【無料記事】半笑いの映画評(2025年8月その②)
「ジョー・ブラックをよろしく」(1998年、アメリカ)
死神がブラッド・ピット演じる容姿端麗な青年の身体を乗っ取り、死を目前にする実業家のもとへ人間界のガイドを頼みに現れる。しかし偶然にも、その実業家の娘と、身体を乗っ取られる前の青年はその日の朝にカフェで出会っており、娘はそこでの軽妙なやり取りですっかり青年の虜になっていた。もちろん中身が変わっていることは知らない娘は、恋愛の続きを望むのだが…という話。
申し訳ないが、正直めちゃくちゃイヤな映画だった。冒頭のカフェでのブラピの会話は、ウィットに富んでセクシーで、そりゃ一目惚れするよな、という感じだったが、その「まだよく知らない青年」と二度目会った時は中身が人間界よく分かってない死神に入れ替わっているので、子供のような稚拙な振る舞いの連続。これは百年の恋も醒めるわ、という酷さなのだが、なぜか娘はずっと惚れたままで、そして何千年も生きていて人間なんか好きにならないはずの死神も、なぜか今回だけは夢中になって身体の関係まで持ってしまう。娘側も結局容姿だけに惚れてたとすれば薄っぺらい恋愛だし、そして死神の側は自身に容姿なんて無い、そういう外的なものを超越した存在のはずなのに、その娘だけに恋をする理由もわからず、薄っぺらさに拍車を掛けている。
実業家の経営や人生の哲学のメッセージがほぼ唯一の救い、という感じ。その実業家を演じているのが「羊たちの沈黙」レクター博士のアンソニー・ホプキンスで、その深みのある演技はとても良かった。
「ワールド・ウォーZ」(2013年、アメリカ)
ブラッド・ピット演じる元・国連職員の男性が、家族でドライブ中に急に街中でパニックに巻き込まれる。そのパニックの源はゾンビの来襲で、家族を連れて逃げた男性のもとへ、以前の職場=国連の幹部から救助の申し出と復帰の要請が届く。家族を守るために職務復帰を余儀なくされ困惑する男性だが、世界を席巻するゾンビを制圧すべく米軍と国連が協力して対策している、その最前線へと飛び込んで行く。
本当に申し訳ないが、これもめちゃくちゃ嫌な映画だった。途中で赴いたイスラエルでゾンビ集団に襲われ、なんとか逃げて飛行機で欧州へ向かう際に、ゾンビ攻略の糸口を掴んだブラッドピット(演じる男性)は機内の電話で国連幹部へ欧州のウィルス研究所の協力要請と空港着陸許可を依頼するのだが、この際にどうした?と聞かれても「とにかく急いで頼む」という具合で詳細は伝えないのだ。社会人として、特に組織で働く社会人として、最悪の態度だ。こんな特殊な状況で、それこそこいつも死ぬかもしれないのに、知り得た情報を即座にすべて開示しないのは”悪”でしかない。せっかく研究所の協力を取り付けても、仮に飛行機が墜落して唯一その解決策を思い付いた男が死んでしまえば、完全なる無駄であるうえに救えたはずの人命を大量に失う可能性すらあるだろう。結局「主人公だから死なない」という主人公補正でこいつだけは絶対に死なない前提で周囲も対応するのも、見ていてイライラする…という程ではないが、まあ不自然だ。
そして実際に、この飛行機は墜落する(おい!)。正確には、機内に入り込んだゾンビを退治すべくブラッドピットが手榴弾を投げ付けて爆発させて、墜落させたのだ。本人だけは手榴弾投げてるんだから墜落に対して対策できるが、大多数の乗客は不意の墜落で姿勢や装備なども全く準備できていないのだからかなり酷い話で、この時点でこの主人公はほぼ「大量殺人者」と言って良いのではないか。そしてなぜか、どういう経緯かも描かれていなかったが、国際空路から墜落したのにブラッドピットは生きている。機内に運び込んだ、ゾンビに噛まれたが感染していない?と思しき、重要な研究対象になり得る女性兵士も生きている。百人以上の他の乗客はすべて死滅し、この重要人物2人だけが自力で動けるほど元気に生き残るのだ。
以下、さらに嫌なことを記すので、読みたくない方は次項へどうぞ。
個人的には、映画を観ていて「ヒーローとその”仲間”だけが都合良く生き残る」奇跡に感動できる人は異常者だと思う。ほとんどの人間はモブとして犠牲になる側なのに、よほど自分が主人公側だと思い込めるタイプなのだろう。
もちろん映画だからこそ”あり得ないヒーロー”側に自身を投影して、或いは純粋に憧れて留飲を下げるのを否定はしないが、穿って見ればこういう「モブの大量死を何とも思わない」ような感性が、心無い誹謗中傷やリンチに繋がると思う。特にこの映画は「大量の名もない民衆の命を使い捨てながら、選ばれた才能と立場の人間が無双する」ストーリーの要素が強すぎて、単純に気分が悪くなった。そもそも映画冒頭から「職務のハードさに嫌気がさして家族と過ごすことを選んだのに、復帰を余儀なくされた苦悩」みたいなのが描かれていて、他の人は無条件にゾンビの犠牲になるしかないのに、特権階級として家族ごと米軍の空母に乗れた奴がいっちょ前に悩んだふりなんてするな、としか思わないよね、底辺の庶民としては。
「大量の命を犠牲にしたブラッドピット無双」が見たい人にしかお勧めしない。劇場の大画面で見れば、映像の迫力はすごいんだろうとは思う。
「パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女」(2023年、韓国)
たぶん原題は「特送」みたいな感じ。卓越した運転技術を持つ若い女性ドライバーが、訳ありの荷物や人間を目的地まで手段を問わず送り届ける仕事をしていて、当然次々とトラブルに巻き込まれるという話。韓国で実際に存在するであろう、違法賭博や汚職、暴力団と警察の癒着、そして脱北者問題までがストーリーに落とし込まれている。
前回見た「パラサイト 半地下の家族」で、一家の長女(主人公の妹)役を演じていたパク・ソダムの演技が見たくて視聴したのだが、今回もクールでカッコよく、想像以上に面白かった。ただ一重瞼のビジュアルのイメージのせいか、主役にするならばどうしても似たような「スマートでカッコいい」系しかないのだろうか、というのは気になるところ。今後もいろんな主役の彼女が見てみたい。
「折れた矢」(2013年、韓国)
大学で正義を貫いたある教授が、そのせいで職を追われ、その不当解雇を無効とするための裁判でも、明らかに不当に敗訴し再審も棄却される。その元・教授が、担当だった裁判官の自宅へと赴き、クロスボウを向けながら抗議し、正当な裁判を要求したのだが、裁判官は「クロスボウで撃たれた」と被害を提出し、元・教授は逮捕される。前代未聞の「司法へのテロ」として司法関係者全員を敵に回してしまったが、元・教授は実は矢は放っていないと主張し、弁護士の活躍もあり次第に世論も変わっていく。
被告である元・教授が、自分で法律を研究して裁判の方針を決めて行き、弁護士は「あくまでも自分の裁判の補佐」と位置付けて進めるので、時には衝突し時には協力する関係性も見どころのひとつ。個人的には、アル中のダメ弁護士がいきなり話題の訴訟の最前線に駆り出されて大活躍、みたいなのは「んな訳あるかい!」と思ってしまうのだが、実はこれは実話に基づいているとのことで、それも興味深いところ。そして実話だけに最終的な着地も”すべてを覆す鮮やかな大逆転”とまでもは行かないのだが、それもリアルなところなのだろう。
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