【飛んでイスタンブール】勝手に名曲考察――ジタンの空箱と、1978年の「飛ぶ」空気。
今朝から、なぜかこの歌が口をついて出てくる
サビの「飛んでイスタンブール~~」のところばかりを歌っている
私の中では未だ、ゴールデンウイーク=海外旅行なのだろうか
GWの風物詩といえば、
空港の出入国ラッシュと高速道路の大渋滞だったけれど、
今はどうなのだろう?
最近はTVを見ていないので、わからない
初めて歌詞をちゃんと見て驚いた
まず、
サビの入りは「おいでイスタンブール」で、
「飛んでイスタンブール」では無かった
タイトルが「飛んでイスタンブール」なのに、だ
なんだか、もったいぶっているように感じるなあ
それに、
「ひと踊り風の藻屑」
この歌詞は初耳だ
「だから愛したことも ひと踊り真昼の夢」と記憶していた
海の藻屑ならわかるけど「風の藻屑」は耳馴染みがないものね
聞いているはず、なのに記憶には残らなかったのだろう
それにしても、「飛んでイスタンブール」というタイトルがなんとも秀逸だそもそも「飛んで」は何の「飛んで」なのだろうか?
【1978年は「飛ぶ・とんだ」奇跡の年だった】
「飛んで」という言葉から、すぐに思い出す有名どころを調べると
漫画『とんだカップル』(柳沢きみお)
連載開始:1978年(昭和53年)3月
翌1979年に講談社漫画賞を受賞
1980年の実写映画・ドラマ化で社会現象とも言える大ブーム
楽曲『飛んでイスタンブール』(庄野真代)
リリース:1978年(昭和53年)4月1日
楽曲『夢想花』(円広志)
リリース:1978年(昭和53年)11月21日
「飛んで飛んで飛んで…」の強烈なフレーズで、
同年10月のポプコンでグランプリを受賞
年末から翌年にかけて大ヒット
見事なまでに1978年に「飛ぶ」が集中しているというこの面白い事実
当時の日本全体が、何かから「飛んで」しまいたいような、
そんな上ずった活気や時代の空気があったのだろうか
この後のバブル景気への離陸の年であったのかもしれない
ちなみに、
復刻や映画で近年大ブームとなった漫画『翔んで埼玉』(魔夜峰央)は
発表年:1982年(昭和57年)の冬
1978年の「飛ぶ」ブームからの
パロディ的なニュアンスを含んでいるように思う
【重苦しさからの脱却と「軽やかさ」】
精神的な「飛ぶ」:
この年を境に日本のカルチャーは劇的に「軽く、明るく」なっていく
70年代前半の学生運動の終焉や
オイルショックからの経済が回復しつつある時代背景もあり、
若者たちは政治や重いテーマより
個人の楽しみやファッションを重視するようになる
歌詞との見事なリンク:
「ひと踊り風の藻屑」「うらまないのがルール」「あきらめきれるひと」
これらの歌詞は、熱く執着するのではなく、サラッと受け流すような、
「ちょっと冷めていて、でもスタイリッシュで都会的な大人」という
当時の憧れを見事に表現している
「飛んでイスタンブール」という現実離れしたエキゾチックな響きも、
日常のしがらみから
飛んでしまいたい人々の気分にジャストミートしたのだろう
物理的な「飛ぶ」:
成田空港(新東京国際空港)の開港が、この年の5月だ
「ジャンボジェット機に乗って海外へ飛ぶ」ということが、
一部の富裕層のものから、
手が届きそうな大衆のレジャーへと変化していった
余談だが、
この後「エキゾチック旅行シリーズ」は歌謡界で続く
『魅せられて』(ジュディ・オング)
リリース:1979年(昭和54年)2月25日
「エーゲ海」という言葉が鮮烈で
この年の日本レコード大賞を受賞している
『異邦人』(久保田早紀)
リリース:1979年(昭和54年)10月1日
サブタイトルは「シルクロードのテーマ」
中東のバザールや砂漠を思わせるエキゾチックなメロディが大ヒット
1978年の成田空港開港で
ハワイやグアムといった身近なリゾートからはじまった海外旅行は
翌1979年になると、
「ロマンチックで神秘的な国、ちょっと謎めいた異国」へと
猛烈に惹かれていった
けれど、ここで気になるのは、
『魅せられて』はワコールの、『異邦人』はSANYOテレビのCMだ
つまり、どちらの曲もタイアップがあり
「魅惑の海外」に憧れを抱くよう消費者に仕向けられていた……
のかもしれない
【キーワードは「ジタンの空箱(からばこ)」】
いったい「ジタン(Gitanes)」とはどんなタバコなのか?
フランスの歴史ある有名なタバコ:
青いパッケージに、
扇を持って踊るジプシー(スペインのロマ族)の
女性のシルエットが描かれた、非常に芸術的で美しいデザインをしている
独特の強烈な匂いと味:
「黒タバコ」と呼ばれる種類で、
葉巻に近いような、
堆肥や発酵したような独特の強い香り(クセ)と重さがある
日本の一般的なタバコとは全く違う風味
芸術家やアウトローの象徴:
フランス本国では、ジャン・ギャバンなどの映画俳優や、
セルジュ・ゲンスブールなどのミュージシャンのタバコとして知られている
日本のキャラクターでの愛煙家:
『ルパン三世』のルパン三世や、
『紅の豚』のポルコ・ロッソが挙げられる
1978年当時、
外国産のタバコ(洋モク)は今よりもずっと特別で高価なもので、
その中で、わざわざ匂いのキツい「ジタン」を吸っている男
それは間違いなく、
朝から満員電車に乗るような一般的なサラリーマンではないだろう
音楽関係者、デザイナー、あるいは夜の街で生きるような、
只者ではない「少しワルぶっていて、キザで、
でもたまらなくお洒落な男」だ
さて、前置きが長くなってしまったが(笑)考察してみよう
【いつか忘れていった こんなジタンの空箱(からばこ)
ひねり捨てるだけで あきらめきれるひと
そうよ みんなと同じ ただのものめずらしさで
あの日しゃれたグラス 目の前にすべらせて
くれただけ…】
主人公は、夜の街に身を置く女
彼女の働く店『イスタンブール』に
客としてフラッと現れた『ジタン』を吸う男
男の席につくと
『しゃれたグラス』を『目の前にすべらせて』すすめてくれた
いつしか、
ちょっとキザで、アウトローな男の匂いを愛してしまった女
だが男は
『ジタン』に描かれるジプシーのようにフラッと去って行ってしまった
【おいでイスタンブール
うらまないのがルール
だから愛したことも
ひと踊り風の藻屑
飛んでイスタンブール
光る砂漠でロール
夜だけの パラダイス】
客としてでもいいから、あなたに会いたい
お水の世界のルールはわかっているわ
だから、あなたを愛したことも
ひと踊りを楽しんだ程度のことと思わなくちゃね
あなたのことだから、またフラッと現れるかもしれない
現実のイスタンブールに砂漠はないけれど、
きらびやかなミラーボールが回るこのフロアが、光る砂漠ね
今夜もこの楽園であなたを待っているわ
『飛んでイスタンブール』
作詞:ちあき哲也 作曲:筒美京平
あるいは……
ジタン氏に「(借金やトラブルで)飛ばれ」てしまって、
残された女はミラーボールが回る架空の砂漠で
お酒やネオンの幻覚に酔って
「ロールしている(転がる、さまよう、あるいは酔い潰れる)」。
なんて、ハードボイルドな大人の解釈もいかがでしょうか?
