【#創作大賞2025#ファンタジー小説部門】マァァァァァム!17話
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「ユタ君、抱っこしてあげようか?」
「やあの!」
サクの申し出を笑顔で断るユタ。
「高い高いしてあげるよ」
「やーの!ペスがいいの!」
そういうとユタは笑顔を引っ込め、ペスの背中にしがみつく。「ワン!」と答えるペスは誇らしげだ。
「そんなにしがみついたらペスが痛いよ?」
そう言いながらサクがユタの方へ腕を伸ばした時、ペスが「ウウウッ!」と唸った。ピクリとするサク。まだ子犬ではあるが、幼児1人を乗せられるくらいに成長したペスは、それなりに迫力があった。表情を変えはしないが、サクはそっとペスとユタから離れた。
「そんな、気を使わないでくださいよ」
やんわりとボンが声をかける。
「いえね、ユタ君は父親に抱っこされたことがないと思って」
「そうですね。アグはユタが生まれる直前の出征でしたから」
寂し気な表情を浮かべるボン。アグが出征した日の朝を思い出しているのだろう。
「ボンさん、アグに会うまでは僕を子ども達の父親代わりに遠慮なく使ってください」
そう言うと、サクは荷車の方へクルリと向き、サトに声をかけた。
「サト君……高い高いをし……」
言い終わる前にサトは干しオヤチャイの中に隠れてしまう。
「ハハハ……サト君は恥ずかしがり屋さんだなあ」
と笑顔を浮かべるサクだったが、表情が引きつっているのをゾウとユキは見逃さなかった。ゾウとユキの視線を避けるようにボンに話しかけるサク。
「あれです!あそこが病院に近い村です」
「サクさんがいてくれて助かりました」
ボンが笑顔でサクに礼を言った。
・・・・・・
その村はどことなく妙だった。ボン達を見るなり、怯えるように家の中に入る村人。今まで、いくつもの村に滞在したが、母子で旅するボン達に村人は優しかった。狂った戦争を生き延びた仲間として扱われたし、干しオヤチャイや干しオチャカナを持っているボン達に村人は喜んだ。
サクと出会った後、野良オヤチャイやオチャカナの群れと出会い、荷車には沢山の食糧がある。それなのに、誰も近寄らない。どことなく怯えたような雰囲気も漂っているように感じる。
村長は早口に「お疲れ様です」と一言いい、病院用の物資をサクに渡すと、足早に去った。
「サトが大人になったらああなるのかな?」
とゾウに軽口を叩かれ、嫌な顔をするサト。ユキは苦笑いをしながら聞いていたが、村長の人見知りとサトの人見知りはどことなく違う気がした。ゾウもそれを薄々感じたからこそ、冗談で気を紛らわせようとしたのだろう。
「ボンさん、こちらです!」
何度もこの村に来ているというサクが勝手知ったる、という体で、一軒の家へボン達を連れて行く。
「こんなに立派な家があるなんて」
驚くボン。
「ここら辺は空襲に遭わなかったんです」
だから、物資が豊富で病院には必要な村だと説明するサク。自分達の家は全て焼けてしまったことを思い出し、複雑な表情をユキは浮かべる。
「さ、中に入って休もうか」
ボンに促され、入ろうとした時だった。
ギャアアアと泣き声が聞こえた。
驚いて振り返ると、ユタがペスにしがみついて泣いている。
「どうしたんだい?」
慌ててボンが走り寄った。
「犬は家の外だと言ったら」
サクが気の毒そうにボンに説明する。
「ペスは家族なのぉ」
一緒でないと家の中に入らないというユタにボンは優しく話しかけた。
「お世話になるんだから、我慢しな。今までは野宿だったけれど、ダドが帰ってきて家を建て直したらペスは外で飼うことになるんだよ。体の大きい犬は外で寝起きして家族を守ってくれるんだ」
「そうなの?」
涙を丸い頬にポッチリと残したまま顔を上げるユタ。ペスがそんなユタの頬をペロリとなめる。大丈夫ですよとユタに言うように尻尾を振っているとボンは感じた。
「悪いねペス」
「クゥゥゥン」
家の前にある棒にペスの首についている紐をくくり、ボン達は家の中に入った。
「マァァァァァム!」
次の朝、ユタの悲痛な叫び声が響き渡り、乱暴に玄関のドアを開けるボン。彼女の目に飛び込んできたのは、泡を吹いて倒れているペスと顔じゅうを涙で濡らしたユタだった。
18話に続く
