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なぜ、あの会社には人が集まるのか?企業戦略と一体化した「入社したくなる理由」のつくり方ー日経トップリーダー記事より考える

 カケハシ スカイソリューションズの李泰一執行役員へのインタビュー記事「口数少ないコツコツ型では難しい? 採用責任者の人選を見直そう」(日経トップリーダー、2025年7月7日公開)を拝読しました。この記事は、現代の厳しい採用市場、特に知名度で大手に劣る中小企業が、いかにして優秀な人材を確保していくべきかについて、採用責任者の人選という斬新な切り口から、その核心に迫る内容でした。この内容を確認し、次いで企業人事の視点から、その内容をいかに自社の採用活動、ひいては組織づくりに活かしていくべきかについて、考察を深めていきたいと思います。

 現代の採用活動は、かつてのように求人広告の出稿量に比例して応募者が集まる時代ではなくなりました。特に、事業規模や知名度で大手企業に及ばない中小企業にとっては、自社の魅力をいかに求職者に届け、共感を呼ぶかが死活問題となっています。この記事では、その解決策として「採用ブランディング」の重要性と、それを成功に導くための採用マネジャーの人選について、具体的な提言がなされています。

変わりゆく採用マネジャーの役割と求められる資質

 かつての採用担当者の主な仕事は、求人媒体の選定や広告出稿の差配、面接日程の調整といった「オペレーション業務」が中心でした。そのため、人前で話すのは得意ではないが、実務をコツコツと着実にこなすタイプの人材が配置されることも少なくありませんでした。

 しかし、記事では、このような旧来型の採用マネジャーでは、現在の採用競争を勝ち抜くことは難しいと警鐘を鳴らしています。なぜなら、現代の採用活動の主戦場は、いかに自社の魅力を求職者の心に響く形で伝えられるか、という「コミュニケーション」の領域に移っているからです。

 そこで重要になるのが、採用マネジャー自身が「自社のことを心から好きで、その魅力を熟知していること」です。自身が会社から正当に評価されていないと感じていたり、自社への帰属意識が低かったりする担当者が、未来の仲間となるかもしれない求職者に対して、熱意をもって会社の素晴らしさを語ることはできません。

採 用マネジャーの役割は、単なる面接の仕切り役から、自社の魅力を定義し、ターゲットに届ける「ブランドマネージャー」へと大きく変化したのです。この役割の変化を認識することが、採用改革の第一歩となります。

採用ブランディングの本質:「入社したくなる理由」を創り出す

 記事の中で繰り返し強調されているのが「採用ブランディング」というキーワードです。これは単に会社の良いところをリストアップして美辞麗句を並べることではありません。採用ブランディングとは、一言で言えば「入社したくなる理由づくり」です。

 まず、「どんな人に来てほしいのか」という採用ターゲットを明確に定義します。そして、そのターゲットに「この会社で働きたい」と強く思ってもらえるよう、自社の魅力を戦略的に伝え、共感を醸成していく一連の活動全体を指します。

 しかし、記事が指摘するのは、さらにその先にある「真の採用ブランディング」の姿です。それは、単に既存の魅力を伝えるだけでなく、ターゲット人材から選ばれるために、自社そのものを変容させていくという、より能動的で、経営戦略に深く関わる取り組みです。

 具体例として挙げられているタクシー会社のケースは非常に示唆に富んでいます。その会社では、新卒で入社したドライバーが、3年目には必ず本社の人事担当を経験するというキャリアパスを制度化しました。これにより、「一人のドライバーとしてキャリアを終えるのではないか」という学生の不安を払拭し、「本社業務を経験することで、その後のキャリアの選択肢が広がる」という新たな魅力を創出しました。これは、求職者のインサイトを的確に捉え、それに応える形で自社の制度、つまりは組織のあり方そのものを変えた好例です。この取り組みによって、同社は採用数を大きく増やすことに成功しました。

 このように、採用ブランディングとは、採用活動という限定的な領域に留まらず、社員のキャリア形成や組織のあり方を見直すという、企業戦略そのものと不可分な活動なのです。

企業戦略と連動する3つのブランディング

 採用ブランディングが成功するためには、それが企業戦略と乖離していてはなりません。求職者は企業のウェブサイトや採用担当者の言葉が「きれい事」ではないか、実態と合っているかを鋭く見抜こうとします。説明会で語られる魅力と、SNSや口コミサイトで見聞きする情報に大きな隔たりがあれば、信頼は一瞬で失われてしまいます。

そこで重要になるのが、以下の3つのブランディングを連動させるという視点です。

  1. 企業ブランディング(Corporate Branding): 社会や顧客に対して、自社がどのような価値を提供し、何を目指す企業なのかを発信する活動。

  2. インナーブランディング(Inner Branding): 既存の社員に対して、経営理念やビジョンを浸透させ、自社への理解と誇り、エンゲージメントを高める活動。

