを行動に移すことが本当の自己成長に繋がると主張しています。

 さらに、「自己を鍛え、訓練すること」と「他者への手助けをすること」を両立させることが、幸福な人生を送るためには不可欠だと説いています。彼女は、若い時期には脇道に逸れることもある程度は必要だと認めつつも、最終的には自己を鍛えながら、他者への貢献を忘れないことが成熟した人間の姿であり、それが真に幸福な人生へと繋がるとしています。人生において「与えること」がどれだけ大切かを強調し、それが自分自身の成長と他者への貢献の両方を兼ね備えた生き方であるとする非常に深いメッセージを含んでいます。

 曽野氏は、幸福な人生を追求するためには「与えること」、すなわち他者への貢献が非常に重要であり、それが自分自身の成長にも繋がると強調しています。自分の楽しみだけに時間や労力を費やすのではなく、他者のために何かをすることが、人間としての成熟した生き方であり、それが真の幸福を手に入れるための道であると結論づけています。彼女のメッセージは、自分自身の成長と他者への貢献という二つの要素が、バランスよく人生に組み込まれることの大切さを強く訴えており、そのためには日々の行動においても意識的に「与えること」を実践することが求められるとしています。

人事の視点から考えること

 曽野氏のメッセージを人事の視点からさらに深く掘り下げると、「与えること」や「他者への貢献」という考え方は、組織運営や社員育成の根幹に関わる要素であり、リーダーシップ、エンゲージメント、評価制度の見直し、世代間の調整、キャリア開発、組織文化の醸成、さらにはウェルビーイング向上において重要な役割を果たすことが分かります。これらを人事としてどのように具体的に組織に適用していくかについて、より詳しく考察していきます。

1. リーダーシップの育成と強化

 曽野氏が強調する「与えること」の姿勢は、リーダーシップにおける重要な要素です。リーダーは、単に自分自身の目標達成や成功を追求するだけではなく、チームメンバーや部下の成長を支援し、彼らが自分の能力を最大限に発揮できるようにサポートする責任を持っています。現代のリーダーシップの理論においても、リーダーが他者を助け、支援する「サーバントリーダーシップ」や「トランスフォーメーショナルリーダーシップ」の重要性が広く認識されています。

 この観点から、人事部門はリーダーシップ研修や管理職のトレーニングプログラムに、「与える姿勢」を強調し、リーダーが部下やチームに対してどのように貢献できるかを深く考える機会を設けるべきです。たとえば、リーダーシッププログラムでは、リーダーが自分の目標だけでなく、チーム全体の成功を見据えて行動するスキルを養うためのケーススタディや実地研修を取り入れることが効果的です。

 さらに、リーダーが自分のために時間を使う割合と、他者のために時間を使う割合のバランスを考慮することも重要です。曽野氏が提唱する「七割は自分の楽しみのために、三割は他者や育てたいもののために使う」という考え方は、リーダーシップにおいても応用可能です。リーダーが自分の仕事に集中しつつも、一定の時間を部下の育成やチーム全体のために費やす姿勢を持つことで、組織全体の成長が促進されます。このようなリーダーの行動は、組織内にポジティブな影響を与え、長期的にエンゲージメントやパフォーマンス向上に寄与します。

2. エンゲージメント向上と組織文化の醸成

 曽野氏の「くれない族」の概念は、現代の職場においても重要な問題として捉えることができます。「~してくれない」と不満を抱き、他者や環境に対して依存的な姿勢を持つ社員が増えると、職場全体の士気が低下し、エンゲージメントも下がる恐れがあります。逆に、社員一人ひとりが「自分が組織やチームにどのように貢献できるか」を考える文化を醸成することで、職場全体のエンゲージメントが向上します。
 相互支援を推進するために、メンター制度やコーチングプログラムを導入し、社員同士が互いに助け合う環境を作ることが重要です。こうしたプログラムは、単なるスキル習得の場としてだけでなく、社員同士の信頼関係を深め、協力し合う姿勢を育む機会として活用できます。

