朗読ライブ「賢治と鏡花:幻想の世界(朗読ユニット音がたりPresents)」(戸丸彰子,松尾貴史(朗読),鶴見彩(ピアノ),岡部洋一(パーカッション),曽我部翔(花いけ),北井千都代(ダンス),モリ川ヒロトー(映像他),2026年8月9日,金沢21世紀美術館)
金沢中心に活躍しているフリーアナウンサー,戸丸彰子さんが企画した朗読を中心としたイベント「朗読ライブ」が行われたので参加してきました。





色々なところで雰囲気を盛り上げていました。
戸丸さん企画のイベントには昨年も参加したことがあるのですが,今回の目玉は何いっても,テレビやラジオなどでもお馴染みの俳優・エッセイストの松尾貴史さんが登場すること。そして,生誕130年となる宮沢賢治の作品と金沢の3文豪の1人泉鏡花の作品を組み合わせていた点が見所でした。
前回も同様でしたが,シンプルな朗読の世界に音楽が加わっていた点も特徴でした。今回の会場は金沢21世紀美術館のシアター21で,前回の石川県立能楽堂よりも自由度が高かったせいか,ダンス,生け花,人形などより多彩で実験的な試みが加わっていました。
この朗読ライブイベントですが,8月1日に素朗読,8月6日に松尾さんが加わっての朗読ワークショップといった事前イベントも色々行われていたようです。本公演の方も8月8日,8月9日の2日間で3回実施。私は最終公演だけに参加してきましたが,チラシを眺めるだけで,創意工夫に溢れているのが実感でき,戸丸さんの熱意がそのまま伝わってくるような企画だと思いました。内容は次のとおりでした。
2026年8月8日(土)1回目14:30~/ 2回目18:00~ / 8月9日(日)13:00~
金沢21世紀美術館シアター21
■第1部 宮沢賢治:青い照明
1) 注文の多い料理店 序(朗読:戸丸彰子/ダンス:ダンスドライブ・ゼロ)
2) 春と修羅 "mental sketch modified"(朗読:松尾貴史/パーカッション:岡部洋一/映像:モリ川ヒロトー)
3) パフォーマンス:天気輪へのオマージュ(花:曽我部翔/パーカッション:岡部洋一)
4) 銀河鉄道の夜(朗読:戸丸彰子,松尾貴史/ピアノ:鶴見彩)
■第2部 泉鏡花:鏡花水月
5) おばけずきのいわれ少々と処女作/一寸怪(朗読:松尾貴史)
6) パフォーマンス「鏡花幻想」(ダンス:北井千都代/パーカッション:岡部洋一)
7) 草迷宮(朗読:戸丸彰子/ダンス:北井千都代/花:曽我部翔)
8) 海神別荘(朗読:戸丸彰子,松尾貴史/ピアノ:鶴見彩/映像:モリ川ヒロトー)
※作品はすべて抜粋
会場のシアター21は壁も床も黒で残響も少ないので非常に集中して各作品を味わうことができました。朗読のお二人は客席のすぐそば,ピアノ,パーカッションなどは奥に配置していましたが,それぞれクリアに音が聞こえ生演奏ならではの臨場感がありました。

全体の構成は前半が宮沢賢治作品,後半が泉鏡花作品の朗読でしたが,それぞれの作家の個性が実感できました。宮沢賢治作品は,用語自体は結構堅いのですが,それが賢治の真面目さや純粋さを伝えているようでした。特に『春と修羅』の序文に出てくる「わたくしという現象は仮定された有機交流電灯のひとつの青い照明です」という一節。この部分は,松尾貴史さんの低音にぴったりでした。松尾さんは,他の朗読の時も手振りを結構入れていましたが,それが「伝えたい」という熱さとして伝わってきました。
一方,泉鏡花作品の方には,ホラー・怪談的な味わいがありました。特に最後に読まれた『海神別荘』は元々戯曲ということもあり,松尾さんと戸丸さんが台本を読み合わせするような面白さを感じました。戸丸さん高めの声で,松尾さんの声と対照的だったので,ドラマがより明確に伝わって来て,ラジオドラマなどを聞いているような感じでした。
両作家の作品には,どちらも幻想的な雰囲気があるのですが,方向性が違っているのが面白かったですね。
今回のライブでは2人の朗読以外に色々なアーティストが参加していたのも特徴で,一つとして同じスタイルがありませんでした。前半最初の『注文の多い料理店 序』では,戸丸さんの朗読+ダンスドライブ・ゼロ所属の2人のジュニア・ダンサーが登場。瑞々しい雰囲気を盛り上げていました。
『春と修羅』は,上述のとおり松尾さんのナレーション+岡部洋一さんのパーカッション+モリ川ヒロトーさんの映像。岡部さんのパーカッションは単純な「太鼓の音」という感じではなく,色々な技を駆使して不思議な音を作り出し,モリ川さんの映像と一体になってイメージを大きく広げていました。
『パフォーマンス 天気輪へのオマージュ』は曽我部翔さんの花いけ+岡部さんのパーカッション。次の『銀河鉄道の夜』に出てくる「天の川」のイメージにつながるような花のオブジェを作っていく過程を見せてくれました。最後にぐっと紐を引っ張って,引き上げると天の川っぽいものになる,という趣向が楽しかったですね。結構ワクワクして見守ってしまいました。