  3. 採用ブランディング(Recruiting Branding): 未来の社員(求職者)に対して、働く場としての魅力を伝え、入社意欲を高める活動。

 この3つは密接に連携しています。まず、経営者が「社員をどう育て、どう活かしていくか」という明確な経営方針・人材戦略を立て、それを社内に浸透させる(インナーブランディング)。その結果、既存社員が自社に誇りを持ち、イキイキと働くようになれば、それが自然と会社の魅力となり、採用ブランディングの強力な土台となります。社員が自社のことを好きになれば、彼ら自身が最高の「広告塔」となるのです。採用活動を単体で進めるのではなく、この三位一体のブランディングを推進することが、持続的な採用力の構築に繋がります。

経営者の「一番の理解者」を採用マネジャーに

 では、この戦略的な採用活動を誰が担うべきなのでしょうか。記事は、その答えとして「経営者の一番の理解者」を挙げています。

 会社全体の人材戦略を描くのは経営者の重要な仕事です。そして、その戦略を深く理解し、具体的な採用戦略に落とし込み、実行部隊の先頭に立つのが採用マネジャーの役割です。両者の間に認識のズレがあっては、戦略は絵に描いた餅で終わってしまいます。

 したがって、経営者は自身の右腕として育てたい人材や、後継者候補を採用マネジャーに据えることが効果的だと述べられています。経営者からの信頼が厚い人物が責任者となることで、予算の確保や他部署への協力要請がスムーズになり、大胆な採用改革を断行しやすくなります。

 また、採用面接では、現場で活躍するエース級の社員に同席してもらい、仕事のやりがいやリアルな日常を語ってもらうことが、求職者の入社意欲を高める上で非常に有効です。しかし、社内的に影響力の弱い採用マネジャーでは、多忙なエース社員に協力を仰ぐこと自体が困難です。現場からも信頼され、協力を引き出せるような人望のある人物こそ、採用マネジャーに適任なのです。

 この記事は、従来型の「コツコツ型」の人事責任者を否定しているのではありません。採用を取り巻く環境が激変した今、採用マネジャーに求められる役割と要件もまた変化したのだという事実を、私たちに突きつけているのです。

【人事視点】記事から学ぶ、明日から実践すべき採用改革

 この記事は、私たち企業人事にとって、耳の痛い指摘を多く含みながらも、これからの採用活動のあり方を照らす道標となるものです。人事担当者として、この提言をどのように自社の活動に落とし込み、組織をより良くしていくことができるのか。具体的なアクションプランと共に考察します。

第1のステップ:我が社の採用責任者は「ブランドマネージャー」か?

 まず、自社の採用体制を客観的に見つめ直すことから始める必要があります。採用責任者、あるいは人事担当者である自分自身は、記事で指摘されている「オペレーター」に留まっていないでしょうか。会社の未来を、自社の魅力を、自分の言葉で熱く語ることができるでしょうか。

 もし、自信を持って「Yes」と答えられないのであれば、その原因を探る必要があります。それは個人の資質だけの問題ではないかもしれません。会社として、語るべき魅力的なビジョンや戦略が明確に示されているか。社員の成長を支える具体的な制度やキャリアパスが用意されているか。採用担当者が自信と誇りを持って自社を語るための「武器」を、会社が提供できているか、という視点での自己点検が不可欠です。

<アクションプラン>

  • 採用担当者の役割再定義
     採用担当者のミッションを「採用目標人数の充足」から、「自社のファンを増やし、未来の仲間を集めるブランドマネージャー」へと再定義し、経営層と共通認識を持ちます。

  • 経営者との1on1
     採用責任者と経営者が定期的に1on1ミーティングを実施。経営者が描く人材戦略や事業の未来像を直接インプットしてもらい、採用メッセージとの一貫性を保ちます。

  • 適任者の抜擢・育成
     もし現在の担当者が「語れない」タイプであれば、無理に語らせるのではなく、適材適所の観点から人選を見直します。営業部門のエースや、経営企画に近い立場の若手など、会社の未来を語ることに長けた人材を抜擢することも一手です。あるいは、現担当者に「ブランドマネージャー」としての研修機会を提供し、育成を図ります。

第2のステップ:「入社したくなる理由」を社員と共に創り出す

 採用ブランディングは、人事部だけで完結するものではありません。その源泉は、現場で働く社員一人ひとりの経験や想いの中にあります。まずは、その「魅力の原石」を丁寧に拾い集めることから始めましょう。

 しかし、記事が示すように、単に既存の魅力を集めて伝えるだけでは不十分です。ターゲットとなる求職者が真に求めているものは何かを深く洞察し、それに応える形で自社を「変容」させる覚悟が求められます。

