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水彩詩集 私の本棚は誰かの孤独…❿アドラー心理学/結婚と家の購入に悩む男

私の本棚は、誰かの孤独と繋がっている。
その書物は、誰かに読まれることを待っているのか?

この詩と絵は『嫌われる勇気』に登場する、哲人と青年の対話からインスパイアして、その世界観を形にしたものです。】

刹那を生きる青き帆船(ふね)へ

—— 青年と哲人の往復詩 ——
 
〈会話問答の世界〉
 
かって、1000年の都と謳われた古都のはずれに、
世界はどこまでもシンプルであり、
人は今日からでも幸せになれると説く
哲学者が住んでいた。
 
看過しがたい理想論を唱える哲学者に、
納得のいかない青年は、哲学者の元を訪ね、
その真意を問いただそうとしていた。

青年は結婚と、生涯の住処のための、
ロードマップを持っていたが、今や、
それは風前の灯となっていた。……

第一連:青年、砂の城の崩壊

【青年】
二十八の春は、音もなく通り過ぎ、
三十五の岸辺には、一億円の絶壁がそびえる。
 
私が描いた未来の地図は
高騰するコンクリートの波に
呑み込まれてしまった。
 
愛とは、条件という名の鍵を揃え
確かな城を築くことではなかったのか。

鍵を持たぬ私は、スタートラインにすら立てず
ただ 時代の逆風に 立ち尽くしている。

第二連:哲人、視線の転換

【哲人】
若き友よ、あなたが見つめているのは、
一億円という「社会の数字」と
過ぎ去った「数字の幻影」だけだ。
 
愛とは、所有する城の大きさを競う取引ではない。
 
主語を「わたし」から「わたしたち」へと書き換え
不完全なままの互いを 差し出し合う覚悟だ。
 
あなたが恐れているのは、
家が買えないことではなく 条件の剥ぎ取られた
裸の自分を見つめられ 拒絶されること、
その一点ではないのか。

第三連:青年、恐れの告白

【青年】
ああ、見透かされてしまった
私は「完璧な計画」という鎧(よろい)を着て
傷つかぬ保障を 探していたのだ。
 
鎧を持たぬ私は、あまりに脆く
差し出すべきものなど 何もないように思える。

計画の破れたこの人生に、
一体 どんな価値が残るというのか。

第四連:哲人、今、ここへ

【哲人】
人生は、あらかじめ引かれた一本の線ではない。
過去から未来へ続く 旅路でもない。
 
それは「今、ここ」という 刹那のドットが、
激しく、美しく、踊るキャンバスだ。
 
一億円の城がなくても、
灯せる明かりが、紡げる言葉がある。
 
計画という名の執着を 手放すがいい。
 
(哲人の囁き)
未来の数字に怯えるのをやめ
過去の予定表を 破り捨てなさい。
 
あなたが踏み出すべきは、他者を信じるという
まっさらな「今」という大地なのだから。

第五連:青年、出帆の決意

【青年】
未来への恐れが、胸の奥で静かに溶けていく
私は一億円の数字に、
魂を売っていたのかもしれない。
 
地図は破れ、城は消えた。
 
けれど、私の足元には まだ「今」がある。

条件ではなく、目の前の人間と、
真剣に向き合うために、
私はいま、鎧を脱ぎ捨てて 歩き出そう。


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