アドラー心理学で解く悩み相談/日経平均が絶好調なのに、私の株は上がらない
〈会話問答の世界〉
かって、1000年の都と謳われた古都のはずれに、世界はどこまでもシンプルであり、人は今日からでも幸せになれる、と説く哲学者が住んでいた。
看過しがたい理想論を唱える哲学者に、納得のいかない青年は、哲学者のもとを訪ね、その真意を問いただそうとしていた。
悩み多き青年の目には、世界は矛盾に満ちた混沌としか映らず、ましてや幸福など有り得なかった。
世界はどこまでもシンプルである
青年が哲人に質問します。
「世界はどこまでもシンプルである、と言うのが先生のご持論なんですね?」
それに対して哲人は、「世界は信じがたいほどにシンプルで、誰もが幸福になれる。人生もまた同じ」と答えます。
すると青年は、その看過しがたい理想論を、撤回して欲しいと唱えます。
これに対して哲人は、
「自分自身が変われば、世界はシンプルな姿をとり戻す、問題は世界がどうであるかではなく、あなたがどうであるか、世界を直視するその勇気があるのか」と、勇気の問題だと言うのです。
そして、日経平均株価が過去最高値を、上げている今、青年がなけなしのお金で買った銘柄の株価は、一向に上がらなかったのです。
日経平均が過去最高値なのに
【青年】(憤慨した様子で部屋に入ってくる) 先生! 今日ばかりは、アドラーの言う「すべての悩みは対人関係である」という説に、明確な反論を持って来ました。
【哲人】
おや、ずいぶんと息が荒いですね。一体どのような反論ですか?
【青年】経済の悩み、つまり「お金」の悩みですよ!
今、日経平均株価は過去最高値を更新し、株式相場は活況です。それなのに、私がなけなしの貯金をはたいて保有している株は、少しも上がらない。
それどころか下がっているものすらあります。この、胸が締め付けられるような焦燥感、不条理への怒り……。
これは市場の仕組みや私の不運が原因であり、他人は一切関係ありません。
純粋に、私とお金、私と市場の間の悩みです! これでも「すべての悩みは対人関係だ」と言い切れるのですか?
純粋なる「対人関係の悩み」
【哲人】(静かに茶をすすり、青年を見つめる) なるほど、市場の好況に取り残されたような焦りと、不公平感ですね。
確かにそれは苦しい。しかし青年、やはりそれもまた、純粋なる「対人関係の悩み」なのです。
【青年】な、なんですって!? 馬鹿なことを言わないでください! 私はただ、自分の保有株の株価が、日経平均という「客観的な指標」に比べて、増えていないことに失望しているだけです。
ここにどうやって他人が介入すると言うのです?
比べる相手が悩みの根源
【哲人】 では、お聞きしましょう。
もしもこの世界に、あなた以外の人間が誰もいなかったとしたら、あなたはその「株価」の増減に、これほど激しい怒りや焦りを覚えたでしょうか?
【青年】 そっそれは……世界に誰もいなければ、そもそも株式市場なんて存在しないでしょ!
【哲人】揚げ足を取りたいのではありません。仮に「お金」という概念だけが存在する無人の世界があったとしましょう。
そこであなたの資産がどれだけ減ろうが、あるいは日経平均という謎の数字がどれだけ上がろうが、あなたは「嫉妬」や「劣等感」を抱きますか?
【青年】 ……。いや、それは抱かないかもしれません。比べる相手がいませんから。
【哲人】 その通りです。あなたが今、激しい苦痛を感じているのは、「日経平均が上がっている」からではありません。
「日経平均の上昇の恩恵を受け、金融資産を増やして豊かになっている『誰か』」が、この世界のどこかにいると確信しているからです。
【青年】あぁ……。
【哲人】あなたが戦っているのは、市場という抽象的な存在ではない。
その背後に透けて見える、「利益を出して高笑いしている(とあなたが想像する)他者」です。
つまり、あなたの悩みは、他者との「比較」から生まれる「劣等感」の悩みなのですよ。
【青年】(言葉に詰まるが、すぐに声を荒らげる) しかし、先生! それは人間の感情のメカニズムの話でしょう?
実際に私の株が上がらないのは、私の銘柄選びが間違っていたか、運が悪かったかという「客観的な事実」です!
【哲人】 では、もう一歩踏み込みましょう。
なぜあなたは、その株に上がって欲しかったのですか? 富を得て、何をしたかったのですか?
【青年】 決まっていますよ! 良い暮らしをして、将来の不安をなくし、経済的自由を得たいからです。
【哲人】 「良い暮らし」とは何でしょう? 高級な車に乗ることですか? 広い家に住むことですか?
もしそれらを手に入れたとして、それを自慢する相手も、羨望の眼差しを向けてくる相手も誰もいない世界だとしたら、あなたはその大金を欲したでしょうか。
アドラーはこう言っています。「我々は、他者からの承認を求めて生きてはならない」と。
【青年】まさか……私が株をやっているのは、他人に認められたいから、他者より優位に立ちたいからだと!? そんな薄っぺらい動機ではありません!
【哲人】 認めがたいかもしれませんが、多くの投資の悩み、お金の悩みは「承認欲求」と「競争」の罠に囚われています。
日経平均という指標は、現代社会における強力な「ものさし」です。
そのものさしを使って、あなたは無意識に「勝っている他者」と「負けている自分」という“競争の階層”を作り上げ、自らその罠に飛び込んで苦しんでいる。
他者を「仲間」ではなく「敵」と見なしているからこそ、他人の成功(日経平均の上昇)が、自分の敗北のように感じられるのです。
【青年】(拳を握りしめ、震える声で) ……では、私はこの上がらない株を前に、どうすればいいと言うのですか? この悔しさを、ただ受け入れろと?
【哲人】 ここで必要なのは「課題の分離」です。
「日経平均がどう動くか」、あるいは「他人がどれだけ儲けたか」は、あなたの課題ではありません。他者の課題です。
そして、あなたが過去に選んだ銘柄が今どうなっているか、それは「変えられない過去の事実」です。
「あなたの課題」は何ですか。
【青年】では、 私の課題は、何なのですか?
【哲人】「いま、ここ」で、あなたがその保有株とどう向き合うか。損切りをするのか、持ち続けるのか、あるいは投資の勉強をし直すのか。
それは完全に「あなたの課題」であり、そこに他者の影を介入させてはなりません。
「他人に勝つため」ではなく、「あなた自身の目的」のために、淡々と次の最善の手を打つ。他者との比較をやめ、自分の課題に集中すること。
それこそが、市場の狂騒に振り回されない「自由への一歩」なのです。
【青年】 (深くため息をつき、静かに椅子に座り直す) ……相変わらず、先生の言葉は容赦がない。私の株の含み損すら、私の心の問題に帰結させてしまうとは。
しかし、認めざるを得ない。私が本当に腹を立てていたのは、株価そのものではなく、SNSで利益を自慢している見ず知らずの誰かや、
時代の波に乗れている世間に対する、私自身の『劣等感』だったのかもしれません……。
「最後までお読みいただきありがとうございました!当アカウントでは主に、本や読書についての感想や思い、そんな思いを詩などの創作作品にして毎日更新しています。
次回の記事を見逃さないよう、ぜひフォローとスキで応援していただけると嬉しいです!」
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします!いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!