シンデレラ・ブラックドレス 第0話|プロローグ、魔法が解けたあと、彼女は本当に幸せだったのか
【あらすじ】
シンデレラは、王子様と結婚して幸せになりました。けれど、めでたしめでたしの翌日から、暮らしは始まります。最高級の寝具では眠れず、王宮の食事では緊張し、優しい王子様にも言えない不満がある。安物の毛布、厨房のまかない、洗濯場、ガラスの靴、カボチャの皮、通信石。王妃になったシンデレラは、王宮の中で少しずつ自分の居場所を作っていく。そして最後に、黒いドレスを選ぶ。それは暗くなったからではなく、綺麗なところだけ見せるのをやめるためだった。童話の続きを生きる二人が、何度も「めでたしめでたし」を作り直していく物語。
舞踏会の扉が開いた瞬間、広間の空気が少しだけ止まった。王妃となったシンデレラが、黒いドレスを着て現れたからだ。
黒。
けれど、ただの黒ではなかった。
燭台の光を受けるたび、布の奥に薄い銀灰色が揺れる。夜の黒というより、灰を抱いた黒だった。
誰かが小さくささやいた。
「王妃様が、黒を……?」
「何かあったのかしら」
シンデレラは、その声に気づいていた。
気づかないふりをして、背筋を伸ばした。
そこへ、薔薇色の扇を持った若い夫人が近づいてくる。
「王妃様。王子様は、本当にお優しい方ですわね」
その声は甘かった。
けれど、砂糖の奥に細い針が隠れていた。
シンデレラは、一度だけ王子の方を見た。
王子は何も言わず、少しだけうなずいた。
だからシンデレラは、微笑んで答えた。
「優しいです」
そして、少しだけ続けた。
「でも、予定を共有するのは下手です」
一瞬、扇の音が止まった。
その沈黙の奥から、やわらかな笑い声が聞こえた。
「まあ」
人垣の向こうから、マグノリア夫人が現れる。
「うちの夫も、そうですわ」
その一言で、張りつめていた空気が少しだけほどけた。シンデレラは、初めて社交界で息を吸えた気がした。
これは、シンデレラが「めでたしめでたし」の続きを生きるために、少しずつ素直になっていく物語。
そして王子様と二人で、何度も「めでたしめでたし」を作り直していく物語である。
次回:シンデレラ・ブラックドレス 第1話|王妃様、安物の毛布を所望する
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