PCにシールを貼りたかっただけなのに | 50代主婦、AIに騙されて店主になる
第1章:PCを新調しただけなのに
PCを新調しただけなのに、私の人生は思わぬ方向へ舵を切り始めていた。
50代、主婦。そんな私の日常に、ある確かな決意とともにやってきた銀色の相棒。それは単なる買い物ではなかった。ブラックフライデーを目前に控え、スペックと予算を睨みつけ、画像生成AIという未知の世界に耐えうるマシンを計算し尽くして手に入れたのだ。
まっさらな天板を見つめながら、私はある「憧れ」を思い出していた。カフェで見かける若者たちのPC。その天板を彩る個性豊かなステッカー。「かっちょえー……。私も、あれやってみたいわー」。しかし、あんな「かっちょええ」シールがどこで売っているのか、私は知らない。
えーい、知らないなら自分で作れないものか。半分あきらめモードでAIに聞いてみた。「シールって、自分でも作れる?」。返ってきたのは「作れますよ。お調べしますね」という、あまりに軽やかな答え。……え、作れるのかーい!
その一言に背中を押され、私は一か月かけてAIと一緒に生み出した「いちごちゃん」の画像を手に取った。これを貼れば、このPCは私だけのコクピットになる。シールを1枚作るだけ。それだけの、はずだった。けれど、その時の私はまだ知らなかった。このささやかな愛着が、ミドルエイジの私を誰もいない空へと誘う、未知の冒険への招待状になっていた。
第2章:AIに透過コツを聞いただけなのに
AIに透過のコツを聞いただけなのに、事態はさらに予想外の方向に転がり始めていた。
画像はできた。けれど実物のシールにするには「背景透過」という壁が立ちはだかる。四角いシールのままじゃ「かっちょえー」天板には似合わない。いちごちゃんの形通りに切り抜きたい。けれど私にはその技術がない。
困った時のAI頼み。私は画面の向こうの「全知全能(だと思っていた)相棒」に尋ねた。「背景をこうしたいの。どうしたらいい?」。AI(Gemini)は魔法使いのようなトーンで答えた。「大丈夫。備考欄に細かく指示を書けば、向こうのプロがよしなにやってくれますよ」。
私は信じた。エディターとしての全精力を注ぎ込み、「夜空とビルを透過し、火花の光は自然に残して」と、プロ顔負けの指示書を備考欄に書き込んだ。よし、完璧。あとは届くのを待つだけ。そんな幸せな余韻を切り裂いたのは、一通のメールだった。
「備考欄のご要望にはお応え出来かねます……原則キャンセルとさせていただきます」。えーーー!話が違うじゃーん!AIの「行ける」は、現場の「ムリ」だったのだ。AIの嘘と、私のチェックの甘さと、印刷所の良心。それらが三つ巴になり、私の注文は跡形もなく消え去る事態になっていた。
第3章:サイトを隅々まで調べただけなのに
サイトを隅々まで調べただけなのに、私の「お買い物」は全く別の意味を持ち始めていた。
キャンセル通知を見つめながら、私は唇を噛んだ。「AIは嘘をつく。そして、私のファクトチェックも甘かった」という苦い現実。でも、いちごちゃんを天板に貼る夢は諦めきれない。私は意地になり、UP-Tのサイトを隅から隅まで、それこそ規約の一文字一文字まで読み込み始めた。
ミドルエイジ(←おばはん)の執念は、我ながら凄まじい。失敗の原因を突き止めようと画面を凝視していた私の目に、思いも寄らない文字が飛び込んできた。「……え、これ、自分で店を開けることができるの?」。
そこにあったのは、在庫を持たず、初期費用もかからず、画像ひとつあれば誰でも自分のショップを持てるというシステムだった。ただの客としてシール1枚を注文しようとしていたはずの私は、いつの間にか「ネットショップの仕組み」を熟読し、その可能性に胸を高鳴らせていた。
ただ「失敗の理由」を検証していたはずの指先は、いつの間にか新しい世界へ繋がる扉を力任せにこじ開けることになっていた。
第4章:ただシールを貼りたかっただけなのに
ただシールを貼りたかっただけなのに、いつの間にか私は、UP-TとSUZURIという二つの店を構えるオーナーになっていた。夜な夜なPCに向かい、瞳を輝かせる私を見て、家族は「一体、どこへ向かってるの?」と完全に呆れ顔である。
一年前には想像もしてなかった操縦席。計器の読み方も怪しいし、副操縦士であるはずのAIも、自信たっぷりにたまに航路を読み間違える。そこに疑わず乗ってしまうと「あらーー、ここどこ」という事態に陥り、びっくりしたこともあった。
だから、操縦はオートにはしない。マニュアルで操縦桿をぎゅっと握り、必要なところはGeminiやChatGPTに投げかけて、納得がいくまで話し合う。今のところ、これが最適解。これが今の私のやり方だ。
確かに私のPDCAはめちゃくちゃに転がった。けれど、このカオスな航路こそが、私を新しい場所へと連れてきてくれた。計器の読み方も怪しいけれど、この飛行機の行き先を決めているのは間違いなく私自身なのだけど、気づけば店主になっていた。
なぜなんだろう???

👇 空想の街の記録(note)
シールを貼りたかったMeiMeiの末路はいかに!
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