見出し画像

駅の向こうにある会社

セール期間を逃してしまったので、60枚×6パックで2,700円、つまり1枚あたり7.5円はやむなしと受け入れて到着を待っていた洗顔用の使い捨てフェイスタオル、開封してみるとなんと9パック転がり出てきた。あれ?あれれ?注文履歴と記憶を遡ってみると、60枚の6パックをカートに放り込む際に+820円のオプションを追加していて、それはてっきり厚手を選択するオプションだと思い込んでいたのだけれど、あれはプラス3パックの9パックセットを選択するオプションだったもよう。厚手には間違いはなく、思っていたより3パック多く手に入ってしまった。歓喜!わかりにくい表示(もしくはわたしの節穴のごとき目)、ありがとうございます。つまりセール期間でなくとも1枚あたり5円で手に入れられたということで、勘違いに加勢されてなんだかすごくお得な気分になっており、自分で自分がめでたい。9パックならば1年半もつ計算で、わぉ!まもなくこの春が過ぎ去って暑すぎるに違いない夏を越えて、短い秋が過ぎて冬になって、また春が来て、次のますます暑くなるに違いない夏の終わりの頃になってもまだまだ残ってるってこと?!し、信じられない。

定期的に思いだす忘れられないエレベーター物語がある。あれは2022年の年の瀬。忘れもしない仕事納めの日のことであった。当時勤めていた会社と同じフロアにある別の会社の男性と下りのエレベーターに乗り合わせた。

「仕事納めですか?」
「ええ、そうです。そしてわたしは今日でここに来るのも最後です。」
「退職されるんですね。」
「はい。年明けからは駅の向こうにある会社に移ります。」
「こちらにはどれくらい勤務されていたんですか?」
「1年半です。その前は関東でずっと働いていたんですが、両親も高齢になりましたし、いずれは地元にと思っていて、こちらの会社に拾っていただいたというか。短い期間でしたけど、ここには本当にお世話になって。」
「そうでしたか。お疲れさまでした。ご活躍をお祈り申し上げます。」

ピコンと1階に到着。エレベーターが6階から1階に降りるまでの数秒間で示し合わせたように完璧な尺で会話のラリーをこなし、降りたエレベーターの前で旅立ってゆく推定55歳のナイスミドルをお見送りする仕事納め。おそらく初めて言葉を交わしたナイスミドルの今後の活躍をお祈りする仕事納め。時間は15時頃。わたしの会社はまだ大掃除の途中であと2時間は帰れそうにないけれど、辞める会社の悪口を云うでもなく軽やかに羽ばたいてゆくナイスミドル、しかしたったの数秒間でなかなかの情報を提供してくださったナイスミドルのオープンマインドがまぶしすぎて生涯忘れ得ぬ貴重なエレベーター物語となっており、今なおこうして度々脳裏にあの数秒間の風景がよみがえる。用事を済ませてエレベーターで6階まで戻り、大掃除の続きを進めて適当に仕事を納めながら、わたしも羽ばたく時にはあんな風にありたいなぁと思ったものである。ほんとうにお世話になったと思うなら一年半で辞めたりするかしら、とその時はほんとうにちっとも思ったりしなかったので、いかにナイスミドルの態度が紳士的であったかという話である。

いわた書店の一万円選書に申し込みをしたので、その時までに積読を消化しておかねばとの焦燥感から読書が捗る2026年は継続中。

11 じゃむパンの日(赤染 晶子)

12 なんらかの事情(岸本 佐知子)

13 自転しながら公転する(山本 文緒)

14 思い出トランプ(向田 邦子) 

15 君は永遠にそいつらより若い(津村 記久子)

16 恋文の技術(森見 登美彦)

17 私はそうは思わない(佐野 洋子)

18 ウエストウイング(津村 記久子)

19 生きるコント(大宮 エリー)

20 現代生活独習ノート(津村 記久子)

21 朝のかたち 谷川俊太郎詩集II(谷川 俊太郎 (著))

美容師さんに「Netflixは絶対に課金して後悔させない」と熱弁されて、まんまと帰ってきたその足でというかその指で、申し込み手続きを済ませ実はずーっと気になって仕方のなかった『地面師たち』を貪るように観ていたらこんな時間。役者さんてすごいな。想定外の残虐さに人に安易にオススメはできないけれども、わたしは一等地の広い駐車場の風景だけで大興奮してしまったので完全にどうかしている。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集