<アクションプラン>

  • 魅力の棚卸しワークショップ
     人事主導で、様々な部署の若手からベテランまでを集めたワークショップを実施。「うちの会社の“当たり前”だけど、実はすごいこと」「入社して良かったと感じる瞬間」「もし自分が学生だったら、どんな点に惹かれるか」といったテーマで意見を出し合い、言語化します。

  • ペルソナ設定とギャップ分析
     採用したい人材の具体的なペルソナ(人物像)を設定します。そのペルソナが、企業選びで何を重視するのかを徹底的に分析し、自社の現状(棚卸しした魅力)とのギャップを洗い出します。

  • 「変容」に向けた制度改革の提案
     ギャップを埋めるための具体的な施策を、経営陣に提案します。例えば、「成長機会の不足」がギャップなのであれば、記事のタクシー会社のようにユニークなジョブローテーション制度を導入したり、資格取得支援制度を拡充したり、社内ベンチャー制度を立ち上げたりといった、組織のあり方を変える提案が求められます。これはもはや採用施策ではなく、人事戦略そのものです。

第3のステップ:採用を「人事ごと」から「全社ごと」へ

 採用の成功は、全社的な協力体制なくしてあり得ません。特に、現場社員の巻き込みは不可欠です。求職者が最も知りたいのは、人事が語る制度の話以上に、「実際にどんな人たちと、どのように働くのか」というリアルな情報だからです。

 しかし、多くの企業で「現場は採用に協力的でない」という悩みが聞かれます。その原因は、記事の指摘通り、採用担当者の社内影響力の弱さや、現場に協力を依頼するための「大義名分」の欠如にあります。

<アクションプラン>

  • リクルーター制度の再構築
     現場社員に協力を「お願いする」のではなく、彼らが「公式なミッション」として採用活動に関われるリクルーター制度を構築します。活動内容を評価制度に組み込んだり、インセンティブを設計したりすることで、協力の動機付けを高めます。

  • 「なぜ協力が必要か」の丁寧な説明
     現場の部門長や社員に対し、「なぜ、あなたたちの力が必要なのか」をデータや経営戦略と絡めて丁寧に説明します。「優秀な後輩の存在が、君たちの成長や部署の成果に繋がる」といった形で、協力することが彼ら自身のメリットにもなることを伝え、共感を得ます。

  • 採用成功の可視化と共有
     採用活動を通じて入社した新人が、現場でどのように活躍しているかを、社内報や全体朝礼などで積極的に共有します。自分たちの活動が会社の未来に繋がっているという実感は、次なる協力への強力なモチベーションとなります。

最終ステップ:インナーブランディングこそが最強の採用戦略である

 結局のところ、採用ブランディングの成否は、インナーブランディングの土台の上に成り立っています。社員が自社に不満を抱え、エンゲージメントが低い状態で、いくら外面だけ良く見せようとしても、そのメッキは簡単にはがれてしまいます。

 「リファラル採用(社員紹介採用)が活発な会社は、良い会社である」とよくいわれます。これは、社員が心から「自分の大切な友人や知人に紹介したい」と思えるほど、自社に満足し、誇りを持っている証左だからです。この状態を作り出すことこそが、人事としての究極の目標であり、最強の採用戦略と言えるでしょう。

<アクションプラン>

  • エンゲージメントサーベイの実施と改善
     定期的にエンゲージメントサーベイを実施し、組織の健康状態を客観的に把握します。課題が見つかれば、それを解決するためのワーキンググループを立ち上げるなど、具体的な改善活動に繋げます。

  • 経営ビジョンの浸透
     経営者が語る会社のビジョンや未来像を、社員が「自分ごと」として捉えられるようなコミュニケーションを設計します。タウンホールミーティングの開催や、ビジョンを体現する社員の表彰などが有効です。

  • 「辞めない会社」をつくる
     採用と同じくらい、離職率の低下(リテンション)に力を注ぎます。働きがいのある環境、公正な評価、成長できる機会を提供し続けることで、社員満足度が高まります。満足度の高い社員が発するポジティブなエネルギーは、自然と社外にも伝播し、優秀な人材を引き寄せる磁力となるのです。

 この記事が示すように、採用はもはや「人を選ぶ」活動ではありません。自社のあり方を問い直し、社員と共に「選ばれる理由を創り出す」活動へと進化しています。私たち人事担当者は、その変革の旗振り役として、経営と現場を繋ぎ、組織全体を動かしていくという、重くもやりがいのある役割を担っているのです。

満足度の高い社員が発するポジティブなエネルギーは、自然と社外にも伝播し、優秀な人材を引き寄せる磁力となるのです。


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