 また、チームビルディング活動やプロジェクトベースの共同作業を推進することで、社員が互いにサポートし合う文化を促進することが可能です。たとえば、異なる部署の社員が共同で取り組むプロジェクトを通じて、社員は他者の視点を理解し、異なるスキルや知識を活用することで、組織全体の協力体制が強化されます。これにより、曽野氏が提唱する「与えること」の価値観が職場全体に浸透し、エンゲージメントが自然に高まる結果となります。

3. 評価制度の見直しと改善

 現代の多くの企業では、従来の個人業績に基づく評価制度が見直されつつあります。曽野氏の「与えること」に基づいた視点を取り入れることで、より包括的な評価制度が実現可能です。
単に売上や個人のパフォーマンスだけに焦点を当てるのではなく、他者への貢献やチームワーク、協力の姿勢を評価基準に組み込むことが重要です。これにより、社員は自分の成功だけでなく、組織全体の成功や他者の成長に貢献する意識が高まります。たとえば、360度評価やピアレビューを導入し、上司だけでなく、同僚や部下からのフィードバックも含めた評価を行うことで、他者への貢献度を公正に評価できる仕組みを構築することができます。

 さらに、曽野氏が言うように、社員が自己の成長だけでなく、他者への貢献を大切にする姿勢を持つことが重要です。そのため、評価制度の中で「ソフトスキル」や「チーム貢献度」の項目を設けることで、他者をサポートする行動が評価される文化を醸成することができます。これにより、社員一人ひとりが自分自身の成長だけでなく、組織全体の成功に貢献する意識が高まり、全体のパフォーマンス向上が期待できます。

4. 世代間のギャップ解消と相互理解の促進

 職場では、若い世代と中堅・ベテラン世代の間で仕事に対する価値観や働き方に大きな違いが生じることがよくあります。曽野氏が述べている「若者が自分のやりたいことばかりを追求し、他者への貢献を軽視する」という現象は、現代の職場でも見られる問題です。
 こうした世代間のギャップを埋め、相互理解を深めるための取り組みが必要です。たとえば、異世代間の交流を促進するためのワークショップやコミュニケーションスキル向上プログラムを提供し、異なる世代の社員同士が互いに学び合う機会を設けることが有効です。

 また、曽野氏の「与えること」の重要性を若手社員に理解させるためには、キャリア初期の段階から、他者への貢献を奨励する教育や研修を提供することが有効です。
 例えば、新入社員研修では、チームビルディングや他者との協力を重視する課題に取り組ませることで、早い段階から協力の姿勢を育てることができます。また、リーダーシップ育成プログラムでも、異世代の社員がチームとして共同でプロジェクトを進めることで、世代間の理解を深めつつ、協力し合う姿勢を醸成することができます。

5. キャリア開発と成長支援の視点

 曽野氏の「自分を鍛え、他者に貢献する」という考え方は、キャリア開発の視点からも重要です。社員が自分自身のキャリアを築いていく中で、単にスキルや知識を高めるだけでなく、それを組織や他の社員に還元する姿勢を持つことが、組織全体の成長に貢献します。人事部門は、社員が自らの成長と他者への貢献を両立できるようなキャリアパスや研修制度を提供することが重要です。

 例えば、キャリア開発の一環として、社員に自分のキャリア目標を設定させるだけでなく、その目標を達成するために他者にどのように貢献できるかを考えさせるプログラムを設けることが有効です。また、マネージャーやリーダーに対しては、部下の成長を支援するスキルを養うためのトレーニングを提供し、部下のキャリア開発に貢献する姿勢を重視することが重要です。これにより、組織全体が個々の成長だけでなく、他者への貢献を通じた相互発展を目指す文化が形成されます。

6. ウェルビーイングの促進と幸福感の向上

 社員一人ひとりが自分自身の利益だけでなく、組織や同僚のためにどのように貢献できるかを考える環境を整えることで、職場全体のウェルビーイング(心身の健康)を向上させることができます。
 例えば、曽野氏が述べる「七割は自分のために、三割は他者のために使う」という考えを職場に応用し、社員が業務の中で他者に貢献する機会を設けることで、精神的な充足感を得られる環境を作ることができます。

