見出し画像

社長は泣いていた ― すべての創業社長が、一人で背負っているもの

社長は泣いていた。

先日、ある案件のクロージングがあった。

私は本件をバイサイドのFAとして支援した。売り手と買い手がもともと知り合いで、取引のあった間柄だったこともあり、友好的なムードのまま終始進んだディールだった。

印象に残っているのは、買収監査(DD)の時期に、親睦を深めるために設けた、売り手社長との面談を兼ねた会食だ。

その席で、売り手の社長が初めて本音を話してくれた。

そして、涙を流した。

彼は株式を100%保有する創業社長だ。今回のスキームは事業承継ではなく、会社に資金を注入する形の資本業務提携だった。

彼は創業からすべてのリスクを背負い、個人保証を抱え、親族や家族を守るプレッシャーと戦いながら、それでいて家族や親族には心配をかけまいと振る舞ってきた。従業員や取引先に対しても、終始誠実だった。従業員の処遇ひとつとっても、本当に慎重に考える人だった。

逆に言えば、それを全部、彼が一人で背負ってきたということだ。

社長は会食の席で泣いていた。

おそらく、信頼できるパートナーを得て、気持ちがほっと緩んだことによる安堵の涙。
そして、自ら立ち上げ育てた会社の大株主の席を譲る——本音を言えば、経営者としての悔しさもあったかもしれない。
わが子を送り出すような寂しさもあったのかもしれない。

月並みな言葉では語り尽くせない。本当に複雑な感情が入り混じった、本人も戸惑っているような涙だった。泣こうと思って泣いたのではない。自然に溢れ出てきた涙だった。

私もハンザ・アドバイザーズを創業して、ちょうど1年が経った。

M&Aの世界で13年、VCも含めたアドバイザーとしてのキャリアは15年を超えた。だが、自社を創業した株主として、代表として、今になって初めて、この社長の涙の意味を本当の意味で理解できた気がした。

経営者であり、株主であり、すべての重責を一人で担う創業社長のプレッシャー。それを腹の中に抱えたまま、資金調達も、資本提携も、M&Aも、一人で意思決定していく。

その裏側には、大切な家族や親族がいて、銀行からの個人保証がある。一歩でも気を緩めたり、道を誤れば、関係者すべてを路頭に迷わせてしまう——それくらいの重さだ。

言葉ではわかっていた。だが、自分の身になって、初めて体感としてわかった。

売り手の社長が、こんな本音を打ち明けてくれたこと。本当に嬉しかったし、背筋が伸びる思いだった。会食は「絶対にこのご縁を成功させ、2社を大きく成長させていこう」という、力強い決起の場として終わった。

改めて思う。すべての創業経営者は、こういう気持ちの中で、M&Aや資本政策、資金調達を意思決定しているのだということを。

そこに、軽い気持ちのディールも、いつも通りのディールも、一つもない。

我々アドバイザーは、セルサイドでもバイサイドでも、その人の人生に一度しかない意思決定に、最大限寄り添わなければならない。この涙と、今日の会食を受けて、決して気を緩めてはならないと感じた。重要な一日だった。

改めてになりますが、今回の良縁に携わらせていただけたこと、深く感謝申し上げます。

両者の今後のさらなる発展に向けて、いっそう精進して参ります。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

いいなと思ったら応援しよう!