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休日、子供と出かける場所がありませぬ! 映画感想文「かがみの孤城」

ピンチ!

子供とふたりきりの休日。

やつは無限にYouTubeを観る。

現在、14時半を過ぎている。

なんとか、外に連れ出さなけば。

それなのに、

出かける場所がない――!


◇ ◇ ◇

ふつうの映画感想文なんて書きたくない。

映画を観るって「体験」だ。

アマゾンプライムなどのサブスクで、映画がいくらでも観れる時代になってしまった。

だから、映画館に出かけ、その前後も含めた体験まで書かないと、なかなかオリジナリティを出すことは難しい。

と、思っていた。

「国宝」のときは、尖り過ぎて、映画館にたどり着くまでが8割のすごい記事になってしまった。

それなのに今回は、家のアマプラで映画を観ただけの記事。

そのどこに特別な体験があるのか?

子供と一緒だった。


◇ ◇ ◇

彼は小学校低学年。

放っておくと、YouTubeばかり観る。

ふたりきりの休日は、プレッシャーが強い。

わたしがどこかに連れ出さないと、雑な動画ばかり観て(「音声聞いてるだけで気が狂う(by 奥さん)」)、新しい体験が何もないまま、貴重な休日を消滅させることになる。

子供に対する罪悪感があるし、なにより、ずっと家にいるのは自分自身もつらい。

いつも、かなり頑張って外に連れ出している。

しかし、彼は好き嫌いがあまりにも多い。

食べられるものがほとんどないし、歩くのが嫌だと言うし、新しいことに何も興味を持とうとしない。

行くところがなくて、本当に困ってしまった。

「なにか映画を観に行く?」と聞いてはみるが、答えはわかっていた。彼は映画館の大きな音が苦手。

万事休す……。

いや、待てよ。

映画館がありなら、「家でアマプラを観るのもあり」にならないか?

新しい映画作品を観る。これは立派な体験だ。

「じゃあ、外に行かなくていいから、アマゾンプライムを観よう」と言ったら、子供は了解した。

キラーンとなったわたしは、リモコンを奪いとった。

ポケモンが観たいとか、最強王図鑑が観たいとか、慣れた刺激に逃げようとするので、わたしは「こっちで決める」と言った。

とはいえ、子供が興味を持てる映画でないと意味がない。

おすすめアニメ映画をスクロールさせていく。

自分も楽しめて、子供も観れそうな、未知のアニメ。

ルックバック、秒速5センチメートル……。

観てみたいけど、相手が秒速100センチで飽きそう。

急げ。

早く決めないと、もう嫌だと言い出す。

「かがみの孤城……?」

絵柄的に、タイトル的に、これでいい気がする。

なんの話かまったくわからないけど、

「これはぜったいにおもしろい」

わたしは断言した。

こうして、突発的に「かがみの孤城」の親子鑑賞会がはじまった。

◇ ◇ ◇

暗そうな中学生の女子が主人公。

不登校の話か……。

ちょっと重いかな。

不登校の家庭の描写が妙にリアル。

主人公が昼間にひとりで部屋にいると、突然、鏡が光り、そして異世界へ。

ちょっと悲しい気持ちになった。

現実は厳しいよな。

やっぱりこういう状況はファンタジーでしか救えないのかな……。

子供が「こういう感じ嫌だ」と言い出す。

「まだはじまったばかりでしょ」

軽くいなす。

言葉とは裏腹に、そこまで嫌ではないのがわかる。

彼は、YouTubeに慣れすぎて、集中力が5分以上続かないのだ。

ここを乗り越えないと、ストーリーのある作品を楽しむことができない。

「ほら、なんか狼のお面をかぶった人が出てきたよ」

「かがみの孤城」も負けていない。

飽きさせないように構成の工夫がある。

異世界のお城に、主人公を含め、7人の中学生が集められる。

「狼のお面の子」からゲームが告げられる。

この城に隠された鍵を見つけることができたら、どんな願いも叶えることができる。ただし、ひとりだけ。

謎だらけのゲーム設定。

中学生たちは、興味のなさそうな素振り。

しかし、彼ら彼女らには、それぞれの叶えたい願いがあった。

みんなが悩みを抱えている。

徐々に明かされるそれぞれのドラマ。参加者たちの意外なつながり。

7人もの人間にドラマがあって、それがつながってるだなんて、最高にワクワクする。

物語の広がりが無限大だ。

そう、この作品は上質なミステリーなのだ。

それもそのはず。原作者がミステリー作家の辻村 深月なのだから。

アマプラの作品概要のテキストで、わたしはその情報をとらえていた。

物語の構成の妙が加速する。

子供がちょっと飽きてきて、ブロックの日輪刀をいじりだした。

「これ、くっつかない。なんとかして」
「えっ、これ無理だよ。力入れてもはまらないもん。今、映画観てるから」

子供は、刀鍛冶と視聴者の二足の草鞋になり、彼にとって、ちょっとイレギュラーなこの状況に適応しようとする。

「刀、なんとかしてよー!」
「今、映画観てるから!」

映画がおもしろくてそれどころじゃない。

いける……

鑑賞会を最後までやりきるぞー!

子供が一時停止ボタンを押す。

「まだ一時間もある……」
「いいから!」

自宅を集団で襲撃してくるような悪質ないじめ。

本人の力ではどうにもならない状況がある。

岩盤のような不条理が立ちふさがることがある。

勇気をだせばいい?

違う。

そんなことで打破できるものは不条理ではない。

助けを求めるんだ。

きっと手を貸してくれる人はいる。

なぜわたしなんかを助けてくれるの?

その人も誰かに助けられたことがあるからだよ。

因果は巡る。

君の勇気が世界を変えたのか?

違うよ。君は最初から強かった。ずっと戦っていた。

最初も、最後も、君だ。

君のハイキックが不条理に届いたんだ。

ああ、くだらない世界なんてハイキックでぶっ壊したいな……。

元気づけられた。前向きになれた。

世界はこういうストーリーを必要としている。


――今は5時過ぎだろうか。

出かける場所がない問題はすっかり霧消していた。

子供にお礼を言った。

「(2時間の)映画を見せてくれてありがとう」

一緒に観てくれてありがとう。

目的もなく出かけるよりもずっと楽しかった。

ふたりで観たから楽しかった。

忘れられない映画体験になった。

彼の手元を見ると、修復不能なはずの日輪刀が復活していた。

それ、どうやったん……。

不可能を可能にした修復劇。

どうやら彼の中にもオリジナルな冒険譚があったようだ。

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