 さらに、社員の精神的な健康を支援するための制度やプログラムを提供することが重要です。たとえば、ボランティア活動やコミュニティ貢献活動を推奨する企業文化を構築することで、社員が自分のスキルや時間を使って他者に貢献する機会を提供することが考えられます。これにより、社員は自分自身の幸福感を高めつつ、組織全体としての社会的貢献を果たすことができるようになります。

 職場内のウェルビーイングプログラムには、メンタルヘルスケアやストレスマネジメント、フィジカルウェルネス(運動や健康維持の支援)のみならず、他者との連携や協力を促進する活動を組み込むことが有効です。
 例えば、社内での「サポート・システム」を構築し、社員が互いに助け合う文化を強化するためのプログラムや活動を提供することが考えられます。具体的には、社員が困ったときに相談できる「ピアサポート」制度や、相互にフィードバックを行う「ペアリング・セッション」などが挙げられます。これにより、社員一人ひとりが組織の中で孤立せず、他者とのつながりを感じながら働ける環境が整います。

7. 人事施策の戦略的導入による組織全体のパフォーマンス向上

 最終的に、人事部門としては、曽野氏の「与えること」の哲学を組織全体の文化に組み込み、日常業務の中でその価値を実感できる環境を整えることが求められます。これを実現するためには、単なる研修や評価制度の見直しにとどまらず、組織全体の戦略的な人事施策として、リーダーシップ育成、チームビルディング、キャリア開発、エンゲージメント向上、ウェルビーイング支援を一貫して行う必要があります。

 また、社員一人ひとりが自分自身の成長だけでなく、他者や組織全体の成功に貢献する姿勢を持つように促すことが、人事の大きな役割となります。たとえば、社員が日常的に他者を支援し、チームとしての成功を目指すための「チーム目標設定」や、部門横断的なプロジェクトの推進を行うことで、自然と社員同士が互いに助け合う文化が醸成されます。

 このような取り組みを行うことで、曽野氏が提唱する「他者に貢献することの重要性」が組織全体に浸透し、個々の社員の幸福感が向上するだけでなく、組織全体のパフォーマンスも飛躍的に向上することが期待できます。組織は社員一人ひとりの成長を支援し、彼らが他者のために貢献できる環境を提供することで、最終的には企業としての持続的な成長を実現できるでしょう。

8. 人事部門が担うべき今後の役割

 以上の観点から、曽野綾子氏が強調する「与えること」を基盤とした哲学は、現代の企業においても非常に重要な示唆を与えています。人事部門としては、社員が自分の成長と他者への貢献を両立できる環境を提供するために、以下の施策を考慮することが求められます。

リーダーシップ研修における「与える姿勢」の育成
 リーダーが部下やチームに貢献することを重視し、チーム全体の成功を目指すリーダーシップスキルを養うための研修プログラムを構築する。

メンター制度やチームビルディングの推進
 社員が相互に支援し合い、信頼関係を築けるようなメンター制度やチームビルディング活動を促進し、協力的な職場環境を作る。

360度評価やピアレビューの導入
 他者への貢献や協力を評価基準に含めるため、360度評価やピアレビューを積極的に活用し、チームプレイヤーとしての行動を評価する。

世代間の相互理解を促進する取り組み
 若手社員とベテラン社員の間で世代間のギャップを解消し、互いに学び合う機会を提供するワークショップやコミュニケーションプログラムを導入する。

キャリア開発とウェルビーイングプログラムの充実
 社員が自分の成長と他者への貢献を両立できるキャリア開発プログラムを提供し、またウェルビーイングを支援するための制度を充実させる。

 これらの施策を通じて、社員が「与えること」を実践できるように導くことで、組織全体のエンゲージメントやパフォーマンスが向上し、より持続可能で幸福な職場環境が構築されることが期待されるでしょう。

「くれない族」と「与える喜び」の対比をより鮮明に表現しています。左側には、冷たい色合いで描かれた孤立した人々が、不満そうに座って他人を頼っている様子が見えます。対照的に、右側は温かい色合いの風景の中で、人々が互いに助け合い、喜んで与える姿が描かれています。自然の光が差し込み、花や木々が調和を象徴しており、他者への貢献が幸福と成長をもたらすというメッセージが伝わってきます。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。


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