書く人生の終い方【書く人生がはじまった瞬間】
こちらの企画に参加します。
2026年3月29日
丙午如月十一日
(文字数:約2500文字)
喧嘩腰に受け取られるかもしれないが、現時点での私の心境は忌憚無く、書き残しておきたい。
書く人生は私の場合、物心ついた時にはすでに始まっていたからだ。
山の上に建つ一軒家の、三畳ほどの一室に、閉じ込められていたわけではない。扉にカギはかかっていなかったのだから出ようと思えば出て行けた。しかし私が思うままに出て行っても、大抵は喜ばれないことを知っていた。
部屋にはおもちゃやぬいぐるみが突っ込まれたカゴと、天井まで届く高さの本棚があった。親と会話するよりも先に、私は文章から、この世のありとあらゆる物事を知った。
外に出て歩き回るよりも先に、文章から、春の野山は青々としていて心地良いあたたかさであることや、道端でよく見かけるはずの草花の姿に名前、まち、という場所があり、お買い物をしたりキレイなグラスに入った冷たいお菓子を食べられるところだといった事柄を知った。
近所には、私と血のつながらないおばあちゃんが一人で暮らしている小さなおうちだけ。母がどうにも忙しい時には、そのおばあちゃんに預けられていたが、もてあましたのだろう。ずっとアニメを見させてもらっていた。
「すみません。ご迷惑をおかけして」
「いえいえ。おとなしくしてましたよ」
事実私はおとなしかった。このおばあちゃんもそうだが、両親に連れて行かれた先で会う、自分のおばあちゃんやおじさんたちは、子供に聞かせても分からないだろうと、安心し切ってそれはもう様々な話を聞かせてくれた。
一方で、私が声を出して自分の話を出来る機会は無かった。
両親の価値観と審美眼において、私は失敗作であり、私の意見に好みは聞く耳を持たれなかった。泣こうが怒ろうが笑おうが、「この子はおかしい」「まともじゃない」で片付けられる。
親だって人間なんだから、機嫌が悪い時に当たっちゃうこともあるよね、などと思えるような頻度ではない。毎日だ。真っ当な感覚を持つ者であれば私を嫌うのが当然だと、実の親二人から日夜言い聞かされ続ければ、それがこの世の実相なのだと思い込む。
私は人の目に立つところに出て行ってはいけない。
私が変な声を出して私自身の経験に思いを語ることは出来ない。
私は異常な存在であり出会う人々を高確率で不快にさせてしまうからだ。
私以外の誰かの人生を創り出し、その人たちを生きさせる以外に無い。
十歳の時点で私は私の人生を諦め、頭の半分以上を誰か別の人たちの物語のために、明け渡すようになった。
ちなみに自分は異常者だと強く思い込んでいた割に、出来ないこともなかった友人に彼氏、そして現在の配偶者の事は、「とんでもなく善い人たち」だと思っていた。
私を嫌っておいた方が世間からまともに思われるのに。私と一緒に笑われちゃうのにそれでも近寄ってくれるんだすごい。
そうして四十代の中盤まで、ざっと三十五年間は、何かしらを脳内で構想し続け書き続けました。
昨年令和七年の三月に、大学時代から思い描いていた相当長丁場な作品を書き終えてようやく、
これでもう書く人生は終っていい、
と思えました。
書きたかったものは書き尽くし、今後は何を書いたとしても、これまでの作品の焼き直しになると感じたからです。
その割に、これまでの作品は全て応募・公開・更新してきた間、ほとんど読まれていないという見事な実績。書きたいものや書く技術が無くなったわけではありませんが、まずはこれまでを読まれないことには。
全く読まれていないわけではなく、十名ほどからは絶賛を頂けた事に力を得ていますが、それを遥かに上回る数量のごもっともなアドバイスを頂いております。
広く宣伝していないんだから誰からも気付かれはしないし、読まれるわけがない。皆さまにとってはそれが当たり前でしょうけれども、私自身が表に出る事は許されない、と長く教え込まれた身にとっては、書き尽くすまでを書き切ってようやくその当たり前が実感できるわけです。
純粋な書く人生は、どこにも広がりませんし、誰にも響きません。
なるべく表に出歩かず、新しい誰かと出会おうとせず、他人の人生に脳を費やして自分の人生を生きてきた実感など無いのですから当然でしょう。
え? 貴方を結構見かけるけど?
と思って下さる方がいましたらありがとう。実は上述の作品に完成の目処がついた、令和六年辺りから、ようやくちょっとずつ行きたいイベントがあれば行ってみよう、会えそうな人がいたら会ってみようと思えた、せいぜいここ二、三年の成果です。
純粋な書く人生は終ってこれからは、他人様の作品を読む人生観る人生、書いてきた作品を届ける人生、私一人分の思考と身体で行動する私の人生へと、シフトして行きたい。
それがおそらく世間一般的に言う「書く人生」なのかもしれません。書く形のみを採り続けるかどうか、今はまだ分かりませんが。
書く人生を始めたい方に言っておきたい。
あなた方のほとんどは、私の手には長く入らなかった事柄を、すでに充分に有している。
この上に更に書く人生を始めるとなれば、大丈夫だ。少なくとも私よりは順調に新たな人生を歩める。純粋な書く人生が保証する。
私同様に物心ついた頃から書く人生が始まった方は、書き続けろ。
書きたい事は全て書き尽くしたと言い切れるまで、一種の地獄としか思えない孤独に恐怖して泣きわめきながらだが、耐えるしかない。
書く人生を終わらせるには、命を絶つか、生き切るかだ。書き尽くした先にしか次の人生は見えてこない。
残酷に聞こえるかもしれないが、真実だ。貴方には、結果はどうあれ書かずには生きていられないほどの鬱積がある。
それは貴方にしか書けない、この世のどこかには刻まれなければならない物語だ。他は誰一人そうと認めなくとも、書く価値ならある。
以上です。
ここまでを読んで下さり有難うございます。
いいなと思ったら応援しよう!
何かしら心に残りましたらお願いします。頂いたサポートは切実に、私と配偶者の生活費の足しになります!