そして前半最後の『銀河鉄道の夜』は,戸丸さん,松尾さんの朗読+鶴見彩さんのピアノ。物語のイメージに合ったクラシック音楽を鶴見さんは演奏していましたが,とても純粋かつクリアな音の世界が広がり,宇宙的なスケールのある物語にクールで詩的な味わいを加えてくれました。上記の曽我部さんの花も物語全体のシンボルのように感じられました。
朗読の方はメインが戸丸さんで,要所で松尾さんが登場していまた。ジョバンニとカンパネラはどちらも子供なので,戸丸さんの声にぴったり。配布されたプログラムの「作品紹介」によると,戸丸さんは『銀河鉄道の夜』の第4次稿では削除された「セロのような声」のグルカニロ博士への思い入れが強いようで,その声を松尾さんが担当していたようでした。今回朗読を聞いて,『銀河鉄道の夜』の物語には,仏教というよりはキリスト教的な気分も漂っているなぁと思いました。昔から,この物語の内容については「どうもよく分からない…」という印象を持っていたのですが,今回のような生き生きとした朗読で聞くと,賢治が大切にしていた「利他の精神」を宗教的な気分を交えて描いたていたのだなぁと実感しました。
後半は鏡花の世界。最初は松尾さんによる「素の朗読」。今回のように色々なスタイルの朗読が並ぶと,スタンダートな朗読も良いなと思いました。上述のとおり,鏡花の物語には,怪奇物語やホラーの味わいもあるので,その世界への絶好のイントロダクションになっていました。
北井千都代さんのモダンダンスと,岡部さんのパーカッションによるパフォーマンス「鏡花幻想」で気分を盛り上げた後,『草迷宮』は戸丸さんの朗読+北井さんのダンス+曽我部さんの花。元々はかなり長い小説なので,産婦と赤子が亡くなった惨事の部分を抜き出して怪談のような世界を味わわせてくれました。
最後の『海神別荘』は,松尾さんと戸丸さんの朗読+鶴見さんのピアノ+モリ川さんの映像。上述のとおり,お二人の見事な朗読でドラマティックでロマンティックな世界が広がっていました。海の底に下りていく時にしっとりと演奏されるアルビノーニのアダージョとか,ドラマティックな部分で鳴り響くラフマニノフの「鐘のエチュード」とか,ここでも鶴見さんのピアノが素晴しい効果を上げていました。
「海の底の宮殿に住む美男」+「地上から海の底に下りていく美女(動物に変身)」という主役2人の組み合わせについては,ディズニー映画などでもおなじみの『美女と野獣』とちょっと設定は似ている気がしたのですが,違うのが悲劇的な結末。この作品を金沢でオペラ化する話を聞いたことがあるのですが,ぴったりな素材なのでは(オペラには単純なハッピーエンドは少ないので)と思いました。そしてこの演目でも,曽我部さんの花がイメージを大きく盛り上げていました。物語の見せ場である,蛇のイメージを花で見せてくれました。具象的に蛇を表現している分けでは無かったのですが,モリ川さんの映像の効果と合わさって,凄みのある世界を体感させてくれました。

というわけで,見応え,聞き応え十分の「朗読ライブ」でした。続編があれば,また聴きに来たいと思います。
