強度のHSP? 学校でも仕事でも、転職をしても消えなかった悪魔の名について
特に反抗期のない人間だった。
わがままを言わない人間だった。
書いていてちょっと怖い。
だから反動で転職が多くなってしまったのかしら。
しかし、わがままを言わなかったはずの子供時代に、特殊な記憶が混入している。さすがにこれはどうだろう……、と思ってしまう。
中学のとき、母親が服を買ってきてくれた。
田舎なので、服を売っている場所は限られる。2か所くらいしか思いつかない。
わたしは「これは嫌だ……」と言った。
少し派手な感じがした。
母は「わかった。返してくる」と言って、買ってきた店へ向かった。
今度は違う服を買ってきた。
わたしは「これも嫌だ……」と言った。
ワッペンが付いているのが目立ってしまう気がした。
母はまた「わかった。返してくる」と言った。
わたしはもう気づいている。
母は、お店の人に返金処理をしてもらっているわけで、一度ならまだしも、何度も同じやりとりをするのは苦痛なはずだ。
メンタルが強いのか、狂っているのか、母は新作を持って戻ってきた。
あ、黒くて地味だからいけるかも。
いや、光ってるボタンがある!
(余計なアレンジするなよ、田舎の服!)
「……これも嫌」
「わかった。返してくる」
わたしの記憶にこの先はない。
ぶち切れられてもおかしくないのだが、そうはならなかった。
記憶の母は淡々としていた。
実際のところはわからないが。
……………………
ここまでを読むと、
なんてわがままなやつだ!
なんてこだわりの強いやつだ!
だったら自分で買いに行けよ!
と思うことだろう。
わたしの心にあったものは、こだわりではない。恐れだ。
外側から流れ込んでくる黒いエネルギー。
同級生たちの目を、異物を探す悪魔の目を、恐怖していた。
少しでも目立てば、悪い気の引き方をしてしまえば、攻撃の対象になる。
町には、同調圧力の悪魔がいる。
空を旋回し、常に獲物を狙う、巨大なカラスのような化け物。
やつらは何が好物かわからない。
あのワッペンかもしれない。光るボタンかもしれない。
脳裏に浮かぶのは、巨大なくちばしで心臓を貫かれるイメージだった。
こだわっているわけじゃないんだ。怖いだけ。
こんなところにいたくない。
わたしはただ怯えているだけの存在だった。
母は気づいただろうか。気づいていない気もする。
でも、まったく気づいていないなら、「これも嫌だ」にぶち切れていたように思う。
同調圧力は、なかなか消えてくれなかった。
県外の大学に行っても消えなかった。
就職しても消えなかった。転職をしても消えなかった。
同調圧力の悪魔は、わたしの胸に移り棲んでいたのかもしれない。
母は、あのとき悪魔と対峙していたのだろうか。
まるで寓話のように「これも嫌だ……」と難題を出す悪魔。
「わかった。返してくる」。あれが悪魔を増大させないための呪文だったのかもしれない。
これだけはわかってほしい。
ぼくはわがままを言ったわけじゃないんだ。
ごめんね。ありがとう。
こんな話をしても、昔のことなんて覚えてないだろうから、近いうちに邪の消えた姿を見せたい。ぼくの家族も連れていく。
それが月日を越えて届く、ごめんね、ありがとう、だと思うから。

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