ショートショート 風を治すクスリ
大先生は時々空を見上げてぼうっとなさる時がある。訪問診療帰りの夕焼け空は特にそうだ。鞄持ちの大次郎が空を見る先生を見る。ごうごうとお山の方から吹いてくる風の音が聞こえて余計に恐ろしくて大先生がどこか知らないところにいってしまやしないかと心配になった。
「親父も、もう歳だから」
息子先生が苦笑いしたのは今朝のことだ。机の上に訪問診療用の薬があった。手書きで「風を治すクスリ」と書いてある。大先生の字だ。
「これじゃあ、中身も間違えてやしないかと患者が不安になるよ」
息子先生が看護師を呼んだ。新しい風邪薬の袋を用意するためだ。「風を治すクスリ」はそっと息子先生がゴミ箱に入れた。
診療帰り。夕焼け空を大先生が見上げた。大次郎に鞄を開けるようにと言う。鞄の中に捨てたはずの「風を治すクスリ」が入っていた。
「最近、少し音が濁るでのう」
大先生が袋を破るとサラサラと粉薬が風に飛ばされた。ひゅうひゅう。風が笑ったように聞こえた。
No.744
たらはかに(田原にか)さんの「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「風を治すクスリ」です。
先週のお題は「無人島生活福袋」。小粋でポップなヒスイさんも書いています!
……。
ねこの中の人は資本主義の犬なので、後者一択です。めっちゃ増やして、販路開拓をはかります。(真顔)
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! 