吾妻ひでおさんの「アル中病棟」は、世界中のアルコール依存症の患者とその家族に読まれるべきである
吾妻ひでおさんの「アル中病棟(失踪日記2)」(イートン・プレス)を読みました。
「失踪日記」は、およそ20年ぶりに見ましたが、こちらは初見です。
巻末にとり・みきさんとの対談が収録されており、これを読むと、失踪日記が出版されてから描き始め、完成までに8年をかけた大作です。
医学的な記載が圧倒的に多く詰め込まれています。
主治医をされている医師が監修をされています。
また参考資料として、高木敏さん+猪野亜朗さんの「アルコール依存症ー治療・回復の手引き(小学館)」が挙げられています。
完璧な「公衆衛生本だ」と断言できます。

冒頭のイントロダクションで、アルコール依存症について、ご本人が語っています。
アルコール依存症って回復はしても完治しない不治の病なんですよね。
何十年断酒していようと一度呑んでしまえば元の木阿弥
いずれは内臓のどこか
あるいは脳を侵され
廃人になるか死に至ります
皆さんの周りにも昼間からできあがっているいい感じのアル中がいるんじゃないでしょうか?
そういうやつらは
放っぽいてください
いくら助言しても
言う事聞きませんから
アルコール依存症は
どうしたら回復するのか
またいつ呑んじゃうかわからない
フラフラしている私に確信的な事は言えませんが
自分が病気であることを自覚し
気長に付き合っていくこと
他に生きがいを見つけるよう努力して
みることでしょうかね
酒で身も心もボロボロになって
破滅していくのってむしろ美しくて
潔いと私は思っているんですけど
奥さんや子供達が厳しい目で
見張っているしなぁ
こんな自分を少しでも
皆さんに笑ってもらえるように
漫画にして描くことが
私の治療になっているのかも
しれません
この文章は患者しかかけないと思います。
或る意味、漫画家の吾妻ひでおさんがアルコール依存症だったおかげで、アルコール依存症の実態が漫画になって可視化されてよかったと思います。

アルコール依存症の家族の記述も心にしみるものがあります。
依存症からの回復者が少ないのは「否認」の病だからです。
自分が依存症であることをどうしても認められず、再飲酒を繰り返してしまうのです。
家族は依存をやめさせようと飲酒をコントロールしようとします。
この被害者でもあり支え手でもある人を飲酒の「イネブラー」といいます。
子供たちにも多大な影響があり、依存症の家族を持った子供もやはり「否認のルール」に従って行動します。
良い子(ファミリーヒーロー)
問題児(スケープ・ゴード)
波風立てない子(ロスト・チャイルド)
おちゃらけて笑いをとる子(マスコット・ピエロ)
「共依存」は自分を犠牲にして他人に尽くし、そのことで自己の存在価値を証明し、自己陶酔に陥る「自己愛」がその根本にあります。
共依存の家族は病人(依存症者)のために生きるのではなく、自分自身のために生きるべきです
病人をコントロールしない、呑もうが呑むまいがほおっておく。
やがて本人は身体的にボロボロになりどうにもならなくなります。
これを「底つき」といいます。
この時初めて手を差し伸べましょう(ほっといたら死ぬしね)
ここからやっと回復への道が開けます。
これも本人だから言えることだと思いました。
吾妻ひでおさんは、「底つき」の状態になり、アルコール病棟に入院となりました。

入院は断酒して社会復帰できる最大のチャンス。
アルコール依存症の人が断酒した後、一転して「甘い物中毒」になる例が多いそうです。
甘い物をとるとアルコールと同様、脳内で麻薬に似た物質が分泌されるそうです。つまりまだ依存している状態です。
アルコール依存症は、おおむね歯が悪いそうです。
ろくなものを食わずに酒呑んでカルシウム不足になるせいです。骨粗鬆症も多いとのこと。
抗酒剤シアナマイド(シアナミド)は、石灰窒素に含まれるカルシウム・シアナミドから創られた薬です。肥料工場で働いている人が酒に弱くなることから発見されました。
シアナマイドを服用した上で酒を呑むと、嘔吐・動悸・悪寒・悪心等をきたし、死ぬ苦しみだそうです。
吾妻ひでおさんは、偉大な漫画家です。
アルコール依存症の漫画の教科書を作ってくれました。
世界中のアルコール依存症の患者さんとその家族に読まれることを期待しています。
