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グラジオラスの心|ただ自分の歩幅で、一段ずつ

丘の斜面に、一本のグラジオラスが佇んでいる。

 
まわりの花たちは、春の訪れとともに一斉に蕾を破り、またたく間に辺りを鮮やかな色彩で埋め尽くしていく。その華やかさに、通りかかる誰もが足を止め、歓声をあげる。

 
けれど、この花には、そんなふうに一度にすべてを咲かせる力は最初からない。
天に向かって真っ直ぐに伸びる一本の緑の茎に、下から上へと、順番に蕾が並んでいるだけ。いちばん下の、土に近いところにある蕾から、ひとつずつ、一段ずつ順番にしか花を開くことができない。

 
まわりがまたたく間に満開を迎えていく中で、その歩みはあまりにもゆっくりで、実直だ。
まだ固く閉じている上の蕾たちは、一本の茎に抱かれながら、ただ、まだ見ぬその時を待っている。硬く、小さく、身を縮めるようにして。

 
 
ある雨上がりの午後、いちばん下の蕾が静かにそのはなびらをひらく。
それは、まだ本当にちっぽけで、目立たない最初の一輪だ。

 
一斉に咲く花たちのような派手さはどこにもない。それでも、その最初のはなびらがひらいたとき、そこには確かな変化が訪れる。

 
通りすがりの風が、その小さなお披露目を祝福するように、はなびらをそっとかすめていく。小さな虫が、その最初の一輪を見つけて、静かに羽を休める。

 
いちばん下の花は、ただそこに咲いている。
その一輪の姿は、上の蕾たちにとって、いつか自分にもやってくるささやかな、けれど確かな道標のようだ。

 
いちばん下の花がこうして今をしっかりと咲いていること。
ただそれだけで、この一本の茎のなかには、すでに花を咲かせる力が完全に満ちているという、何よりの証拠だ。

 
一度にすべてを咲かせなくていい。ただ、そのままで。この花の中にある命の営みは、何ひとつ間違っていない。

 
その静かな事実が、一本の茎を通して、上の蕾たちへとゆっくり、ゆっくりと伝わっていく。

 
まわりの景色に、どれだけ先を急ぐ気配があろうとも、この花はただ一段ずつ順番を重ね、ふさわしい時に、その蕾がひらいていく。
その確かな営みに、ただ身を委ねていればいい。

 
 
季節が少しだけ動き、風が夏の色を帯び始めるころ。
先に咲いた最初の一輪に導かれるようにして、そのすぐ上にある二番目の蕾が、静かに、そして前よりも少しだけ大きく花を咲かせる。

 
一度には咲けない。一段ずつしか進めない。
けれど、その階段を、ただ自分の歩幅で、一段ずつ踏みしめていく。
だからこそ、この花は今、誰のためでもなく、自分のためのあかりを灯すことができる。

 
グラジオラスは、自分の命が刻むその確かなリズムを慈しむように、初夏の風にその茎を揺らす。

 
まだ固く閉じた上の蕾たちも、いつか訪れるそれぞれの開花のときを、ただ静かに、そこではぐくんでいる。

 
 


 
 
🌸御礼🌸

皆様のおかげで二個目のコングラボードをいただくことができました🌸
本当にありがとうございます。

皆様からいただいた温かいお気持ちを胸に、これからも私の歩幅で、一段ずつ大切に物語を紡いでいきます。

 


 
▼こちらの記事です🌸


 
 
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hanatoshiki


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